宣言
* * *
王子とキャサリンが入場した。
辺りにはどよめきがあった。
キャサリンが着ているのは男爵令嬢ではとても手に入れられない様なドレスだった。
王子がプレゼントした物だろうか。ヒソヒソと令嬢たちが囁き合っている。
ついに本物の婚約者が決まったのだろうか。
そんな声が上がっていた。
ナナエルとウィリアムはあれがキャサリン自身が準備したのものだと気が付いていた。
ナナエルは扇で口元を隠してウィリアムに小さな声で伝えた。
「あれは隣国の伯爵家の特産品の布です」
あのドレスがこの国で作られていないことがナナエルの目には明らかに見えた。
けれど首で輝くネックレスの宝石はこの国原産のものだ。
しかも限られた者しか取引ができない。
それは、王子が贈ったものだというのを表している。
ナナエルは一度も贈られた事のないそれをみて、思うことが無い訳ではないけれど感傷に浸るようなことも無かった。
あの人に何かを求める時間は多分無駄だったし、何かを差し出し続けた時間も無駄だった。
それが分かっているだけでナナエルには充分だった。
今は自分のために勉強をして、それから好きな物を作って、共に支え合える人と出会った。
だからキャサリンの胸にきらめく宝石がどのような価値のものでもナナエルにはどうでもいい事だった。
けれど、貴族というのはどうでもいいとならない人もとても多い。
ヒソヒソと囁かれる声にナナエルへの嘲りが含まれることにナナエルは気が付いていた。
キャサリンが出自を明かす前に国に帰すという議論は、公爵家と侯爵家の間であったとナナエルは聞いている。
本当のお忍びという事にしてしまえばいい。
けれど、そのことに気が付いた王子が恋心を優先させ今度は本当に姫君をこの国に招いてしまえば元の木阿弥だ。
長い長い話し合いの末、姫君の計画通り出自を公開させ、王子に“責任”を取っていただく。
そういう話でまとまったらしい。
他に協力者の貴族たちもいたらしいが、ナナエルは同席していない。
キャサリンは元々の美貌もありとても美しく、王子と並ぶとまるで御伽噺のお姫様だった。
御伽噺のお姫様は本物のお姫様だという説明を始めた。
どこで準備したのだろう。
会場全体に響き渡るよう、拡声の魔道具を使用している様だった。
「私について、今日はお話があります」
その声に皆一旦口をつぐむ。
何かの演出かと思った生徒、男爵令嬢とはいえ王子がエスコートしている令嬢の言葉を遮るのはと思った生徒、婚約の話だと思った生徒、様々だった。
これから話される内容を知っている少数の生徒たちの表情は一様に硬い。
「私は、男爵令嬢ではありません。
勿論庶子でもありません。
私の本当の姿は、カサンドラ、ルクサンドラ王国の王妹の娘です」
しん、と会場は静まり返った。
王子が驚いた顔でキャサリンことカサンドラを見ていたので、王子も知らなかったようだ。
事前に打ち明けられてもいない、真実の愛という事なのだろう。
ナナエルは、それにしても情報はどこで止まってしまったのかを考えた。
ナナエルはそのような書類を見ていない。
王が知っているのなら、婚約者に据えるなり、おかえりいただくなりするだろう。
ナナエルの父である公爵ですら王子に恋人がいることは知っており宮殿で共有されていた情報だ。
姫なのだと知っていたら、きちんと婚約するかそれとも引き離すかする。
どちらもしていないということから、宮殿なのか王族なのかが機能不全を起こしていることが分かった。
当たり前だ。公爵令嬢を使いつぶす王子の計画に誰も進言しない時点で、機能不全を起こしているに決まっている。
というのがウィリアムの談だった。




