第13話 ナイスバルク
「「「うおおおおおおッッ!!」」」
配信開始○秒で、雄叫びだった。
「どうも! 筋肉攻略ちゃんねる、マッスル坊主'zです!!」
「本日も! 剃り上げた頭と鍛え上げた身体で!」
「攻略していきます!!」
画面に並ぶのは、三人の男。
全員、坊主頭。
全員、上半身裸。
全員、オイルで黒光りする筋肉の鎧。
『来たww』
『今日も画面がうるさい』
『照明いらずの配信』
『筋肉が光を反射して明るいんよ』
ダイゴ「リーダーのダイゴだ! 本日の目標を発表する!」
テツ「テツだ! 目標は十五層!!」
ガンジ「ガンジだ! 狙うは幻の……プロテイン鳥だァ!!」
『出た、プロテイン鳥』
『初見に説明すると、十五層にいるらしい幻の鳥型モンスター』
『肉が超高タンパク低脂質で、食った探索者の回復力が跳ね上がるって噂のやつ』
『討伐例ほぼなし 目撃情報だけが先行してる』
『こいつら三ヶ月ずっとこの鳥追ってる』
ダイゴ「装備は見ての通り! 己の肉体のみ!!」
テツ「武器は拳と!」
ガンジ「ラリアットだァ!!」
『毎回思うけど武器買え』
『三百万の装備より三百万の肉体なんだよなこいつらは』
『実際こいつら素手で十二層まで行った実績あるからな』
三人が入場ゲートをくぐる。
その直後だった。
『……ん?』
『おい』
『後ろ、後ろ!!』
『四人目がいる!!』
三人の後ろに、人型が付いて歩いていた。
いつもの白ではない。
焦茶色。
深く艶のある、まるでオイルを塗り込んだような焦茶一色の人型が、腕を振って行進していた。
『色wwww』
『焦茶www』
『肌の色合わせてきたwww』
『白でも緑でも赤でもなく焦茶』
『こいつらに合わせたのか!?』
『チームカラーに寄せていくスタイル』
『しかも歩き方が完全に行進』
さらに。
焦茶の人型の輪郭が、いつもと違った。
腕が、太い。
胸の線が、盛り上がっている。
棒人間のはずの身体に、明確に、筋肉の主張があった。
『待てww』
『体型まで変えてるwww』
『バルクアップしてる!!』
『ピクトグラムに三角筋があるんだが』
『どこで増量したんだよ』
『画面外にジムがあるのか?』
ダイゴ「ん? コメントが荒ぶってるな!」
テツ「察するに……アレか! 噂の!」
ガンジ「白いピクトグラムか!!」
『知ってた』
『知ってたけど今日は白くない』
『焦茶だ お前らに合わせて焦茶になってる』
『あと筋肉ついてる』
三人は足を止め、顔を見合わせた。
そして。
ダイゴ「「「うおおおおおおッッ!! 歓迎するゥ!!」」」
三人揃って、後方に向かってダブルバイセップスを決めた。
方向は、微妙にずれていた。
焦茶の人型は、自分から三人のポーズの正面へ移動すると――
同じポーズを、返した。
太くなった両腕が、力こぶの形に盛り上がる。
『ポーズ返したwwww』
『ダブルバイセップス(焦茶)』
『応えてくれてるww』
『ナイスバルク!!!』
『ピクトグラムに向かって言う日が来るとは』
ダイゴ「見えんが! コメントによれば、ポーズを返してくれたらしい!」
テツ「良い奴だ!!」
ガンジ「行くぞ四人目ェ!! 目指せ十五層!!」
『四人目認定されたw』
『加入が早い』
『面接なしの即採用』
四人(三人+一体)の攻略が始まった。
五層。通路を塞ぐ大型の猪型モンスター。
ダイゴ「テツ! 正面だ!」
テツ「応ッ!!」
テツが真正面から突進を受け止め、組み合い、投げた。
起き上がろうとした猪の首へ――
横から走り込んだ焦茶の人型の、ラリアットが炸裂した。
猪が、真横に吹き飛んだ。
『ラリアットwwww』
『覚えたてのラリアット使ったww』
『赤の時は投げと打撃だったのに』
『こいつらに合わせて技まで寄せてる』
『郷に入っては郷に従うタイプの怪異』
ガンジ「今、何かが猪を仕留めたな!?」
『四人目のラリアットです』
『首に綺麗に入ってた』
ガンジ「ナイス連携だァ!!」
八層。
十層。
四人は止まらなかった。
三人が正面から粉砕し、こぼれた敵を焦茶が薙ぎ払う。
休憩のたび、三人はポージングの確認をした。
焦茶の人型は、その横で同じポーズをなぞった。
サイドチェスト。
ラットスプレッド。
モストマスキュラー。
『休憩がポーズ練習なの何なんだよ』
『焦茶のフォームが回を追うごとに良くなってる』
『飲み込みが早い』
『先週まで旗振ってた奴と同一人物とは思えない』
『多才すぎる』
ダイゴ「よし! 水分補給だ!」
三人がプロテインシェイカーを取り出し、振り、飲む。
テツが、ふと手を止めた。
テツ「……なあ。四人目は、飲まんのか」
『気にしてくれたw』
『そういえばゲンさんの回でコーヒー飲んでたな』
『飲めるぞ、そいつ』
テツ「飲めるのか!? よし!!」
テツは予備のシェイカーに粉と水を入れ、豪快に振ると、床にそっと置いた。
テツ「四人目! 飲め!! トレーニング後三十分はゴールデンタイムだ!!」
『トレーニングだったのか今の攻略は』
『こいつらにとっては全部トレーニングなんだよ』
焦茶の人型は、置かれたシェイカーの前にしゃがみ、持ち上げ、傾けた。
中身が、減っていく。
全部、減った。
『完飲www』
『飲み干した』
『ゴールデンタイム守った』
『シェイカーが宙に浮いて空になる映像、冷静に見るとホラーなんだよな』
『もう慣れた』
焦茶の人型はシェイカーを置くと、立ち上がり――
心なしか、さっきより胸板が、厚くなっていた。
『……おい』
『でかくなってないか?』
『プロテイン即反映wwww』
『吸収が早すぎる』
『理想の身体すぎるだろ』
『全ビルダーが泣いた』
ガンジ「コメントによると、四人目がバルクアップしたらしい!」
ダイゴ「「「羨ましいィィィ!!」」」
そして、十五層。
開けた岩場に出た四人の前に、それはいた。
体高三メートルの、鳥。
丸々と、しかし引き締まった胸肉。
太く隆起した、腿。
小さな翼を誇示するように広げ、鳥は雄叫びを上げた。
ダイゴ「…………いた」
テツ「……プロテイン鳥……!」
ガンジ「本物だ……なんて、なんて胸肉だ……!」
『いたああああ!!』
『実在したのか』
『目撃情報通りのシルエット』
『胸肉の盛り上がりがえげつない』
『鳥のくせにいい身体してやがる』
『敵ながらナイスバルク』
鳥が、地を蹴った。
巨体に見合わぬ速度で、四人へ突っ込んでくる。
ダイゴ「散開ッ!! 作戦通りだ!!」
テツが正面で受け、弾かれた。
ガンジが横から組み付き、振り払われた。
ダイゴの拳が胸肉に入り――分厚い筋肉に、止められた。
ダイゴ「硬ッ……! なんという大胸筋だ!!」
『押されてる!』
『鳥のフィジカルが強い』
『さすが幻、格が違う』
『三人がかりで止まらんのか』
鳥の蹴りがダイゴを掠め、巨体が返しの一撃を溜める。
その懐へ。
焦茶の人型が、走り込んだ。
全力疾走からの、跳躍。
プロテインで一回り増した右腕が、水平に伸びる。
鳥の首元へ、本日最大のラリアットが突き刺さった。
三メートルの巨体が、浮いた。
そのまま、岩場に沈む。
『入ったあああああ!!』
『特大ラリアット!!』
『鳥が浮いたぞ!!』
『増量した腕はこのためだったのか』
テツ「今だ!! 総攻撃ィ!!」
起き上がりかけた鳥に、三人が殺到した。
ダイゴの拳。テツのタックル。ガンジの、渾身のラリアット。
最後に焦茶の人型がもう一発添えて、鳥は動かなくなった。
「「「……勝ったァァァァ!!!」」」
三人が吠え、抱き合い、そのままポーズを決めた。
焦茶の人型も、輪の端で同じポーズをとっていた。
『討伐きたああ』
『プロテイン鳥、討伐例ほぼなしの獲物だぞ』
『歴史的瞬間に立ち会ってしまった』
『勝利のポージングに自然に混ざってる四人目』
『完全にメンバー』
ダイゴ「今夜は……胸肉パーティーだ!!」
テツ「高タンパク!!」
ガンジ「低脂質ゥ!!」
『飯テロ予告』
『食レポ配信も絶対やれよ』
『四人目の分も焼いてやれ』
ダイゴ「無論だ!! 四人目の分も焼く!! 共に戦った仲間だからな!!」
解体作業を終え、帰路につく四人。
その道中、焦茶の人型はずっと、三人と並んで行進していた。
入口の光が見えたところで、足を止める。
『あ』
『ここまでか』
『帰る流れだ』
ダイゴ「ん? 四人目が止まったのか?」
『止まった』
『多分、外までは来ない』
ダイゴ「……そうか!」
三人は振り返り、焦茶の人型の方へ――今日一日で学習したのか、ほぼ正確な方向へ――向き直った。
ダイゴ「四人目ェ!! 今日の勝利、お前なしではなかった!!」
テツ「お前は俺たちの、誇りだ!!」
ガンジ「また会う日まで……これを預ける!!」
ガンジがリュックから、未開封のプロテインの袋を取り出し、床に置いた。
『置いたww』
『供物』
『賽銭がプロテインの神社があるか』
そして三人は、最後の力を振り絞り、揃いのモストマスキュラーを決めた。
焦茶の人型は、プロテインの袋を大事そうに両手で抱え――
袋を抱えたまま、モストマスキュラーを返した。
『袋抱えたままポーズすなwww』
『器用ww』
『別れの挨拶がポージングの集団、初めて見た』
『でも様になってるのが悔しい』
焦茶の人型は、袋を抱えて背を向けた。
肩を揺らすいつもの歩き方に、今日は少しだけ、行進のリズムが混ざっていた。
暗がりに、消えていく。
テツ「……行ったか」
ダイゴ「行ったな」
ガンジ「……いい漢だった」
『漢(性別不明)』
『焦茶になって筋肉つけてラリアット覚えてプロテイン持って帰った』
『今日一日の情報量よ』
『次に会う時、白に戻ってるのか焦茶のままなのか』
『増量期だったら焦茶のままかもしれん』
『怪異に増量期があるか』




