楽園の翼 抱きしめるだけでそばにいて
二人は山小屋に駆け込み難を逃れる。
ヘリは躊躇することなく山小屋に突っ込む。
だが振りだけで直前でストップ。
実に高度なテクニック。相手のパイロットの実力が分かると言うもの。
これは簡単には脱出させてくれそうにないな。
向きを何度か変え照準を定めるヘリ。
おかしい。向きを変えるのに手間取ってる。これは一体?
読み違えたか? 相手の実力を測り切れない。
いや単純に遊んでるのかもしれない。
見えない敵の正体は恐らくあいつだろうから。
とすれば俺の動きを読んでる。
山小屋にわざと行くよう仕向けたか。
まったくどれだけ余裕こいてるやがる。
せっかく俺を仕留めるチャンスだったのに馬鹿な奴だ。
チャンスをものにできない者に未来はない。
ヘリは山小屋に向け再び連射を始める。
さすがに体当たりすれば自分の身も危険にさらすから選択できないか。
無差別攻撃。俺たちを恐怖に陥れ降伏を待つ作戦。
何発もの弾を浴びせマウントシー全体を地獄に突き落とす。
難を逃れた二人だったが尽きない弾丸の嵐にさらされる。
退路を塞がれた今もはや籠城作戦をせざるを得ない。
山小屋に閉じ込められてしまった。
無尽蔵の弾丸。
絶える気配が無い。
弾切れを狙うのは現実的ではない。
ただこの様子ではこれ以上の火器を積んでないと見たがどうか?
ミサイルを搭載すればこんな山小屋など一撃でバラバラ。
マウントシーの館も二発もあれば粉々になるだろう。
そう言う意味ではまだ俺たちに僅かながらチャンスがある。
外が静まる。ヘリの音はするものの連射音がしない。
ザザザ…… キーン
拡声器から男の声が聞こえる。
聞き覚えのある懐かしい声。
決していい思い出とは言えない一年前…… 俺を地獄に突き落とした男。
翼の声だ。
「ハハハ… 久しぶりだな大河。覚えてるか? 俺だ。翼だ。
約一年ぶりの再会か? まさかお前が生きていたとはな。
俺は嬉しいぞ。再びお前を地獄に突き落とす機会を得たのだからな」
勝ち誇ったような馬鹿笑い。
だがよく考えれば俺はこいつに恨まれるようなことは何一つしてない。
なぜ俺を執拗に狙う。
「今度は必ず息の根を止めてやる。感謝しろ。ははは……
それにしてもお前が生きていると聞いた時は驚いたよ。
今お前を見るまで半信半疑だった。
よくあの中で生き残ったものだ。お前だって俺に復讐がしたいだろ?
出てこい大河。勝負だ」
挑発を続ける翼。だがこの程度で飛び出すものか。
「聞こえてるのか臆病者? まったく情けない奴だ」
「この野郎。皆を不幸にした悪魔め。受けて立つ」
翼への怒りから我を失う。
どの道決着をつける必要がある。
「止めなさい大河。丸腰で一体何が出来るって言うの?
彼の挑発に乗ってはダメ」
「分かったよ…… 」
エレンによってどうにか冷静さを取り戻す。
「しかしどうすればいい? 」
「とにかく応援が来るのを待ちましょう。ハッピー先生がきっと助けてくれる。
それまでここで耐えるの。分かった? 」
エレンは何も分かってない。俺が堪えても奴が堪えなければ意味がない。
「しかし待ってていいものか? 攻撃を仕掛けてくるぞ」
「それは大丈夫。突っ込みでもしない限りここは安全。
問題は彼が冷静さを失い突っ込んでくること」
冷静さが求められる。ただ狂ってる奴に通用するか?
「だが消極的では? 」
「しょうがないでしょう。銃もないから反撃のしようもない。
ここは待つ以外方法はない。冷静になって大河」
エレンは射撃訓練で銃器への恐怖心がない。常に冷静で次の作戦を考える。
これもハッピー先生仕込み。やはりここの者は普通じゃない。
泣き叫ぶ足手まといよりはいいが俺より冷静では立場がない。
存在価値が薄れてしまう。
まあ銃を持たない俺に何かできる訳ではない。ここは従う。
「分かった。相手を見極めてからだな。応援が来るのを待つよ」
「そうそれでいいの。はあはあ…… 」
「エレン? 」
腕を押さえ苦しそう。呼吸も浅くなってる。
みるみる内に血の気が引き真っ青。
「おい血が出てるじゃないか。見せてみろ」
傷の具合を確認。
傷は深くないが放っておけば命に関わる。
ポケットから容器を取り出し傷口に塗る。
「ギャアアア」
痛みに耐えるエレン。
まさかこんなことになるとは……
ハアハア
ハアハア
痛みに耐え何とか持ち直す。
薬が効いてきたらしい。
険しい表情も和らぎ再び会話ができるまでに回復した。
どうやらこの手の傷にも効果があるらしいな。
さあ一時間もすれば完全回復だ。元気な姿が見られるはず。
「ありがとう大河。助かった。でももう薬もあと少しでなくなりそうね」
まだ苦しそうだが無理して気丈に振る舞っているエレン。
「仕方ないさ。無駄に使った訳じゃない。使えてあと一回。
何とか切り抜けて皆の元に戻ろう」
希望を述べる。
二人は笑い合い、抱き合った。
エレンを優しく抱きしめてやる。
こんな時だからだろう。抱きしめるだけで涙が。
「そばにいてくれ…… エレン…… 」
あれ…… 何を言ってるんだ俺は……
「そうね。フフフ…… そうだあーちゃんの様子を見てきて。
今運悪く? 二人は不在。脱出する場合は一緒の方が安全でしょう」
二階か。あの攻撃ではもう……
「大河…… 」
「待ってろ。今すぐ連れて来てやる」
二階のベットで怯える少女を発見。
続く




