フラジール 立ちはだかる者
あーちゃんを無事保護。怪我もなく意識もある。
「大河…… 」
「心配するな。逃げる時は一緒さ」
エレンの問いかけに答える。
こうして態勢は整った。
このまま留まるにしろ逃げるにしろ三人一緒だ。
さあ敵の動きを探るか。
ザザザ……
拡声器から再び声が。
「時間をやったのに姿を見せないとは情けない奴だ。震えていたのだろう?
臆病なお前では仕方ないことだ。だからと言って許しはせん。
こんなボロは一発で吹っ飛ばす」
ハッタリだろうか? それともこれ以上の重火器があると言うのか?
ヘリは山小屋に向けて再び照準を合わせる。
「攻撃開始…… 何てな。それでは面白くないし私の腹の虫も収まらない。
無様に土下座でもして命乞いをしてみろ。そうすれば見逃してやらんでもない。
だがこのままそこに隠れてると言うなら館の方を滅茶苦茶にしてしまうぞ。
それでも良いのか? 分かったなら出てこい。これが最後通告だ」
翼の挑発で再び血が上り自分をコントロールできない。
怒りに任せて飛び出そうとするがエレンに抑えられ我に返る。
「ちくしょう。あいつめ」
「ダメだって言ってるだろ? 冷静になれ。ハッタリに決まってる。
館どころかこの山小屋さえ吹っ飛ばすことなんかできないよ。冷静に」
「そうだよ大河」
あーちゃんにまで諭される始末。
俺はガキ以下か。
「ちくしょう。ちくしょう」
ついついものに当たる。悪い癖が出る。
「大河だめ。あーちゃんが怯えるでしょう」
「まったく俺はダメだな…… 」
「大河。あーちゃん。出て行く時は三人揃ってだよ」
エレンが強調する。
だがよく考えれば一人ずつ出て行った方が生き残る確率は高い。
この場合俺が一番に。囮役って訳だ。
まあそれも仕方ないか。経験値の差。
俺がやらないで誰がやると言うんだ。
だがエレンは決して放そうとはしない。
「エレン…… 分かったよ。ここは我慢しかないか」
ヘリは予告通り館に向かって動き出した。
まさか本気で吹き飛ばさないよな。ハッタリだってエレンも言ってたし。
地獄のショーが始まるのか? ははは…… そんな訳ない。冷静に冷静に。
だがどうやらハッタリでも冗談でもないらしい。俺たちの勘は外れた。
「ははは…… そこでゆっくり茶でも飲みながら館が崩壊する様を見守るんだな。
ははは…… ははは…… 」
「止めろ。止めてくれ。うおおお」
叫びは届きはしない。
無情にもヘリはどんどん離れていく。
ヘリの進行方向に一つの影。
それはまさかのアリア。
いや元アリア。今はフラジール。
俺の仲間であり俺を愛してくれた人。
もう少女ではない。
「フラジール何をしてる? そこをどくんだ。これは命令だ」
想定外の出来事に翼もただ喚くだけ。
一旦、停止せざるを得なくなったヘリに向かってフラジールは叫ぶ。
「何やってるんですか翼さん。私の作戦中止を無視し突撃するなどもう無茶苦茶」
フラジールは不快感を表す。一拍置いてからやさしく諭す。
「いいですか落ち着てください。作戦中止。即刻退却願います」
フラジールの懇願。
「目的の『聖女の涙』の在り処がもう少しで分かると言うのに」
「馬鹿め。そんな嘘を誰が信じるか。もはや実力行使。
副村長を脅せば『聖女の涙』の作り方ぐらい分かるだろう。
今まで手間暇かけて準備してきたがもう限界だ」
フラジールの裏切りに気付き我を失った翼。
楽園を陥れる者。それこそがこの男の正体。楽園の翼だ。
「翼さん。何てことを言うんですか」
「うるさい。お前は役に立ってない。ちょうどいい機会だ。
役立たずな上に邪魔なお前には消えてもらう。ふふふ……
後はすべてを知る大河をマウントシーごと葬り去ってやる」
計画失敗に頭に血が上った翼。
楽園の翼には制裁がお似合いか。
「何を言ってるの? 私たちは夫婦じゃない。あの子…… ユー君だって……
まさか嘘でしょう? 」
「ふふふ…… そう言うことだ。頭の悪い女は嫌いなんだ。そんな奴の子供もな」
あまりにも非情な翼。フラジールは混乱状態。両手で頭を抱える。
「ゴミを片付けろ」
「了解。発射します」
ヘリから数発発射される。
被弾のアリア…… いや、被弾のフラジールそのまま抵抗する暇もなく倒れ伏す。
「馬鹿な女だ。俺も少々甘いな。これではまだ息の根を止めるに至ってない。
だがこれくらいでいいだろう。せめてもの慈悲だ。
さあ邪魔者は居なくなった。館を狙え。フィナーレだ」
パイロットに命令を下す。
ゴオオオ
ゴオオオ
地響きがする。
遠くから獣の咆哮まで。
翼は気づいてない。崖下で安眠を妨げられた獣。
目を覚ましマウントシーの危機に駆け付けるとは夢にも思ってないだろう。
足音に遠吠え、漂う悪臭はヘリの爆音と緊張感により誰一人認識できなかった。
ついに伝説の守り神が姿を現す時がやって来た。
マウントシーに終わりが近づいている。
続く




