番外編3 トーマス視点
誤字脱字報告ありがとうございます‼
※トーマス視点です!
「第一騎士団団長トーマスでございます。陛下からの勅命により、本日より両殿下の剣術指南をさせていただくことになりました」
「うわぁ、兄上!剣術ですよ‼絶対俺が勝ちます!」
「ハハッそうだな、僕も剣術は初めてだ!負けないように頑張るよ!」
私、トーマスが今お仕えしている主、ハワード様とちゃんと関わることになったのはハワード様が5歳の時だった。
始めはどちらに肩入れするつもりもなく、王になった方にそのまま忠誠を誓おうと思っていた。
「本日は剣術がどんな物なのかを知っていただくことに注力するつもりです。お二人で私を倒しに来てください。お二人の剣が私に一太刀でもすれば……そうですな、今日の勉強は全てしなくていいと陛下に進言致しましょう!」
「やったー‼頑張りましょう兄上‼」
「あぁ!」
打ち合いを始め、数分して私は二人の違いに愕然とした。
2人とも今日初めて渡した木剣の重さに体をもっていかれ、木剣に振られているのは変わらないが視点が明らかに違う。
アレックス殿下は私の正面だけを攻撃し、受けられても何度も剣を叩きつけてくるのに対し、ハワード様は私の後ろに周って出来るだけ視界から外れて隙をつこうとしてくる。
油断すれば金的まで狙ってくる徹底ぶりだ。
もちろん試合には私が勝った。
30分もすれば二人とも木剣の重みといつもしない動きでへとへとになり、座り込んでしまった。
「騎士団長強すぎる‼‼」
「いやはや、強く無ければ団長としての面目が潰れてしまいますので」
アレックス殿下の文句に付き合っている間もハワード様は隙あらば一太刀入れられないかと私をじっと見据えていた。
一介の剣士として、こんなに楽しいお人はいないと思う。
柔軟で合理的、そして強かな殿下に期待せずにはいられなかった。
「ほら、腋が空いておりますぞ!ほれ!」
「くっ‼」
約一年もするとお二人は木剣を持つことにも慣れ、特にハワード様は目覚ましい成長を遂げていた。
私が軽く腋めがけて剣を振れば、ハワード様は少ない力でいなそうと木剣をすべらせる。
私はついついハワード様中心の稽古をしてしまっていた。
「トーマス第一騎士団長、最近ハワード殿下への肩入れが過ぎないかね?」
それはとある大臣からの言葉だった。
「いや、面目ない。両殿下には平等にするように心がけているのですがどうしても剣士としての心がうずいてしまって!」
確か彼は侯爵の位をもつ大臣。
そして陛下とは不仲であり、いつも王を傀儡にしようと躍起になっている一人だった。
大臣は私をじっと見つめると鼻で笑った。
「政治に関心が無い者は幸せだな。だがあまり肩入れしないことだ。王族が剣を持つのはただの運動のため、実際には王の周囲の者が全て考え、そのお命をお守りすればいい、違うかな?」
普通に聞けば真っ当なことを言っている様に聞こえる。
だがこの時私には大臣がこう言っている様に思えた。
『王は愚鈍で良い、周囲の者がその命も握れるように王自身は弱くあるべきだ』と。
「……いやはや、生まれも育ちも平民で剣と共にしか生きていない私には分からない世界ですな」
「フン!分からないならそれでいい。くれぐれも余計は真似はせんようにたのむよ」
「ハッ!肝に銘じておきます」
恭しく頭を下げれば大臣はまたしても鼻を鳴らして立ち去った。
しばらくはそのまま頭を下げ、十分に距離が離れたことを確認して歩き出せば私を密かに尾行してくる影が3つ。
なめられたものだな。
退任まであと一年となった老害ではあるが、よもや運だけでこの地位に辿り着いたと思われているのか、それともただ私の動向を探るだけが目的なのか。
殺そうか泳がせようか迷っていると、曲がり角で一人で歩いているハワード殿下と出くわした。
今日は第二騎士団が護衛のはずだが、その姿は全く見当たらなかった。
大臣の考えでいくのならば、両殿下の内生かされるのはアレックス殿下のみ。
ハワード殿下は賢過ぎるきらいがある。
だが王族を守ることを義務とした騎士として、殿下がみすみす殺されるのを指をくわえて見ているわけにはいかない。
「殿下、お一人でどうされたのですかな?お付きの者は?」
「さぁ?腹でも壊した設定なんじゃないかな?代わりの者も来る気配は無いね」
「‼‼……殿下〝設定〟とは……」
私が驚いて聞けば、ハワード様は軽く笑って返してきた。
「どうやら今日が僕の命日らしいね、世話になった」
それだけ言うと何でもないかのようにハワード様は歩き出した。
彼は気がついていたのだ。
齢六つにして、今日己が暗殺されるかもしれないことに。
「お待ちください殿下‼なら私が護衛を‼」
「止めた方がいいよ。騎士団長もその地位と退職金が惜しいだろう?大臣が君に濡れ衣を着せるために他の貴族を殺せばそこから出てくるのが偽の証拠であれ、平民である君は簡単に首が飛ぶ」
「‼‼‼……殿下、なぜこの事を陛下にお伝えしないのですか?」
「え?だって意味が無いだろう??」
私の質問に幼いハワード様はきょとんとした顔で答えた。
その表情は本当に不思議そうで、幼いながらに全てを悟っている彼が私はとてつもなく切なく感じてしまった。
陛下も妃殿下も人並みに愛情を注ごうとするが、ハワード様はいつもそれを〝正しくあるべき子供の顔〟で付き合っていた。
「僕がもし、今生きながらえたとしても次はもっと気づかれない方法であいつらはやってくる。そんなのに毎回耐えるよりもサクッと殺してくれた方が僕は良いと思うね」
「……ならその都度、私がお守り致します」
「騎士団長?」
私は膝をつき、腰の短剣を抜いてハワード様に差し出した。
「ハワード・ウェントワース第一王子殿下、私は御身をお守りするためこれより第一騎士団団長の職を辞任致します。どうか私を私兵としてお雇い下さい」
「騎士団長、申し出はありがたく思うけれど却下するよ。僕は頭は良いけれど人への愛情や思いやりが枯渇した人間なんだ。守る価値は無いよ」
「大丈夫です、いつか殿下が本当の愛を知るその時まで、どんなに長かろうともこの命尽きぬ限りお供し、殿下に私の知識と技術の全てを捧げましょうぞ!
だからもう少し、足掻いてみましょう!もしかしたら殿下にも好きで好きで気が狂ってしまうほどの女性が出てくるかもしれませんぞ」
「僕がぁ?ありえないね!…………でも、本当にそうなったらもうちょっと楽しくなるかもね。いいよ、色々教えてよ!元騎士団長!」
「あれから11年、意外と早かったですな。気が狂う程の相手を見つけるのは」
夜会の帰り、馬車の中で寝ているオリビア様を愛おしそうに見ているハワード様に言えば、彼は睨んできた。
「別に気は狂っていないだろ」
「そうですなぁ、では私が間違っていたということでこの老いぼれはオリビア様の護衛を外れさせていただきましょう」
「駄目だ死ぬまで働け!ビアを守れ‼」
「……ん、ノワール??何かあった?」
「な、何でもない‼もうちょっとかかるからゆっくり寝ていていいよ」
普段の冷酷な声は鳴りを潜め、甘く優しく語りかけてオリビア様の額にキスする様は昔のハワード様からすれば十二分に気が狂っていると言える。
しかも、彼女に嫌われたくなくて惚れ薬を作るために彼女を放置するという矛盾をする程にハワード様はオリビア様が関わると頭が弱くなってしまう。
「あの時、生きる選択をして良かったですな、殿下」
「……そうだな、じゃないとビアに出会えなかった」
ブスッと昔は見せなかった子供の様にむくれた顔は17歳にしては少々幼い顔だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました‼
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