そして幸せな二人の話
* * *
二人の人生はその後、山もあり谷もありだった。
二人で壁にぶつかり喧嘩をしたこともあった。
けれど、それでも二人はお互いを思いあって暮らした。
途中ナナエルは三人の子供をさずかった。
世の中に興味が無かったというのが嘘のようにウィリアムはナナエルのことも子供たちのことも愛した。
とても子煩悩な父親だった。
二つの脅威を打ち破ったという事でウィリアムは勇者と呼ばれた。
本人は勇者と呼ばれることをとても嫌がっていたことは侯爵家の家族たちだけが知っていることだった。
それでも、ウィリアムはその後いくつもの脅威を打倒してその度に喜んだ教皇がお祝いに公国まで来ていた。
公国は勇者に守られた国となった。
そして勇者は他の国の脅威の討伐にも何度も参加した。
ナナエルの店も四か国に進出し、今では大商会と呼ばれていた。
商会は長女が跡を継ぐことが決まっている。
「ねえ。私、もう知ってるの」
年老いたナナエルが言った。
「何を?」
ウィリアムが聞き返した。
「あなたが少しだけ私たちよりも長生きだってことを」
ナナエルはしわだらけになった顔でウィリアムに向かって微笑んだ。
ウィリアムはおどけた様な表情をした。
ウィリアムは先祖返りの教皇曰く“祝福の子”だ。
少しだけ人間よりも長く生きて子孫たちの行く末を導く長老となる。
「私が先にいっても、悲しまないで」
「悲しむよ。悲しむに決まっているだろう」
――俺がぼんくらから人間になれたのは君のおかげなんだから
ウィリアムは言った。
「大丈夫よ。それでも。
私たちの子がいるわ、ジョエルの子も、公爵家の子供たちも、あなたはこれからもずっと忙しいわね」
過労で倒れないようにね。
ナナエルは笑顔を浮かべた。
それは初めての出会いを思い出している様だった。
「でも、きっとすぐよ」
ナナエルは続けた。
ウィリアムはナナエルの亜麻色から白髪になってしまった髪の毛をそっと撫でた。
「私たちが出会って、そして二人で過ごした時間よりも、ずっと早く終わるから。
そうしたら、また二人で魔法の研究をしましょう。
氷の花をまた見せてね」
「そんなもの今だっていくらでも見せるよ」
ウィリアムが返した。
ナナエルは幸せだった。
ウィリアムに出会ってからずっとずっと幸せだった。
だから、願わくば、ウィリアムの一生も最期のその時幸せでありますようにと祈りながら言葉を続けた。
「ねえウィル、私だけのウィリアム」
囁くようにナナエルは言った。
「ずっとずっと一緒よ」
ナナエルの腕にはもう腕輪は無かった。
娘に譲ってしまったからだ。
ウィリアムの耳にナナエルの瞳の色をしたピアスがいつも輝いている。
「もう少ししたら、子供たちをよろしくね」
「子供たちも立派に暮らしている。そんなことを心配する年じゃないさ」
ナナエルは自分の命の灯があと少しで消えることに気が付いていた。
きっとウィリアムも気が付いている。
けれど、二人きりの幸せな時間を忘れたく無くて、穏やかにただ、二人で語り合っていた。
ウィリアムにとっても間違いなくナナエルがいた人生は幸せだった。
「俺も幸せだったし、君さえいればずっと幸せなんだよ」
そう言ってナナエルのこめかみにウィリアムがキスを落とすと、ナナエルは嬉しそうに微笑んだ。
完
これで本編は完結です。
3月中に(できれば)番外編を少し書けたらと思っております。
少しでも面白いと思っていただけましたら、よろしければブクマ評価等よろしくお願いいたします。




