↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/75

第12話 塞翁が馬

「…………はぁ」


 薄暗い通路の隅。


 壁にもたれて座り込んだ若い男が、膝を抱えていた。


 同時視聴者、3人。


ヒロト「……見てる人、いますか。いないか。いつも通りか」


『いるぞ』


『見てる』


『どうした、進まないの』


ヒロト「あ、いた。……すみません、今日はちょっと、もう、無理かもしれないです」


 男――ヒロトは、深いため息をついた。


ヒロト「聞いてくださいよ。俺、さっき、拾ったんです。輝紅石。三層の壁の割れ目に、埋まってて」


『輝紅石!?』


『マジで? あれ買取二百万は下らないだろ』


『三層で出るのかよ』


ヒロト「出たんです。信じられなかった。手が震えて。……で、袋に入れて、戻ろうとして、途中でモンスターに追いかけられて、走って、撒いて……袋、見たら」


『まさか』


ヒロト「穴、空いてました。底に」


『あーーーー』


『それは……』


『きっつ』


ヒロト「ないんです。どこにも。来た道戻って三十分探したけど、ない。……二百万が、どっかに落ちてる」


 ヒロトは膝に顔を埋めた。


ヒロト「……俺、探索者になって二年で、まだ一回も、でかい稼ぎしたことなくて。実家に金も入れられてなくて。母ちゃん、身体弱いのに、パートやめないんですよ。俺が『いつか稼ぐから』って言っても、『あんたこそ無理しないで』って。心配性だから、俺がダンジョン入ってること自体、ほんとは嫌なんだと思う」


『……』


『そうか』


『重いもん背負ってんな』


ヒロト「あれがあれば……あれ一個あれば、当分は仕送りできて、『高卒でも立派にやっていけるぞ』って、やっと言えたのに。……はは。だめだな、俺。拾った物すら落とすんだから」


 誰も何も言わなかった。


 言えなかった。


 その沈黙の中で、視聴者の一人が、それに気づいた。


『……なあ』


『ん?』


『ヒロトの横』


『横? ……あ』


『いる』


『いつからいた!?』


 ヒロトのすぐ隣。


 壁にもたれて、同じように座り込む、白い人型がいた。


 膝を抱える座り方まで、ヒロトと同じだった。


『白いピクトグラムだ!!』


『本物!? あの有名な!?』


『なんで底辺配信に……いや、だから来たのか』


『座り方までシンクロしてるw』


『一緒に落ち込んでくれてるのか?』


ヒロト「……ん? コメント欄、急にどうしました」


『ヒロト、落ち着いて聞け』


『お前の左に白いピクトグラムが座ってる』


『例の配信に出る白いやつだ 知ってるか?』


ヒロト「……白いピクトグラム? あの、噂の? え、嘘でしょ。だって俺の左、誰も」


 ヒロトが左を見る。


 白い人型と、真正面から向き合う形になった。


 もちろん、ヒロトには見えない。


ヒロト「……いない、ですけど」


『いるんだよ』


『見えないのが仕様なんだ』


『今、目が合ってた(片方には)』


ヒロト「え、えっと……本当に? 本当にいるんですか? 俺、そういうドッキリされるほど視聴者いないんですけど」


『3人でドッキリはしない』


『信じろ』


 白い人型が、すっと立ち上がった。


 そして、ヒロトの目の前で、床の一点を指差した。


『指差してる』


『床を指してる……いや、通路の先か?』


『あっちに何かあるのか』


ヒロト「今、何してます?」


『通路の奥を指差してる』


『ついて来いってことじゃないか』


『ヒロト、行ってみろ』


ヒロト「……い、行くって、どっちに」


『左の通路』


『そのまま真っ直ぐ』


 ヒロトはおそるおそる立ち上がり、言われた方向へ歩き出した。


 白い人型が先導する。


 分岐に来るたび、白い人型が方向を指し、視聴者がそれを中継する。


『次、右』


ヒロト「右……」


『止まれ 今そこの床、変色してる 罠だ』


ヒロト「うわっ、ほんとだ。……避けます」


『白いやつが迂回路示してる 壁沿いに左』


ヒロト「壁沿いに、左……」


『これもう攻略サイトより優秀だろ』


『視聴者が翻訳担当なの面白すぎる』


『俺たち今、伝書鳩やってんのか』


 十分ほど歩いた頃、ヒロトが足を止めた。


ヒロト「……あの、これ、どこ向かってるんですか? 俺の輝紅石、こんな奥で落としてないですよ。来た道と全然違う」


『言われてみれば』


『落とし物探しじゃなかったのか?』


『白いやつ、どこ連れてく気だ』


 白い人型は振り返り、両手で大きな四角を描いた。


 それから、その四角の蓋を開けるような仕草。


『……箱?』


『箱を開ける動き』


『まさか』


『宝箱か!!』


『ゲンさんの回だ! あの時も宝箱の場所知ってた!』


『落とした石より良いもんくれる気か!?』


ヒロト「え、え、なんですか、コメント欄だけ盛り上がって」


『ヒロト、朗報だ』


『多分お前、宝箱に案内されてる』


ヒロト「た、宝箱!? いや、でも俺、罠解除とか鑑定とか、そういうスキル何も」


『大丈夫だ、多分あいつが何とかする』


『実績があるから信じろ』


 案内は続いた。


 狭い隙間を横歩きで抜け、崩れた瓦礫を乗り越え、一度は小型モンスターの気配に隠れてやり過ごした。


 白い人型は、モンスターとは戦わなかった。


 ヒロトの頭を押さえて岩陰に隠し、通り過ぎるのをじっと待った。


『戦わないんだな』


『ヒロトが戦闘弱いの分かってるんだろ』


『隠れてやり過ごすの、ちゃんと本人の身の丈に合わせてる』


『過保護じゃなくて等身大のサポートなんだよな』


ヒロト「はぁ、はぁ……もう、どれくらい歩きました?」


『40分』


『頑張れ、もうちょっとらしいぞ』


『(もうちょっとかどうかは知らん)』


 そして。


 細い通路の行き止まり。


 積み重なった瓦礫の隙間に、それは半分埋もれていた。


 古びた、鉄枠の箱。


ヒロト「…………箱だ」


『あった!!』


『マジであった!!』


『本当に宝箱まで連れて来たよこいつ』


 ヒロトは震える手で瓦礫をどかし、箱を引き出した。


 鍵はかかっていない。


 蓋に手をかけ、深呼吸を一つ。


ヒロト「……開けます」


 蓋が開いた。


 中で、赤い光が揺れた。


 布の上に、拳大の結晶が三つ。


 深い赤の中に、光の筋が幾重にも走っている。


ヒロト「…………き、輝紅石」


『!?』


『輝紅石!? しかもでかくない!?』


『三つ!?』


『落としたやつより明らかにでかいんだが』


『二百万どころじゃないぞこれ』


ヒロト「え、え、待って、待ってください、これ、俺が落としたのより、大きい……三つ……え?」


 ヒロトの声が裏返った。


ヒロト「え、これ、俺がもらっていいんですか!? 誰かのじゃ……いや宝箱だから誰のでもない、のか? え、いいの? 本当に?」


『いいんだよ』


『宝箱はダンジョンの物、開けた奴の物』


『白いやつ、腕組んで頷いてる』


『「持ってけ」の姿勢だ』


 ヒロトはへなへなと、その場に座り込んだ。


 箱を抱えたまま、動かない。


ヒロト「…………母ちゃんに、仕送りできる」


『……』


『よかったな』


『ほんとによかった』


ヒロト「これで……これで、母ちゃんのパート、減らせる。病院も、ちゃんと行かせられる。……っ、すみません、ちょっと、待ってください」


 カメラが下を向いた。


 しばらく、鼻をすする音だけが配信に乗った。


『泣いていいぞ』


『こっちももらい泣きしてる』


『人間万事塞翁が馬ってやつだな』


『石落とさなかったら、あの隅で落ち込んでなかった』


『落ち込んでなかったら、あいつ来てなかったかもしれん』


『そう考えると全部繋がってんな』


 やがてカメラが持ち上がった。


 ヒロトは目元を袖でぬぐい、白い人型がいるはずの方向へ――今度は、コメントに教えられなくても、正しい方向へ――向き直った。


ヒロト「あの……見えないですけど。声も、届いてるか分からないですけど」


 深く、頭を下げる。


ヒロト「ありがとうございました。この恩は、絶対、忘れません。俺、ちゃんと稼げる探索者になります。母ちゃんも安心させます。……だから、その、また、どこかで会えたら」


 白い人型は、ヒロトの言葉を最後まで聞いていた。


 それから、サムズアップを一つ。


 続けて、ヒロトの頭に、ぽん、と手を置いた。


ヒロト「……! 今、頭、触られました」


『撫でられてる』


『頑張れよってことだろ』


『息子扱いで草』


『いや今日のあいつ、完全に保護者だったろ』


 白い人型は手を離すと、くるりと背を向け、あの肩を揺らす足取りで歩き出した。


 途中、一度だけ振り返り、指を鳴らす仕草。


 そして、通路の暗がりに消えた。


ヒロト「……行っちゃった、んですかね」


『行った』


『最後キメて行ったぞ』


ヒロト「……そっか。……よし」


 ヒロトは箱を、穴の空いていないことを三回確認したリュックの奥に、厳重にしまい込んだ。


ヒロト「帰ります。今日はもう、まっすぐ帰ります。寄り道しません。走りません。石は落としません」


『それがいい』


『無事に帰るまでが配信だぞ』


『帰ったら母ちゃんに電話しろよ』


ヒロト「します。……あ、あと、あの」


 ヒロトは少し照れくさそうに、カメラを見た。


ヒロト「今日、見ててくれて、ありがとうございました。3人しかいない配信で、ずっと道案内の中継してくれて。……あれ?」


 視聴者数の表示に、目が留まる。


ヒロト「……4,000人?」


『増えてるぞw』


『白いやつ出た時点で切り抜き班が動いた』


『「白いピクトグラム、底辺配信者を宝箱に導く」でもうまとめられてる』


『仕事が早い』


『登録者も今すごい勢いで増えてる』


ヒロト「え、え、ちょっと待ってください、俺の配信、登録者86人……じゃない、え、9,000……1万……?」


『おめでとう』


『石も手に入って配信も伸びた』


『塞翁が馬にも程がある』


ヒロト「…………母ちゃんに、報告すること、増えました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。