番外編2 隠し事
私、オリビアが朝目を覚ますといつもの様に大きすぎるベッドの中は私一人。
寝るときは一緒だったはずの夫の姿は無かった。
最近はいつもこうだ。
結婚して約半年が経ち、ノワールは無事に公爵の地位を賜り私は公爵夫人となった。
クリフからもノワールのおかげで第三騎士団で楽しくやっている旨の手紙が来て、私はとても彼に感謝していた。
城の修繕もやっと全て終わったため、今日私達のお披露目の夜会が行われる。
私としては結婚式にも近いものを感じてとても楽しみにしていた。
けど……。
近くに置いてある呼び鈴を鳴らし、侍女のベラを呼ぶ。
「おはようございます、オリビア様」
「……おはよう」
「どうしました?悪い夢でも見ましたか??」
「…………ねぇベラ、ノワールは書斎?また朝早くから?」
結局のところ、私の魔王業は辞めたもののノワールは公爵となったときこの貧民街の土地を陛下から賜った。
そのため、古城を改装して私達の城として暮らしていた。
じっとベラを見つめながら聞くと彼女は何とも言えない顔で頷いた。
「はい、急ぎのお仕事でもあるのでしょう、朝食は一緒に取ると伺っておりますのでまもなくこちらにいらっしゃるかと思います」
寝間着から普段用のドレスに着替えつつ、ベラの話を聞く。
「そう……」
ここ一ヵ月ほどのノワールの様子はどうにもおかしかった。
夜、求められる回数も目に見えて減ってきているし何より出かける用事があればこれ幸いと外に出ている。
少し前は余程のことが無い限り私との時間を優先していたのに……。
私も公爵夫人として古城と保護している子供達の管理があるため昼間はそれなりに忙しい。
だから会えるとすれば夜とこの朝、もしくはたまの休みくらい。
憂鬱な気分で普段着のドレスを着終えると軽いノックがされた。
「ビア、入ってもいいかな?」
「えぇどうぞ」
ノワールが中に入ってくると一緒に使用人が朝食を運んできてくれた。
私と同じくらいの年齢で素朴だがなかなか可愛らしい顔立ちをしている。
「おはよう、今日も綺麗だよ」
「……ありがとう」
流れるようにキスをされる間中もずっと女使用人から私は目を離さなかった。
ノワールはこの一ヵ月ほとんど朝早くに起きて書斎にこもっている。
そんな早い時間に毎回外の人間を招き入れていれば流石に気がつく、なら中の人間が怪しい。
もし彼が浮気をしているなら使用人か侍女ということになる。
「ビア?ミーシェがどうかしたかい?」
きょとんとしながら件の女の名前を呼ぶノワールをつい睨んでしまった。
いけないと思いつつも、どす黒い気持ちが溢れかえってくる。
「……たかだか使用人を随分親し気に呼ぶのね」
「え??親し気……だったかな?彼女は平民で姓が無いから名前で呼ぶしかないし……」
「分かったわ‼もういい‼‼」
話を吹っかけておいて私はそれ以上聞きたくないとノワールの言葉を切り、ミーシェが用意してくれたオムレツに手を付けた。
ノワールもそれを見て、これ以上深入りしない方が良いと思ったのか自分の分に手を付け始めた。
「…………ねぇノワール、さ、最近……朝早いけど何をしているの?」
流石にさっきのやり取りは子供っぽ過ぎた。
反省して努めて冷静に普通を装って聞くと、ノワールは彼らしくも無くビクリと跳ねた。
「仕事……だケど……ごめん、寂しい思いをさせているかな」
声が裏返っているし、明らかに動揺している。
もう確定だ、ノワールは私にやましい隠し事をしている。
妻である私へのやましい隠し事など浮気しかない‼‼
「ブッ‼‼アッハハハハハハ‼‼‼ハワード様が浮気っすか⁉」
浮気が確定した今、私はノワールとの朝食を早々に切り上げ、どうせ今日は夜会まで予定が無いためディーンを見つけ出し情報を吐かせていた。
が、ディーンはノワールの浮気が確定したことを伝えると腹をかかえて笑い出してしまった。
「何がおかしいのよ‼ノワールが浮気しているのは事実なの‼‼いいから白状しなさい‼どこの誰なの⁉あの使用人⁉」
「いや、オリビア様がどの使用人を言ってんのか分かんないっすけど、とりあえずハワード様は浮気してないっすよ、ねぇトーマスさん?」
ディーンだけを呼んだはずだったのにいつの間にかトーマスも部屋の外に待機していたらしく、扉を開けて頷いてきた。
「左様、ハワード様はオリビア様を裏切るような男ではありませんぞ」
「そうそう、なんなら証拠あるっすよ」
「証拠?何?」
「あんれぇ?オリビア様変に思ったことないっすか?ハワード様の直属の部下って俺達二人だけなのかな、とか」
そういえばそうだ。
元々ディーンとトーマスは私の護衛兼師匠。
もし本当にこの二人しか直属の部下がいないのなら二人が私についている間は仕事が回らなかったことになる。
不思議に思っているとディーンはニヤッと笑って昔みたいに頭を撫でてきた。
「他のヤツももちろん居るっすけど、ハワード様がオリビア様と会わないように調整しているんすよ、どいつもオリビア様と年齢近くて結構良い顔してるんで」
「それってもしかして妬きもちやいて」
最後まで私が言う前に窓から侵入した黒バラの雪崩に飲み込まれ、ディーンの姿は消えた。
代わりに窓からは黒い笑顔をしたノワールが黒バラに乗って入ってきた。
「…………ディーンとトーマスに用事があるんだ、少し借りてもいいかな?」
「え、えぇ……」
結局、その後にノワールと話すことは出来ず、お互い身支度をして夜会に向かう馬車でやっと会うことが出来た。
最近少し心の距離を空けられていたのが嘘の様にノワールは私の腰を抱きよせ、体を密着させていた。
ほんのちょっと空きがあっただけとはいえ、久しぶりの彼の体温にドキドキする。
「ビア、顔が赤いみたいだけど調子悪い?今日はやめておこうか?」
「い、いいエ⁉大丈夫よ‼」
「プッ!ハハッ‼声が裏返っているよ、どうしたの?緊張してる?」
「えぇ、少し……」
何となくノワールの方を見るのは気恥ずかしくて視線をさまよわせると、馬車の中で青い顔をしているディーンと目が合った。
彼は暗い表情のまま急いで視線を逸らした。
トーマスも虚ろな瞳をしている。
「ディーン??」
「あぁ気にすること無いよ、ディーンには少しお仕置きをしたんだ。いくら愛する妻にとはいえ主人の秘密をばらすなんて部下にあるまじき行為だからね」
ノワールは軽く鼻を鳴らすと、それ以上話す気は無いらしく私の頬に口づけしてきた。
少し前、新婚ほやほやの時に戻ったみたいだ。
会場に着くとノワールは慣れた様子でエスコートしてくれて、会場に入る。
「紳士淑女の諸君!今宵は我が息子ハワードの結婚を祝い、存分に楽しんで行って欲しい!」
誓いのキスもウェディングドレスも無い、ただのお披露目目的の夜会。
ほんの少し寂しい気持ちはするがノワールが以前の様に接してくれるようになった今、そんなことはどうでも良かった。
「愛するオリビア夫人、僕と踊っていただけますか?」
あの秘密の庭園で誘ってくれた時よりも、遥かにスマートにノワールは手を差し出してきた。私も迷いなくその手をのせる。
「もちろん、愛する夫の申し出なら喜んで!」
曲が流れ、二人で組み合って息を合わせて踊りだす。
心なしかあの秘密の庭園で踊ったときよりもノワールは体を寄せてきている気がする。
それでももちろん、嫌じゃない。
「ねぇノワール?」
クルリと回り、また彼の腕の中に収まって私はじっと愛する夫を見つめた。
ノワールも愛情深い瞳で優しく微笑んでくれる。
「うん?」
「この一ヵ月、何をしていたの?」
聞いた瞬間、ノワールはカッと目を見開いてステップを間違えた。
「それは……」
「私、浮気されたと思ってとても寂しかったのよ?」
ノワールの気持ちが私にあるのなら、扱いはもう心得ている。
瞳を潤ませ、じっと上目遣いで見つめて寂しげな表情をすると彼はたまらず溜め息を吐いた。
言ってはなんだがノワールは私限定でチョロい。
その特別感が戻ってきて、愛されていると実感出来て嬉しくなってくる。
そしてノワールは語りだした。
「………………惚れ薬を……作っていたんだ」
「な‼」
「しーっ」
軽く唇に指を当てられ、私は口を噤んだ。
「この半年、僕はすごく幸せだったんだ。けどそれと同時にいつも朝起きてビアの寝顔を見て不安になった、君が他の人を好きになったらどうしようって」
「そんなことしないわ」
「うん、分かってる。ビアのことを信じているし、万が一そんなことがあっても言ってた通り関係者皆殺しにして広場に吊るし上げる、それはいいんだけど……」
いえ、良くないからね?
まるで事務作業のごとく平然と言っているがノワールは本気なだけに危うい。
「それでも、ビアの気持ちを繋ぎとめておける決定的な保険が欲しかったんだ。僕ばかり日に日に好きになっていってこのままじゃビアを監禁しかねなかったからね」
スリッとまわされた手が背中を這い、思わず背筋がこれ以上ないほどに伸びた。
私を見つめるノワールの瞳は一瞬普段よりもギラついて怖い。
でもちょっと、ううん、かなり嬉しい。
ノワールは私を裏切ったわけじゃなかった。
曲が終わりそのままノワールをバルコニーに連れて行く。
「ビア?」
そして私はおもむろに彼の頭を引き寄せて熱いキスを交わした。
同じくバルコニーに出てきていた人達がドン引きするほどの熱いキス。
「ノワール、監禁は嫌だし薬を飲むのも抵抗があるけどそういうときはちゃんと言って。ちゃんと貴方が安心出来るまで傍に居て貴方を好きだってこと、心配になる必要無いんだってこと態度で示すから‼」
そっとノワールの首の傷を触れば彼もそこに手を合わせてくれた。
「分かった、ビアが他の男を見るだけで殺したくなることも、本当は寝室から一歩も出ないで欲しいことも、いっそのこと首輪をつけておきたいことも今度からはちゃんと言う」
「そ、そうして頂戴」
狂気的な愛情をもつ、私の王子様。
またいつも通り私は彼と愛を深め合う毎日に戻ったのだった。
「そういえばディーンにお仕置きって何をしたの?」
「あぁ、惚れ薬の実験も兼ねて馬に惚れさせたんだ」
「…………」
可哀そうに。
口に出すとまたディーンに被害が出かねないため私はそっと心の中だけでディーンにエールを送った。
頑張って!ディーン‼
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既にしていただいた方、ありがとうございます‼
次回、トーマス視点を出して本当に最終にしたいと思います!
3月27日更新です!




