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最終話


「ク、クリフ……」

「は、早くとらえろ‼兄上に近づけるな‼‼」


アレックス殿下の声で呆けていた騎士達は一斉に動き出し、無抵抗のクリフを捉えた。

捉えられる一瞬クリフと目が合い、彼は優しく笑いかけてきた。


「クリフ‼お前には兄上殺害未遂の容疑がかかっている‼‼」


「はい、分かっています、ですが今日この場は皆平等に発言する権利を持つ場。俺は罪人ですが聖女の被害者でもあります。発言をお許しいただけませんか?」


アレックス殿下に語り掛けるように言っているが視線はノワールを捉えていた。


「…………いいだろう、彼と僕が聖女キャメルの一番の被害者だ、同席と発言を許可しよう。アレックス、騎士の拘束も解いてやれ」

「……兄上がそう言うなら…………」


ノワールが答えたことでアレックス殿下も了承し、騎士に手を離させた。

クリフはそれを確認すると着ているシャツのボタンに手をかけ語りだした。


「俺は幼い頃孤児院に居ました。その孤児院では人身売買が行われていてそれを止めようとしたこちらのオリビア公爵令嬢をかばい、傷を負った」


クリフが上半身裸になると場内は騒然とした。

女性達が目を背け、男性たちも痛々しいものを見る目でクリフの背中を見つめる。

そこには何十か所という切り傷が背中にまんべんなくあった。


「後から分かったことですがその人身売買も、この傷を負うことも全て聖女キャメルによって仕組まれていたそうです。自身が作った筋書に沿うように俺の暗い過去が必要だったらしい。


そしてその後、オリビア公爵令嬢に身分違いの恋心を持つ俺に彼女は近づいて来た。王都で流行っている傷薬と偽り俺に正気を失う薬を飲ませた。

愛してやまないオリビア公爵令嬢の男を殺す様に唆され、俺は血迷ってこちらに居るハワード第一王子を刺した」


クリフは言いながら、先ほど私に切実に訴えていた男性の元に歩いて行った。


「貴方に分かりますか?幼いころに信じていた人に裏切られ、殺されそうになり、成長しても騙され愛する人の男を殺そうとし、彼女が手に入ると思っていたのに逆に彼女に嫌われ撃たれるその気持ちが」


「い、いや……俺は…………」


「オリビア公爵令嬢は何も聖女キャメルを許せと言っているのではないのでしょう。ただ感情のままに殺すことを良しとしていないだけだ、違いますか?オリビア公爵令嬢」


ノワールに守られるように抱きしめられながらも私は強く頷いた。


「俺は、俺の人生全てを弄んだ聖女キャメルが憎い、けれど、この感情のままに殺せば必ず後悔が残る人間が出てくる。聖女を殺したことを胸を張って友人や子供に言えないでしょう?だから、オリビア公爵令嬢を支持します、聖女キャメルは殺さず永久幽閉するべきだ」


チラッとクリフがノワールに視線を合わせると、彼もとんでもなく眉間に皺を寄せていたが頷いた。


「あぁそうだな。僕も聖女キャメルの策略のせいで死にかけた身だが、このまま殺すのはどうかと思う」


ザワザワと講堂中にざわめきが広がっていく。

それはそれとして、そろそろ空気的にもノワールの腕の中から抜け出したいのだがノワールは一切離そうとせずに逆に力を強めてくる。


「えっと……それではここで予定していた多数決を取りたいと思います」


進行役の文官が戸惑いながら言うと、講堂の人たちは結局3分の2がキャメルを生かして永久に幽閉することに賛成してくれた。

キャメルは無罪か有罪かの判断ではなく、有罪は決定していて死ぬか一生幽閉かの判断だったことに不満をもっていそうだったが何も言わずに騎士に連れていかれた。






「あの……クリフ……」


クリフが騎士に連れていかれる直前、何となく声をかけてしまった。

講堂に居た貴族も平民も皆、お開きとなり扉から帰っていく。


「……ありが」

「これで貸し借り無しだな!」


ニカッと子供の頃に見せた屈託のない顔をして、クリフは騎士に自ら連れられて行った。

前世で好きだったクリフは陰鬱なところがあった。

でも今は明るい子供時代そのままに大きくなったように見えた。


じっと微妙な気分でクリフを見つめていると不意に後ろから抱きしめられた。

そして低くほの暗い声で囁かれる。


「ビア、僕は何があっても別れないしそれ以上見続けるならアイツを殺す」


そっと振り向けばノワールの瞳は鋭く光っていた。

本気を示すかのように白目の部分は少し血走っている。


さっきとは別の意味で怖い。


優しく安心させるように抱き着きながらキスをするとノワールの瞳も少し正気を取り戻してきた。


「不安にさせてごめんなさい」

「……ビア、僕のこと好き?」

「好きよ」


「本当に?愛してる?」

「えぇ愛してる」


「一番?」

「一番愛してる!もうノワール‼二人きりじゃないんだからそれくらいにして!」


私が困るのを分かってやっている。

ノワールはクスクス笑いながら私の額にキスすると、ドン引きしているアレックス殿下と陛下に向き直った。


「父上、ビアの悪評は払拭されてゴミ聖女の件も片付いたのであの約束を履行(りこう)してください」

「あぁ……おい、あれを」


陛下が指示すると上等な羊皮紙で綴られた二枚の書類が出された。

一枚はアレックス殿下との婚約解消の書類、そしてもう一枚はノワールとの婚姻の書類だ。

私は差し出されるままに二枚に署名した。


アレックス殿下は当初私との婚約解消に反対していたが、ノワールが王位継承権を放棄することを引き合いに出すと即行で翻った。


ノワールが居なくなってからずっと自分が次代の王として育てられたから、その椅子への執着も仕方が無いが何とも言えない。


署名が終わるとノワールは私を引き寄せて抱き上げた。


「ハハッ!これで名実ともに僕のビアだ‼‼ありがとうございます父上‼」

「あぁ……末永く幸せになりなさい」

「はい‼」

「ありがとうございます陛下」


ノワールに横抱きにされた体勢で失礼極まりないが一応会釈をしながらお礼を言う。

恐らく今の彼に言っても降ろしてくれないだろうし。


この世界では婚姻に関して結婚式などは無い。

婚姻した後にお披露目の夜会をすることはあるが、王宮が現在復旧中のため今は難しい。

何とも寂しい結婚だ。


るんるんで飛んでしまいそうな程に喜んでいるノワールとは対照的に私は何となく現実味が無く、気持ちが乗れずにいた。

そんなことお構いなしに彼は私を抱いたまま馬車に乗りこんだ。


「ビア、しばらくは古城の僕の私室で一緒に暮らそう。僕はこれから王位継承権を放棄して公爵あたりの爵位をもらうからその後で二人の屋敷は建てよう」

「えぇ、分かったわ」


馬車に乗っている間もノワールは何度もキスしてきて抱きしめてくる。

彼にそういったことをされるのは普通に嬉しい、けど何か微妙だ。


別に王宮が壊れていることはノワールのせいじゃないし、この世界が紙一枚で結婚が成立するのも特に不満は無い。

けどなんかこう……前世高校生としてはもっと結婚に幻想をいだいていたから……。


普段ならノワールは私のそういう細かな感情にまで気がつくけど、今日は喜び過ぎて気がついていない。

別に気がついたから何が出来るってことでも無いし……。


考えごとをしていると古城に着き、ディーンが馬車の扉を開けてくれた。

その後ろにはトーマスも控えている。


「お二人ともおめでとうございます!で?殿下あとは予定通りっすか?」

「あぁ!今日はビアを帰すつもりはないから仕事は諸々やっといてくれ!」

「承知致しました、いやぁあの小さかった殿下が結婚とは感慨深いですなぁ」


??帰すつもりはない?


「ノワール?どこに行くつもりなの??」


私が聞くと、ノワールは悪戯っぽく微笑みながらまた私を抱き上げた。


「良いところ、かな」


抱き上げられたまま古城の野菜だらけの庭園を突き進み、いつもの秘密の庭園も通り過ぎた。そして黒バラの蔓が道を開けるとそこには美しい藤の様な花が上から垂れ下がり、紫色に光り輝いていた。


一つの枝に数十の花が垂れさがり、花の天井を作る様は藤に見えるがよく見ると光る花の種類は別のものだった。小さな胡蝶蘭に近い花びらをしている。


「……これ、デンファレ?」

「そう、まさに僕らだろう?」


デンファレの花言葉は〝お似合いの二人〟


「ふふっそうね!」


笑っているとノワールは私を芝生に降ろして片膝をついた。

そして懐から小さな箱を出して中を私に見せる。


これって……。


「愛してるよビア、結婚して欲しい」

「ノワール‼‼‼‼‼」


小さな箱に入っているのは同じデザインで色違いの指輪だった。

少し大きめの方がアメジストをつけ、小さい方はエメラルドをつけていた。

石聖祭でノワールと一緒に買いに行くはずだった指輪だ。


「ビアの前世ではこれが習わしなんだろう?だから指輪を選んだかと思っていたんだけど……合っているようでよかったよ」


嬉しくて、涙を流しながら頷くだけの私にノワールは左手をとって指輪をつけてくれた。

次に自分で指輪をはめようとしていたノワールを静止して私がはめる。


「ビア、返事は?」

「もちろん!喜んで‼」


思いきりノワールに抱き着き、誰にも渡さないように強く強く抱きしめる。

その様子にノワールはケラケラ笑い、そして私たちは一晩中愛し合ったのだった。


面白い!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>

既にしていただいた方、ありがとうございます‼


ここまで読んでいただきありがとうございました‼

来週からは気ままに番外編をいくつか書いて終了致します!

ご興味があればそちらもよろしくお願い致します‼


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