偽りの真実
温厚なミス・マームが豹変。これ以上関わるなと強く迫る。
「俺だって出来たらこんなことしたくなかった。
分かりましたよハッピー先生。警告は有難く頂戴します。
でも俺には俺の役目がある。それはあなたには決してできないこと」
「彼女たちの何を知ってるんですか? 大して知りもしないで余計なお世話です」
ミス・マームはいつになく機嫌が悪い。
これ以上は時間の無駄。出て行くことにした。
台風の残した温かい風が島を熱するのも昨日まで。
一日を通して日差しは僅かでどんよりした曇り空。過ごしやすい陽気であった。
しかし夜になり湿度も高く次第に雨が降りだしてくる。
マウントシーでは来週に迫った祭りの練習が引き続き行われており皆へとへと。
慣れない踊りに四苦八苦。
体力に自信があってもやはりダンスはちょっと……
夜遅く再びブリリアントの部屋へ。
ここのところ毎日通っていてもはや習慣になっている。
変に誤解されないよう気をつけてるがアリアには見抜かれている気もする。
「待ってましたよ大河さん」
ダンスのペアで半分は二人きりなのだがやはり警戒してか一切その話をしない。
鉄壁の守り。常に笑顔で俺を気遣ってくれる理想の女性とはほめ過ぎか。
「なあ密会を重ねるのはどうなんだ? 変な誤解を受けるぞ」
「大河さんがその気ならいつでも…… 」
「はあまあいいか。それで他の奴はお前の秘密を知ってるのか? 」
首を振るブリリアント。
「お前は他の奴の秘密を…… いや何でもない忘れてくれ」
俺が他の女に興味を示せば内心穏やかではないはずだ。それぐらいの配慮はある。
「それでどうでしたか私の話は真実だったんですか?
ハッピー先生は何とおっしゃっていたのですか? 」
瞳を輝かせ俺の答えを待つ。
決していい報せではない。そんなに期待されても……
そんなに見つめないでくれ。純真なブリリアントに成す術なし。
「真実か…… 真実なら君が一番良く知っているんじゃないか。
確かに事件の後、君はこの場所にやって来た。
事件発生前も寝ていた訳だから詳しいことは分からないだろう。
でも知っているんだろ? 目が覚めた直後の痛みを、苦しみを、感覚を」
「私…… 」
それ以上何も発さない。仕方なくこちらから。
「何の動機も殺意もなく人を手にかける記憶や無意識のうちに人を刺す妄想。
そんなもの誰も信じやしない。君自身信じてないんじゃないか?
過去に起きたことは過去として受け入れるべきだ。
本当は初めから知っていたんじゃないか。どうなんだブリリアント? 」
「私は…… 知って…… 知って…… 」
混乱している。これはさすがにやり過ぎたか。
「君は知っていたんだ。だからこそ真実とは似ても似つかない偽りの真実を構築。
そうすることによって過去を封印したんだ。絶対に知られてはならない真実」
「何を言ってるんですか…… ははは…… 大河さん…… 」
血の気が引いたブリリアントは落ち着かない様子で立ったり座ったりを繰り返す。
いくら注意しても止らない。もはや自分では抑えられないのだろう。
「もういいじゃないか。これ以上追及したくない。
これ以上ブリリアント、君を傷つけたくない。だからお願いだから黙ってくれ」
「そんな…… 酷い…… 」
涙を流す。だがもはや何の意味もない。
ただの時間稼ぎ。いやそれも分かり切っている今何の意味もない。
「俺にまだ言わせたいか? 自分の口であの日あった本当の事。真実を語るんだ。
いくら嫌でも。辛くてもそれが真実であるなら語るべきだ。
そうでなければ一生この閉鎖された空間で過ごすことになる。
それはお前たちにとっては居心地のいいところだろう。でも一生苦しみ続ける。
回避する為に儀式し続けねばならない。そんな不自由お前にさせたくないんだ。
俺がお前を救ってやる。だからお前は自分のできることをするんだ」
「私が語るべき真実? 」
「そうだ。自分を偽るな。解放するんだ」
やり過ぎだって分かってる。こんな方法許されない。
だが彼女が少しでも俺を意識してくれるなら俺の力で何とかしてやりたい。
それは彼女の為になるんだ。そう信じたい。
「そうだブリリアント。もう儀式は必要ない。お前が封印したそれは偽物で……」
彼女も涙を拭き笑顔を作る。
「分かりました大河さん。私はあなたを信じてみます。たとえ裏切られようとも。
認めればいいんですね」
ブリリアントはすべてを打ち明けた。
「ありがとうブリリアント。俺は絶対に君を裏切らない。
なぜなら俺はこの島の住民。そしてマウントシーの住民。
安心しろ。いかなる時でも君を裏切りはしない。俺を信用しろ! 」
「大河さん。へへへ…… 何を言ってるんですかもう無茶苦茶ですよ」
「無茶苦茶? うんそれでいいんだ」
話し終えたブリリアントにハンカチを渡す。
「そうだ。リンゴ一緒に食べません? 」
「俺リンゴ無理。しみるんだもん」
「子供なんですか大河さんは? 」
「ははは…… 」
二人は互いに笑いあった。
三年前の真実。
それがいかに惨いものであろうと白日の下に晒し判断を仰ぐしかない。
たとえ耐えがたい記憶だとしても。
ただそれを俺がやるべきなのかと言えば答えは出ない。
ハッピー先生や副村長は封印することで彼女を守ってきた。
俺は解放することで彼女を、いや彼女たちを救いたい。
それは彼女たちの為になる。そう信じたい。
続く




