第三章 8 『群青旗の下の条件』
夜明け前のヴァルネ補給領には、薄い霧が残っていた。
中央広場と東側退避路を包む結界は、青白い膜を辛うじて保っている。西側区画の魔素灯は消えたままで、補給倉庫へ続く通りには守備兵が二人一組で立っていた。
バルタザール陣営の斥候隊が撤退してから、大きな襲撃は起きていない。それでも領地核の出力は戻らず、管理塔の警報灯は一定の間隔で弱く明滅していた。
「三人とも、今日は地下へ入らない」
街道宿の一室で、ナーヴァは卓斗たちの状態を順に確認した。
卓斗の右手首には固定布が巻かれ、左肩にも冷却用の薄い魔導具が当てられている。絵麻は右脇腹の固定帯を締め直し、恵依は窓から入る朝の光を眩しそうに避けていた。
「原因、今も西へ逃げてるんだけど」
卓斗は寝台の端へ腰を下ろしたまま、管理塔の方角を見た。
「追えるうちに見た方がよくない?」
「調べるのは必要。でも、今日じゃなくていい」
ナーヴァは卓斗の右手を持ち上げず、指先の動きだけを確かめた。
「追える状態にしてから追う」
「正論で止められると、反論しにくいんよ」
「反論しなくていい」
「団長、朝から強いな」
「卓斗が弱いだけ」
絵麻が寝台の反対側から口を挟む。
「昨日、右腕使わなかっただけで、左肩まで痛めてるでしょ」
「柱が重すぎたんだって」
「石柱が軽いと思ってたの?」
「思ってないけど、もう少し空気読んで倒れてほしかった」
「柱に気遣いを求めないで」
恵依は二人のやり取りを聞きながら、机へ置かれた三枚の記録紙へ視線を落とした。
「絵麻さんも、今日は空間を動かさないでください」
「分かってる。歩くのは平気だから、記録の確認には行く」
「目の前で止めても行きそうなので、一緒に行きます」
「恵依も休む側でしょ」
「解析を広げなければ大丈夫です」
「二人とも、無理なら止める」
ナーヴァは短く結論を置いた。
「記録を見るだけ。地下へは行かない。能力も使わない」
「了解」
卓斗が左手を上げると、ナーヴァはようやく三人から視線を外した。
街道宿を出た頃には、東の空が白み始めていた。広場では住民たちが温かい飲み物を受け取り、守備兵が夜間の警戒から交代している。
負傷者は出ていない。倒れた結界柱の周辺も封鎖され、夜の間に崩れた石材が通りの端へ寄せられていた。
ただし、西側倉庫の扉は閉じられたままだった。領地核の出力を中央部へ絞っているため、保冷術式も防火結界も動いていない。
「応急処置で持たせてるだけだね」
ミレーネは管理塔一階の会議室へ記録紙を並べた。
卓の中央にはヴァルネ補給領の地図が広げられ、その上へ三種類の線が重ねられている。領地核の出力低下、地下経路へ伸びた欠損、斥候隊の接近と侵入。その時刻が色の違う印で記されていた。
「斥候隊が見つかる前から、欠損は動いてる」
ミレーネは最初の印を指先で押さえた。
「南西へ人影が現れたのは第五刻の終わり。領地核が最初に大きく減ったのは、その二刻前だよ」
「撤退後は?」
ナーヴァが地図の西側へ顔を向けた。
「減る間隔は変わってない。今朝まで、ほぼ同じ周期」
「なら、昨日の十一人が仕掛けた可能性は低い」
恵依は記録紙の端を持ち上げ、欠損が開いた時刻だけを確認した。
「侵入中に領地核へ何かを加えた痕跡もありません。少なくとも、あの斥候隊が直接の原因とは考えにくいです」
「バルタザール陣営が無関係とは限りません」
ローデリヒはエルザヴェートの右後方に立ち、地図上の鉄色の領地札を見た。
「斥候隊が知らされていなかっただけという可能性もあります」
「それは残す」
ナーヴァはローデリヒの意見を否定せず、地図の上へ指を置いた。
「でも、相手の領地へ経路が続いていることと、相手が仕掛けたことは分ける」
「ボクも同意するよ」
エルザヴェートは群青の旗札を指先で回しながら、鉄色の札との距離を見た。
「昨日の斥候は、この異常を初めて見た顔だった。だからといって、バルタザール陣営全体を無関係とは決めない。でも、証拠もなく犯人にもしない」
「では、エルザヴェート様は帝都へお戻りください」
ローデリヒは迷いなく次の提案を続けた。
「ヴァルネ補給領へ守備兵と技術者を増派し、地下経路の入口を封鎖します。原因不明の干渉が続く場所へ、候補者であるエルザヴェート様が留まる必要はありません」
「守備兵の増員は必要だね」
「では」
「でも、調査を守備隊だけへ任せるつもりはないよ」
エルザヴェートは群青の旗札を地図へ戻した。
「ボクのネックレスと領地核がつながっている。現地で反応を確かめるなら、ボク抜きでは進まないだろう?」
「そのために、ご本人が危険へ近づく必要はありません」
「近づかずに分かるなら、昨日のうちに分かっているさ」
ローデリヒの口元が引き締まる。
止めるための言葉を探しているのではなく、同行を認める場合にどこまで危険を減らせるかを測っていた。エルザヴェートも彼の反対を遮らず、返答を待っている。
「帝都へ戻ってから、正式な調査隊を組みます」
ローデリヒは地図上の街道へ指を置いた。
「ヴァルネには守備兵を残し、技術者と治療役を増員する。ガルド鉱石領へ向かう場合は、先に相手陣営へ交渉を申し入れます」
「それなら異論はないよ」
エルザヴェートはすぐに受け入れた。
「勢いだけで鉄色の旗へ踏み込んでも、領地核の異常まで見失うだけだからね」
「単独行動もなさらないでください」
「ローデリヒを置いていくほど、ボクも無謀ではないさ」
「その言葉は記録しておくね」
ミレーネが新しい紙へ一文を書き加えた。
「後で忘れたって言わせないから」
「ボクの信用、随分と低くないかい?」
「好奇心で危ない場所へ近づく人だからね」
「そこは否定しにくいな」
卓斗が小さく笑うと、ローデリヒは視線だけを向けた。
「成瀬殿も同類では?」
「俺は危ない場所に近づいてるんじゃなくて、危ない方から来るんだよ」
「違いある?」
絵麻が卓斗へ顔を向ける。
「本人の中ではあるのでしょう」
恵依は淡々と答え、卓斗は二人の間で眉を寄せた。
「恵依までそっち側?」
「卓斗くんなので」
「名前が理由になるの、フィリスティアだけじゃなかったん?」
会議室の緊張が僅かに緩んだところで、エルザヴェートは卓斗たちへ身体を向けた。
「それなら、改めて頼みたい」
群青の旗札を卓の中央へ置き、その隣へガルド鉱石領を示す鉄色の札を並べる。
「ヴァルネの地下経路と、ボクのネックレスを調べるために、次の行動にも協力してほしい」
ナーヴァはすぐに答えず、卓斗、恵依、絵麻を順に見た。
三人とも拒む様子はない。ただし、エルザヴェート陣営へ入ることと、同じ目的のために協力することは別だった。
「条件を決める」
ナーヴァは卓上の紙を一枚引き寄せた。
「私たちは、エルザヴェート陣営へ所属しない」
「構わないよ」
「無条件の指揮権も渡さない。目的と行動条件が合う時だけ協力する」
「それも受け入れる」
「分霊石を渡す約束を、協力の対価にしない」
エルザヴェートは胸元のネックレスへ触れず、ナーヴァを正面から見た。
「渡すかどうかは、ボクが調べて決める。協力とは切り離すよ」
「ネックレスを外すかどうかも、エルザヴェート本人を抜いて決めない」
「当然だね」
「国や家への報告は必要です」
ローデリヒが条件の途中で加えた。
「しかし、エルザヴェート様の身体と能力へ影響する以上、ご本人を除外した決定には私も同意しません」
ナーヴァは短く頷き、次の条件を置いた。
「住民、降伏者、戦闘不能者を犠牲にする作戦には参加しない」
「ボクも選ばないよ」
「領地核を取るために、土地の結界や生活基盤を故意に壊さない」
「昨日のヴァルネを見た後で、それを選ぶ理由はないね」
「負傷や能力限界が出たら、撤退を妨げない」
「誰か一人を残して勝つつもりもない」
エルザヴェートの返答は速かった。
面白がって条件を受け入れているのではない。昨日までに見た住民、領地核、卓斗たちの負傷を思い返しながら、自分が選ばないものを一つずつ確認している。
「ローデリヒは?」
ナーヴァが問いを向ける。
「国外の騎士へ、候補戦内部の情報を渡すことには今も慎重です」
ローデリヒは姿勢を崩さなかった。
「皆様を全面的に信用したわけでもありません」
「そこは別にいいよ」
卓斗は椅子の背へ浅く寄りかかった。
「俺らも、会って数日で全部信用してるわけじゃないし」
「ですが、前夜の防衛では、領地核の奪取より住民の安全を優先されました」
ローデリヒは卓斗の固定された右手首と、絵麻の脇腹へ一度ずつ視線を向けた。
「その事実は認めます。条件が文書として残り、エルザヴェート様の指揮範囲が明確になるのであれば、限定的な協力には反対しません」
「決まりだね」
ミレーネは条件を記録紙へ書き写し、最後の空欄をナーヴァ側へ向けた。
「署名は帝都へ戻ってから正式な様式で作るとして、今は双方の確認記録を残すよ」
「それでいい」
ナーヴァが自分の名を書き、エルザヴェートも隣へ署名を加えた。
その間、恵依とゲブは領地核から取得した記録を別の卓へ広げていた。前夜までの減少波形を重ねると、欠損は魔素が少ない時にはほとんど動いていない。
「流川様。開く時刻に共通点があります」
ゲブは三本の記録線へ白銅の光を重ねた。
「領地核へ一定量以上の魔素が供給された直後に、欠損が発生しています」
「供給が少ない間は?」
恵依は記録紙の下部へ視線を移した。
「ほとんど減っていません。結界柱の復旧時と、昨日の再供給時に大きく開いています」
「待っているように見えます」
恵依の言葉に、卓上の会話が止まった。
「何が?」
絵麻は椅子から立たず、記録紙へ顔を向けた。
「経路の先にあるものです。領地核を壊すことが目的なら、供給量に関係なく内部術式を削ればいいはずです」
恵依は欠損が開いた時刻を指で追った。
「でも、これは魔素が補充されるまで動かず、一定量が流れた時だけ一部を奪って閉じています」
「手当たり次第じゃなく、入ってきた分を選んで取ってる?」
卓斗は管理塔の地下へ視線を落とすように、床を見た。
「その可能性があります。ただ、生物なのか術式なのかは分かりません」
「流川様。もう一つ、経路に分岐があります」
ゲブが白銅の線を記録紙の西側へ伸ばした。
「昨日は出力が弱く、一本に見えていました。今朝の記録を重ねると、途中で二方向へ分かれています」
ミレーネが領地周辺の古い地図を引き寄せた。
ヴァルネから西へ向かう地下導線は、途中の旧管理所で二つに分かれている。一方はガルド鉱石領の精錬施設へ続き、もう一方は北西の古い鉱山地帯へ向かっていた。
「古い鉱山は今も使われてる?」
卓斗が尋ねる。
「二十年以上前に閉鎖されてるよ」
ミレーネは地図上の灰色に塗られた区画を見た。
「坑道崩落で採掘効率が落ちて、地下導線も停止したはず」
「停止したはずの経路が二本とも生きている?」
ローデリヒはガルド鉱石領と旧鉱山を見比べた。
「ガルド鉱石領だけを確保しても、異常が止まるとは限りません」
「だから、最初から犯人を決めて攻めるのは危ない」
ナーヴァは地図の分岐点へ指を置いた。
「必要なのは、経路の確認」
「まずは交渉だね」
エルザヴェートは鉄色の旗札を手に取った。
「ガルド鉱石領には、地下導線の管理所と精錬施設がある。こちらの記録を示し、調査の許可を求める」
「受け入れられるでしょうか?」
ローデリヒが尋ねる。
「難しいだろうね」
エルザヴェートはあっさり答えた。
「候補戦の最中に、他陣営の候補者と国外騎士を領地核付近へ入れる。疑われるのが普通だよ」
「それでも、先に話す?」
絵麻が鉄色の札へ視線を向ける。
「話さずに攻めれば、異常を調べる前に相手の防衛機構を壊すことになる」
エルザヴェートは旗札を地図へ戻した。
「交渉で入れるなら、その方がいい。断られた場合は、候補戦の規則に従って領地を取る方法を考える」
「奪うためだけに攻めるわけじゃない?」
「もちろんだよ」
エルザヴェートは穏やかに笑った。
「でも、ヴァルネを守るために必要なら、ボクは旗を取りに行く」
その直後、管理塔の地下から低い振動が伝わった。
卓上の記録紙が僅かに揺れ、窓の外では中央広場を覆う結界が一度だけ薄くなる。警報灯が青白く明滅し、領地核の出力低下を知らせた。
「また欠損が開きました」
恵依は解析を広げず、記録魔導具に現れた数値だけを確認した。
「減少量は小さいです」
エルザヴェートの胸元で、ネックレスが反応した。
空気が歪み、不可視の刃が管理塔の壁際へ次々と現れる。刃先は窓、扉、天井へ向かい、領地全体へ広がろうとした。
「守るのは住民と東側退避路だけだ」
エルザヴェートは誰かに指示される前に、条件を口にした。
「地下の異常は敵と断定しない。領地外へ刃を出さない」
窓へ向かっていた刃が止まった。
「管理塔の出入口を塞がない。移動する味方と荷車は対象外」
不可視の刃は中央広場と東側の通りへ分かれ、外側へ刃先を向けた。管理塔の扉にも、会議室の窓にも残らない。
「昨日より扱えてるじゃん」
卓斗は壁際へ並んだ刃を見た。
「ボクの剣だからね」
エルザヴェートは腕を組み、刃の配置を一つずつ確認した。
「勝手に決めさせ続けるつもりはないよ」
領地核の揺れが収まると、刃は住民区画を囲んだまま静止した。
誤認も封鎖も起きていない。エルザヴェートが守る対象と除外する対象を先に選んだことで、ネックレスの石が補う範囲は必要な場所だけに収まっていた。
ローデリヒは刃の配置を確認し、剣の柄から手を離した。
「問題ありません」
「少しずつ分かってきたね」
エルザヴェートは胸元の石へ触れず、中央広場の住民を窓越しに見た。
「母上が残したものを、怖がって外すだけでは終わらせたくない。ボクが使うなら、ボクが選ばないと」
***************
午前のうちに、帝都から到着した増援部隊が正門を通った。
守備兵十二名、領地核技術者三名、治療役二名。加えて食料と魔素灯用の予備石を積んだ荷車が入り、ヴァルネの応急防衛は次の交代へ引き継がれた。
ミレーネは守備隊長へ記録紙を渡し、欠損が開く条件と供給量の上限を説明した。領地核へ一度に魔素を流さず、中央広場と東側退避路だけを維持する方針も固定される。
「西側倉庫へは、領地核が安定するまで入らないで」
エルザヴェートは守備隊長へ地図を示した。
「物資を取りに行く場合も、必ず二人以上。地下搬入口には近づかない」
「承知しました」
「住民の帰宅は?」
「中央部から順に、安全確認後となります」
「急がなくていい。戻した後でまた避難させる方が負担になる」
指示を終えると、エルザヴェートは住民たちへ向かい、現在の状態と今後の対応を自分の言葉で伝えた。
領地核の異常原因は分かっていない。西側区画は引き続き封鎖する。守備隊と技術者を残し、候補者本人も調査から外れない。
安全だと断言せず、分かっている範囲だけを説明したことで、住民たちの不安が消えることはなかった。それでも、自分たちが置き去りにされないことは伝わった。
昼前、卓斗たちは帝都へ戻る馬車へ乗り込んだ。
右側の座席に卓斗とティナ、向かいに恵依とゲブ、その隣に絵麻とラールが座る。ナーヴァは出入口に近い席を取り、エルザヴェートたちは後続の馬車へ分かれていた。
「結局、地下には入れなかったな」
卓斗は固定された右手首を膝へ置き、窓の外へ流れる石壁を見た。
「入らなくて正解です」
恵依は記録紙の写しを専用ケースの隣へ収めた。
「今の状態で追っても、途中で能力が必要になれば動けません」
「分かってるって」
「納得していない顔ね」
絵麻が背もたれへ身体を預けた。
「絵麻も似たような顔してるけど」
「私は歩けるし」
「空間使えないなら条件同じじゃん」
「卓斗よりは動ける」
「競うところじゃないだろ」
「二人とも休んでください」
恵依の声に、卓斗と絵麻は同時に黙った。
馬車が領地を離れる直前、恵依の腰にある九色の石が一度だけ弱く明滅した。
反応はヴァルネの管理塔ではなく、西へ続く地面の下へ向いている。ガルド鉱石領と旧鉱山へ分かれた、二本の古い地下導線と同じ方向だった。
***************
その頃、ヴァルネ補給領から離れた岩場では、ヴィヴィが帝都へ戻る馬車を見下ろしていた。
銀色の髪を左右で束ねた少女は、夜の戦闘だけでなく、朝の会談と領地核の小さな揺れまで見届けている。赤い瞳の奥には、卓斗たちの負傷、役割分担、エルザヴェートの自律刃の変化が順番に刻まれていた。
「勝手に動く方が面白かったのに」
ヴィヴィは領地内へ残った不可視の刃を眺め、僅かに唇を尖らせた。
「ちゃんと選ぶと、変なところまで斬らなくなるんだね」
エルザヴェートのネックレスへ向けていた視線を、地面の下へ移す。
領地核から奪われた魔素は、地下導線を西へ流れている。途中で二つへ分かれ、一方はガルド鉱石領、もう一方は閉鎖された古い鉱山へ向かっていた。
「石を見つけたのは、あの子たちだけじゃないみたい」
ヴィヴィは楽しげに笑い、ガルド鉱石領の方角へ身体を向けた。
次の瞬間、岩場から銀髪の少女の姿が消えた。
帝都へ戻る馬車の中では、ミレーネが候補戦の地図を広げていた。
卓斗たちの馬車と並んで走る後続車両で、エルザヴェート、ローデリヒ、ミレーネはガルド鉱石領の地形を確認している。鉱石採掘場、精錬施設、地下導線の管理所、北側の崖道が紙面へ細かく記されていた。
「正面は狭いね」
ミレーネは南側の街道へ指を置いた。
「荷車二台が並べるくらい。両側に岩壁があるから、守る側が有利」
「北側の坑道は?」
エルザヴェートが地図の上端を見た。
「古い採掘口へつながってるけど、今も使えるかは不明。交渉するなら南門からだね」
「まずは話す」
エルザヴェートは鉄色の旗札をガルド鉱石領の上へ置いた。
「地下導線の記録を見せて、調査の許可を求める」
「拒否された場合は?」
ローデリヒは地図の南門と領地核の位置を見比べた。
「候補戦の規則で道を開く」
エルザヴェートは群青の旗札を取り、鉄色の札の隣へ置いた。
「奪うためだけに攻めるわけじゃない。でも、ヴァルネを守るために必要なら、ボクは旗を取りに行く」
馬車は帝都へ続く街道を進んでいく。
地上では、群青の旗と鉄色の旗が次の交渉と戦いへ向かって動き始めていた。
そのさらに下では、領地核から奪われた魔素が古い地下導線を流れ、ガルド鉱石領と閉鎖鉱山の二方向へ消え続けていた。




