模擬舞踏会へ
色々まくしたてて、プランを話したのに、ウィリアムは一番大切なことを最後の最後になってようやく話した。
「この模擬舞踏会が強制参加なのは、王子殿下の真実の愛の相手が関係してるんだ」
王子と聞いてナナエルの体は少しかたくなった。
それから、「王子が婚約者を発表するという事?」と聞いた。
キャサリンの養子縁組の話が進んでいるという事をナナエルは聞いたことが無かった。
「いや、そうじゃない」
ウィリアムははっきりと区切るように言った。
「あの、男爵令嬢はこの国から二つほど国境をまたいだところにある小国の王妹の娘なんだ」
ナナエルは思わずウィリアムを二度見してしまった。
小国とはいえ他国の王族だ。
色々なことが国際問題になりかねない。
「そのことを王子殿下は?」
「知らないで動いていると思われる」
「君も知らなかったという事は君が処理してた文書の中にはこの情報は入っていなかったという事だね」
ナナエルはこの問いに答えることはできなかった。
けれど、答えなかったこと、そして先ほどの態度が答えになってしまっているだろう。
そして、何らかの手段で王族は知っている筈の情報とウィリアムは見ているという事だ。
それなのに王子は何も知らず男爵令嬢との恋に舞い上がっている。
「それで、最悪なお知らせなんだけど、この模擬舞踏会でその姫様は自分の身分を大々的に明かすつもりだ」
ああ、とナナエルは顔を覆った。
お忍びで留学をして、身分を明かさず自国に戻る。
そうであれば後で、王族がこの国に来たと問い合わせがあっても、そのような公式な事実はない。と言い張れる。
けれど、大々的に明かしてしまったらどうなる。
「その姫君は、二つの国の国境を陸路で?」
「そのようだよ……」
二人の間に沈黙が落ちた。
「側近の方たちが最近忙しいのはその所為もあるのですね」
「ああ」
「私は力不足かもしれないですが、もっと早く教えて欲しかったです」
恐らく侯爵家はもっと前から、その事実を知っていたのだろう。
そんなものを抱えているのであればもっと早く共有してほしかったとナナエルは思った。
これは八つ当たりだ。我が儘だ。
ナナエルは気が付いていた。
知ってナナエルにできることは何も無い。
だからウィリアムがそれに対して「そうだな。パートナーなんだからきちんと情報共有すべきだ」と言ったとき驚いてしまった。
ぱちぱちと目を瞬かせて、それから謝るウィリアムを見る。
「頭を上げてください!!責めたかったんじゃ……。違う責めてしまったすみません。
自分が守られてばかりでふがいなくて」
ナナエルは過労で倒れた。
それもあって色々な人がナナエルを守ってくれていたのを彼女自身もよく知っている。
ウィリアムと侯爵家がナナエルを守ってくれていた結果が今になっての男爵令嬢の出自の話だった。
それなのに責めてしまった。
「守られて欲しい。
はじめて君を見た時から強くそう思っているよ」
でもね。ウィリアムは続けて話した。
「パートナーとして同じ位置で未来を見たいというのも本音なんだよ」
そう言ってくれる婚約者でよかった。ナナエルは思った。
「ありがとうございます。
心して、模擬舞踏会に臨みます」
この国を支える公爵家の令嬢として、そして侯爵家と縁づく予定の婚約者として、恥ずかしい姿は見せない。
そうナナエルは思った。




