副村長襲撃
夕方になり雨も小降りに。通行止めも解除する算段となった。
台風の脅威から解放され傘を差し話し込む島民の姿も。
副村長も急ぎ足で自宅へ。
聞き分けの悪い連中じゃなまったく……
どうしても愚痴が止らない。ブツブツと声に出てしまう。
良くないと分かっているが癖になっており厄介。
「儂の立場も少しは考えて欲しいわ。誰が外の者の味方をした?
考えが浅い。浅すぎるぞ。まったくどうなっておるんじゃ! 」
つい独り言を繰り返してしまう。年は取りたくはない。
「大変ですね」
後方から男の声がする。
「ああ聞こえておったか。これは恥ずかしいところを…… 」
「副村長さんも大変ですね」
振り向くと雨具とヘルメットで顔を隠した男が銀色に光る物を手に。
刺されそうになるが咄嗟に左手で庇い、右手で叩き落して危機を脱する。
一瞬の出来事。素早い反応で回避。
襲撃者は落としたナイフを拾うと来た道を戻っていった。
「どうやら今回は本気らしいの。警告は受け取ったぞ。うう…… 」
もはやどこにもいない男に向け吐き捨てる。
今回の襲撃は挨拶代わりの脅し。殺す気はなかった。
殺したければ後ろから突けばいい。動けなくなったところに止めを刺せばいい話。
だが奴はそうはしなかった。動きも緩慢で防御する時間を与えてしまった。
くそ意識が朦朧とする。誰か! 誰か……
もう儂も歳か。長くはない。持って三十年ってとこか。
まったく島から悪を一掃するには余りにも時間がない。
雨で血が洗われる。撥ねた血もきれいさっぱり。
左手を雨から守る。
そうしなければ血が固まらずにどんどん流れ出てしまう。
急がなくてはならんな。目が霞み始めた。このままではまずい……
痛みが薄れていく。目の前が白くなる。
「誰か! 」
何とか振り絞った声が届くことはなかった。
「副村長! 副村長! 」
「大丈夫ですか」
副村長が刺されたらしい。これは一大事。
シードクターが駆けつけ応急処置を施す。
血は出たものの傷は浅く……
止血後患部を消毒し包帯を巻くと病院に行くことなく様子を見ることになった。
発熱もあり三日は絶対安静。今は布団の上。
交代で看病をする。
「それにしても一体何が? 」
「済まない大河君。今薬が効いてようやく寝たところなんだ。
詳しい話は回復してからにしてくれないか。悪いね」
島のことには関わるなと言うことか?
いや考え過ぎか。とにかく目を覚ますまでは待つしかない。
ざわざわ
ざわざわ
副村長刺されると噂が立ち押し掛ける島民たち。
「副村長大丈夫ですか? 」
「お見舞いに来ました」
「今は絶対安静です。お帰り下さい」
シードクターは不安そうな島民たちを諭し帰す。
一時間後副村長がようやく目を覚ます。
「済まんかったな皆。心配をかけた」
「一体何があったんですか? 」
「おお大河君も心配してくれるか。じゃがなここでは言いにくくてな…… 」
シードクターが集まった者を外にやると再び促す。
「まあ良かろう。これは内密にするんじゃぞ」
念を押す。一体、今日何があったと言うのか。
「儂の考えに不満があるようじゃ」
息苦しそうに続ける。
「今日はな反対派の集会に顔を出した。今までも何度か対立してきた訳じゃが……
今回は抑え込めずに険悪な雰囲気となり帰路に襲われた次第じゃ」
話し終えたのかゆっくり麦茶を流し込む。
やはり苦しそうだ。
「具体的には? 」
心配するシードクターは詳細を求める。
「これは他言無用。特にミス・マームには漏らすでないぞ。分かったな? 」
随分警戒してるな。言われれば守るが。
「マウントシーの洋館自体が気に入らないそうじゃ。
困った奴らじゃ。これも島の為だと言うのに。
維持やメンテナンスその他諸々の経費が島の財政を圧迫していると。
確かに圧迫し続け今後も悪化の一途を辿るだろう。
儂もそこが頭の痛いところ。反論はできん。
ただそれだけならば許せるが腹が立つことに少女たちを目の敵にしている。
洋館の者は諸事情があるとはいえ決して歓迎されたものではないとな。
仕舞には得体の知れない男を匿っていると批判が上がっている。
副村長の権限ではもう抑えることが出来ない。定例会議でも不満が出ておったわ。
次は何してくるか分からん。お主もマウントシーの住人。少しは自覚を持て! 」
少し考え込む。
「分かりました。このことは誰にも。しかし彼女たちにはそれとなく伝えます」
危険が迫っていると改めて認識させられる。気を引き締める必要がある。
「ふう疲れたわ。そろそろ寝るとしよう」
副村長は大人しく横になった。
続く




