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第三章 6 『魔素を失う補給領』



 群青の旗を掲げた馬車がヴァルネ補給領へ近づくにつれ、街道沿いの魔素灯は一つずつ光を失っていった。


 帝都を出て半日。傾き始めた陽光の下で、低い石壁に囲まれた小さな領地が見えてくる。街道宿と補給倉庫を中心に家々が集まり、その外側を半透明の結界が覆っていた。


 結界は一定の形を保てていない。薄くなった場所が風に煽られた布のように揺れ、ところどころで青白い火花が落ちている。


「見た目からもう危なそうなんだけど」


 馬車の窓から外を見ていた卓斗は、結界の欠けた箇所を指で追った。


「右側、普通に消えかけてない?」


「外周南東部の出力が低下しています」


 恵依は専用ケースへ片手を添え、領地全体を流れる魔素の向きを確かめた。


「完全に途切れてはいません。ただ、領地核から遠い位置ほど供給が不安定です」


「流川様。街道灯と結界柱への配分も減っています」


 ゲブは馬車の床へ視線を落とした。


「確認できた範囲では、領地核そのものの出力低下に伴うものです。外周から破壊された流れではありません」


「中が減ってるせいで、端まで届いてないってこと?」


 絵麻は窓枠へ手を置き、前方の正門を見た。


「その可能性が高いです」


 馬車が速度を落とすと、先行していた斥候騎士が正門脇から駆け寄ってきた。


「エルザヴェート様。領内東側の住民は、中央倉庫周辺への移動をほぼ完了しています」


 騎士は馬車の扉が開くと同時に膝をついた。


「領地核の地下石室に侵入痕はありません。西側の補給倉庫で、結界柱二本の出力が急落しています」


「負傷者は?」


 エルザヴェートは馬車から降りながら、領内の通りへ視線を向けた。


「現在までに重傷者はいません。ただ、街道宿の魔素灯が停止し、倉庫内の保冷術式も半数が落ちています」


「食料は別の倉庫へ移して。結界柱の周囲から作業員を下げるんだ」


「はっ」


「領地核へはまだ誰も入れていないね?」


「守備隊長と管理官のみ、封印扉の外で待機しています」


「分かった。ボクたちは先に外周を見る」


 エルザヴェートは領地核へ直行せず、正門脇の石段へ上がった。


 そこからは、領内の大半を見渡せる。中央に二棟の補給倉庫、その北側に街道宿、南西に鍛冶場と厩舎があり、地下石室へ続く管理塔は西寄りに建っていた。


「エルザヴェート様。領地核の確認を優先すべきでは?」


 ローデリヒは彼女の右後方を守りながら、管理塔へ顔を向けた。


「核だけ見ても、誰がどこで困っているかは分からないよ」


 エルザヴェートは外周結界の揺れと、住民が集まる中央広場を見比べた。


「守る範囲を決めるには、先に領地の状態を知る必要がある」


「守る対象は住民、作業員、避難路。荷車や武器、動いている設備は、こちらへ落ちてこない限り迎撃しない」


 彼女の周囲で空気が細く歪んだ。


 不可視の刃が六本現れ、正門、中央広場、二棟の倉庫の屋根、管理塔前へ散っていく。刃先は人ではなく、崩れかけた建材や外から飛び込むものへ向けられていた。


「なら、先に逃げ道」


 ナーヴァは正門から中央広場へ続く通りを見た。


「住民は広場。東門も開ける。外へ出る道を二つ確保」


「東側の結界は弱っています」


 恵依が答えると、ナーヴァはラールへ視線を向けた。


「通路を固定できる?」


「はい! 今度は門を塞ぎません!」


 ラールは東側の通りへ駆け、結界の薄い区間を確認した。


 白鋼の魔素が足元から伸び、ひび割れた石畳と倒れかけた柵を一体化させる。退避路の両側へ低い壁を作り、外周結界が一時的に消えても住民が崩れた石材へ巻き込まれない形へ整えた。


 外周と避難路の確認を終えた後、卓斗たちは管理塔へ向かった。


 管理塔の一階には守備隊長と領地核管理官が待っていた。二人の背後には地下へ続く螺旋階段があり、その入口を分厚い封印扉が塞いでいる。


「エルザヴェート様。封印術式に異常はありません」


 白髪交じりの管理官が鍵杖を両手で持ち、扉脇へ立った。


「出力低下が始まってからも、扉は一度も開かれておりません」


「内側に何か残っている?」


 卓斗は封印扉へ目を向けた。


「入って確認するしかありません。今、開けます」


 管理官が鍵杖を封印扉の中央へ差し込んだ。


 複数の術式が順番に解除され、石と金属を重ねた扉が内側へ開く。冷えた空気とともに、弱い青白い光が螺旋階段の下から漏れてきた。


 地下石室は円形で、直径十五メートルほどあった。


 中央には胸の高さまである領地核が浮かび、その周囲を三重の金属環が回っている。青白い光は弱く、一定の間隔で明滅するたび、床の術式へ細い火花が散っていた。


「外側に破損はありません」


 恵依は入口から三メートルの位置で止まり、領地核へ解析の魔素を向けた。


「術式の線も、金属環もつながっています」


「流川様。内部に複数の欠損があります」


 ゲブは白銅の魔素を広げすぎず、領地核の表層へ沿わせた。


「簡易核より深い位置です。供給経路の内側で、魔素が細かく途切れています」


「どのくらい?」


 ナーヴァは領地核と出口の位置を同時に見た。


「確認できた範囲では、十二か所です」


「昨日の時点ではなかった」


 管理官は領地核の手前で立ち止まり、青ざめた顔を上げた。


「これほどの欠損があれば、定期確認で見落とすはずがありません」


「目で見える傷ではありません」


 恵依は領地核の内部へ続く線を追った。


「魔素が流れた瞬間だけ、欠けています。供給が止まると痕跡も薄くなるため、通常の確認では分からなかった可能性があります」


 領地核が明滅し、床から新しい魔素が流れ込む。その直後、内部の一点が僅かに窪み、流れの一部だけが消えた。


「今、減りました」


「外へ抜けた線は?」


 ミレーネが記録紙へ波形を写し取る。


「見つかりません。消えた地点から先へ、流れが続いていません」


「食べられたみたいだな」


 卓斗の言葉に、石室の空気が重くなる。


「断定はできません」


 恵依は欠損の周囲へ解析を集中させた。


「ただ、削られて外へ漏れたのではなく、その場で失われています」


 エルザヴェートが領地核へ一歩近づいた瞬間、胸元のネックレスが青白く明滅した。


 領地核から細い光が伸び、石室の天井と壁を一周する。不可視の刃がエルザヴェートの周囲へ四本現れたが、誰にも向かわず、領地核を囲む位置で止まった。


「接続が始まりました」


 ゲブがネックレス側の流れを追う。


「エルザヴェート様の魔素が領地核の防衛経路へ重なっています」


「止めますか?」


 ローデリヒはエルザヴェートの前へ半歩出た。


「まだ安定しています」


 恵依は領地核と刃の双方を確認した。


「ただし、接続範囲を広げないでください」


「守る対象は領地核と、この石室にいる者だけ」


 エルザヴェートは前日の条件を思い出すように、一つずつ言葉にした。


「石室の外にある武器や設備は対象外。扉を塞がない。ここから出る者を追わない」


 不可視の刃は領地核の周囲へ留まり、階段側へは動かなかった。


「制御できてる」


 ミレーネは刃の位置と本数を記録した。


「昨日より反応が早いけど、勝手に範囲を広げてない」


「問題は核の中」


 ナーヴァは恵依へ視線を向けた。


「止められる?」


「失われている箇所へ、別の経路から魔素を回せるか試します」


「流川様。私が供給の流れを読みます」


 ゲブは領地核の表面を巡る魔素へ白銅の線を重ねた。


「欠損の発生間隔は一定ではありません。ただ、流量が増えた直後に多く起きています」


「なら、一度に補わない方がいい?」


 卓斗が尋ねると、恵依は領地核の外周へ視線を動かした。


「はい。細い経路へ分け、失われにくい場所から回します」


 恵依は解析で安全な流れを示し、管理官が鍵杖を床の術式へ差し込んだ。


 領地核へ向かう供給が十二本に分かれ、欠損の少ない外周から内側へ流れ始める。青白い光が少しずつ戻り、石室の魔素灯も一つだけ点灯した。


「出力、上がっています」


 ミレーネが記録紙の線を追った。


「これなら外周結界も少し戻るかも」


 その直後、領地核の内部で十二の欠損が同時に開いた。


 青白い光が一気に沈み、石室全体が大きく揺れる。天井から細かな砂が落ち、床の術式へ黒い亀裂のような影が走った。


「供給を切ってください!」


 恵依の声に、管理官が鍵杖を引いた。


 だが、領地核は補充された魔素を失った反動で急激に出力を落とした。壁の魔素灯が全て消え、石室の外から鈍い破砕音が響く。


「上で何か崩れた」


 ナーヴァは階段へ身体を向けた。


「ミレーネ、外を確認」


「分かった!」


 ミレーネが階段を駆け上がる。


 直後、管理塔の外から鐘が三度鳴った。結界柱の破損を知らせる警報だった。


「西側倉庫前の結界柱が倒れます!」


 階段上から守備兵の声が響いた。


「住民と作業員が近くにいます!」


「戻る」


 ナーヴァが先頭で階段を上がった。


 卓斗たちも続き、石室から管理塔一階へ駆け戻る。外へ出た時には、西側倉庫前で高さ六メートルほどの結界柱が大きく傾いていた。


 根元の石台が割れ、柱の上部は補給倉庫の屋根へ向かって倒れ始めている。真下では三人の作業員が、積み荷を運ぶ荷車の間に取り残されていた。


「柱から離れろ!」


 ローデリヒの声が通りへ響く。


 作業員のうち二人は倉庫側へ走ったが、一人が転倒した荷車へ足を挟まれて動けない。柱の先端が屋根へ触れ、瓦と木材を押し潰しながら落下速度を上げた。


「卓斗くん、柱の上側を右へ!」


 恵依は倒れる軌道と作業員の位置を見た。


「正面から止めると根元が砕けます。倉庫と反対側へ傾きをずらしてください!」


「了解!」


 卓斗は右腕を使わず、左手を柱の上部へ向けた。


 黒い魔素が柱の右側面へ当たり、落下方向を倉庫から石畳側へずらす。六メートルの石柱は重く、完全には止まらない。卓斗の靴底が石畳を滑り、左肩へ反動が食い込んだ。


「っ、重すぎるって!」


「タク、足場を固めるわ」


 ティナの白銀の魔素が卓斗の足元へ広がった。


 石畳の密度が高まり、靴底の摩擦が増す。後ろへ押されていた身体が止まり、斥力の向きが安定した。


「絵麻さん。作業員を荷車の外へ!」


「見えてる!」


 絵麻は柱の真下へ走らず、通りの反対側から空間へ手を伸ばした。


 足を挟まれた作業員と、空いた石畳の位置を短く入れ替える。男の姿が荷車脇から消え、五メートル離れた場所へ転がった。


 反動で絵麻の右脇腹へ痛みが走る。姿勢が崩れ、片膝が石畳へ落ちた。


「絵麻!」


「私は平気! 柱を見て!」


 柱は卓斗の斥力で倉庫を外れたが、今度は中央広場へ続く通りへ倒れようとしていた。


「ラール、根元!」


「はい!」


 ラールは割れた石台へ両手を向けた。


 白鋼の魔素が根元を包み、砕けた石材と柱を一つの形へ固定する。倒れ込んでいた角度が途中で止まり、柱は斜め四十五度のまま空中へ留まった。


「固定できました! でも、長くは持ちません!」


「十分だよ」


 エルザヴェートは腕を組んだまま、結界柱と周囲の住民を見た。


「守る対象は作業員と避難路。柱そのものは支えない。落ちる瓦と石片だけを止める」


 不可視の刃が倉庫の屋根へ走った。


 崩れた木材を細かく切り、住民へ向かう瓦だけを横へ弾く。柱へ直接触れないため、ラールの固定を乱さず、卓斗がずらした軌道も保たれている。


「全員、東側へ下がって!」


 絵麻は脇腹を押さえながら立ち上がり、作業員と住民をラールの退避路へ誘導した。


「荷物は置いて! 今は人だけ動かして!」


 住民が中央広場から東側へ流れ始める。


 ナーヴァは倒れかけた柱と避難列の間に立ち、デュランダルを抜いた。柱の固定が外れた場合に備え、住民へ届く部分だけを切り離せる角度へ刃を構えている。


「卓斗。あと十秒」


「急に具体的だな!」


「できる?」


「やるしかないだろ!」


 卓斗は左手へ流す魔素を絞り、柱の上部をさらに外側へ押した。


 右手首へ直接出力を流していないはずなのに、契約紋から肘へ鈍い熱が走る。左肩も軋み始めたが、住民の最後尾が退避路へ入るまで力を緩めなかった。


「全員、通過!」


 絵麻の声が届く。


「ラール、固定を外していい」


「外します!」


 ラールが白鋼を解除した瞬間、柱が石畳へ落ちた。


 卓斗が外側へずらしていたため、倉庫にも退避路にも届かない。激しい衝撃で石片が跳ねたが、エルザヴェートの刃が住民側へ飛ぶものだけを切り落とした。


 土煙が通りへ広がり、卓斗は左腕を下ろした。


 絵麻は二人の声を聞きながら、右脇腹を押さえて呼吸を整えた。


 空間を動かしたのは一度だけだったが、移動させた相手が荷車へ挟まれていた分、位置を引き剥がす負荷が大きかった。痛みは残っているものの、立って歩ける程度には収まっている。


「絵麻さん、無理に動かないでください」


 恵依が駆け寄り、絵麻の姿勢と顔色を確認した。


「出血はありませんか?」


「ない。固定帯も外れてない」


 恵依は二人の状態を確認し、深刻な悪化がないと判断してから、倒れた結界柱へ視線を向けた。


 柱の根元に外部からの衝撃痕はない。領地核の出力低下で内部術式が停止し、自重を支えられなくなって石台が割れた形だった。


「領地核の減少が続けば、他の柱も同じ状態になります」


「応急処置は?」


 エルザヴェートが管理官へ向き直った。


「補給を増やせば一時的には戻せます。しかし、先ほどのように内部で奪われれば、さらに大きな反動が起きます」


「一度に流さない」


 恵依は倒れた柱から管理塔へ視線を戻した。


「外周全体を維持するのではなく、住民がいる中央部と東側退避路だけへ供給を絞ります。失われても急落しない程度に、細く流してください」


「西側の結界は捨てるのですか?」


「一時的に停止します。人がいない区画まで守ろうとすれば、領地核への負担が増えます」


 管理官はエルザヴェートへ確認を求めた。


「許可する」


 エルザヴェートは倒れた柱と、東側へ避難した住民を見た。


「守る場所を選ぶ。今は中央広場、街道宿、東側退避路だけでいい。西側倉庫の物資は後で回収する」


「はっ」


 管理官と恵依たちは再び地下石室へ戻り、領地核への供給経路を三本へ絞った。


「出力は最低限ですが、安定しました」


 恵依は石室の床へ映る流れを見た。


「中央部と東側退避路の結界は維持できます」


「欠損の先は?」


 ナーヴァが領地核の西側へ立った。


「さっきより見えます」


 供給経路を三本へ絞ったことで、不要な流れが減っていた。


 恵依は欠損が開く瞬間を待ち、消える魔素の周囲へ解析を集中させる。一見、その場で失われているように見えたが、完全に消える直前、髪の毛より細い線が床下へ伸びていた。


「地下へ続いています」


「石室の下?」


「さらに西です」


 恵依は床へ片膝をつき、線が進む方向を指で追った。


「領地核の基礎術式から外れています。古い経路へ入り込み、領地の西側へ伸びています」


「古い経路?」


 管理官は床の術式を見回した。


「この領地が候補領となる以前、周辺の鉱山と魔素を融通するために使われていた地下導線があります。現在は封鎖されているはずです」


「どこにつながる?」


 エルザヴェートが尋ねた。


「西のガルド鉱石領です」


 管理官は石室の壁へ埋め込まれた古い地図板を開いた。


 ヴァルネ補給領から西へ、一本の地下経路が伸びている。その先には、現在バルタザール陣営が保有する資源領が記されていた。


「候補戦が始まった時に、接続は切ったんだよね?」


 ミレーネが地図板へ近づく。


「はい。旗印の認証も異なります。通常なら、こちらの魔素が流れることはありません」


「通常じゃない使い方をされてる?」


 卓斗は地図板の西端を見た。


「可能性はあります」


 恵依は細い欠損線と地図上の経路を重ねた。


「この線がどこまで続いているかは、領地核からでは確認できません。ただ、方向は一致しています」


「バルタザール陣営が仕掛けたと断定はできない」


 ナーヴァは地図を見たまま告げた。


「領地を持っているだけ。経路を使った者は別かも」


「分かっているよ」


 エルザヴェートは群青の旗札と、西側の資源領を示す鉄色の札を見比べた。


「候補戦の相手だからといって、証拠もなく犯人にはしない」


「でも、調べる必要はあるわね」


 絵麻は脇腹を押さえながら地図へ視線を落とした。


「こっちの領地核が減ってる原因が、その先にあるなら」


「明日、地下経路の入口を確認します」


 恵依は解析の魔素を閉じ、ゆっくり立ち上がった。


「今日はこれ以上、領地核へ負荷をかけない方が安全です」


「住民は中央と東側へ集めたまま。夜間は交代で結界柱を監視する」


 エルザヴェートは管理官と守備隊長へ指示を出した。


「西側倉庫へは入らない。異常が出ても、物資より人を先に下げるんだ」


「承知しました」


 地上へ戻ると、領地の空には夕暮れが広がっていた。


 中央広場では住民たちが街道宿と仮設天幕へ分かれ、守備兵が食料と毛布を配っている。東側の結界は薄いながらも形を保ち、ラールが固定した退避路の上には魔素灯が一つだけ灯っていた。


 卓斗は痛む左肩を回さず、暗い西側区画を見た。


「全部抱えて核ごと止まるよりはマシだろ」


「タクが言うと、随分と現実的ね」


「現実に柱倒れてきた後だからな」


 ティナは卓斗の左肩へ白銀の魔素を薄く流し、熱を持った筋肉だけを冷やした。


「今日はもう使わないことよ」


「使う予定ないって」


「予定どおりになったことがないでしょう」


「それは状況が悪いんだって」


 恵依は二人の会話を聞きながら、専用ケースへ手を添えた。


 九色の石は、領地核のある管理塔ではなく、西側の地面へ弱く反応している。細い魔素の欠損が伸びた先と、同じ方向だった。


「卓斗くん、絵麻さん」


 恵依が西の地平へ顔を向ける。


「九色の石も、西側へ反応しています」


「資源領の方?」


 絵麻が尋ねる。


「断定はできません。ただ、領地核から伸びた欠損と方向は一致しています」


「じゃあ、次はそっちか」


 卓斗は夕闇の向こうにある見えない領地を見た。


 ヴァルネ補給領の結界は、応急処置によってかろうじて維持されている。しかし、領地核の内側へ入り込んだ何かは消えていない。


 魔素を奪う細い経路は地下を西へ進み、バルタザール陣営の資源領へ向かっていた。




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