入場
模擬舞踏会当日、侯爵家の馬車がナナエルを迎えに来てくれた。
エスコートをしてくれるウィリアムはシックな装いだ。
お互いの色を纏うと言ったときに、ウィリアムに茶色を着せてしまうのはと思ったナナエルだったが、ナナエルの亜麻色はジャケットの刺繍で使われていた。
絹のつややかさが上品なその刺繍は模擬舞踏会のために準備したとしては正直時期の計算が合わないのではないかという位緻密で繊細な美しい物だった。
オリーブ色の宝石はよく探したという感じのものが装飾に使われていた。
その装飾以外の部分が、ナナエルとウィリアムで揃いになっている。
ナナエルの衣装は藍色を濃くした様な色をしているのに、決して黒には見えない独特な織が施されているドレスだった。
使用人がこの糸は魔法使いが作ったものですよ!と興奮していた。
グレーに近い色をしているウィリアムの恰好も同じ魔法の糸で作られているのだろう。
色が違うのに織が独特なので揃いに見える。
顔も雰囲気も違うのにどうやって婚約者らしい揃いの衣装をと思ったけれど、基本のカラーが違うのであれば問題ない。
そしてナナエルの衣装にもウィリアムの瞳の色と髪の毛の色が刺繍と宝石で装飾されていた。
それが夜会の照明でキラキラと輝くだろう。
髪飾りはウィリアムから今回用に贈られたものを編み込み耳の当たりにあのクリスタルの髪飾りも着けている。
ただ、一つ気になることがあった。
彼の瞳と髪の毛以外の色がポイントとして使われているのだ。
多分何か意味があるのだろう。
紺に一般に合わせない淡いローズレッドなことも気になった。
「これは侯爵家の色ですか?」
「いや違うよ」
ウィリアムは言った。
「この色はいくつか特殊な魔法を使う時に出る俺の瞳の色だから」
ウィリアムは目を細める。
すると魔力があたりにあふれるのが分かる。
その瞬間ウィリアムの瞳の色が、滲むようにローズレッドに変化した。
「うちの一族の血を継ぐ魔法使いにはたまにいるらしい」
ナナエルがウィリアムの瞳に見入っているとウィリアムはそう言ってすぐに魔力を引っ込めてしまった。
「この特徴のある子は魔法の才能が有ろうが無かろうが養子にするしきたりだから、うちは養子好きとかってに思われてるけどね」
ウィリアムは話をそらしたように見えた。
けれど、それからすぐに「変だろ? 怖い?」と聞いた。
ナナエルは首を振った。
「そんなこと無いです。
とてもきれいでした。」
ナナエルは素直に今の感情を伝えた。
ウィリアムは嬉しそうに笑った。
それから「今日のあなたは、いつも以上に素敵です。それでは行きましょう」そう言って馬車にナナエルを乗せた。
「そう言えば、私ダンスというものをきちんとしたことが無くて」
あんな地味な女と踊れるか! と王子はナナエルの手を取ることは無かった。
「実はおれも……」
ぼんくらと呼ばれていた令息もまた誰かを誘ってダンスをすることも無かった。
お姫様の件があるので、ダンスをゆっくり踊れる可能性は低いのに二人はそんな話をしながら学園への道を馬車で進んだ。
そして二人で学園に着くと、学園の大ホールまでウィリアムはずっとナナエルをエスコートしてくれた。
扉の前で二人は微笑み合う。
招待状を渡し、名乗りの口上を言う役目の生徒が、二人の名前を見てギョッとしていた。
それでも今はそんなこと気にならない。
「きっと、あなたの美しさに皆が気が付いてしまう。
それは少しだけ妬けちゃいますね」
そんなことは起きないのにウィリアムは、そう耳打ちをしながら扉を開くのを待った。
本物の夜会と同じ、身分の順番での入場だ。
もう、ほとんどの人たちはホールにそろっている筈だ。
ナナエルは静かに呼吸をした。
そして扉が開くと二人そろって前に進んだ。




