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遅くなってすみません。
書けたので出しました。
怖い。
私、オリビアがノワールの腕を軽く引き寄せると彼は優しくそっと手を重ねてくれた。
ノワールと寝た日、流石にハワードと呼ぶべきか聞いて見たが彼は私にだけは平民ノワールとして呼んで欲しいと言っていた。
「さぁ、お互い待ちに待った議論を始めようか」
にっこりと素敵な笑顔で見る相手は何度も何度もノワールを殺した私も大嫌いなキャメル、でも……。
「議論なんか必要ねぇ‼殺せ‼」
「そうだ‼この場で殺せ‼」
「皆さん、お静かにお願いします‼」
一人が殺せと声を荒げればまるで感染するかのようにその言葉は周囲から口々に聞こえた。
講堂内の警備についている騎士達が止めに入るが周囲の空気は悪化していく。
その様子をノワールは軽く笑うと私をエスコートして所定の場所に着席した。
キャメルは殺せと言うのが自分に対しての言葉とは分かっておらず、いまだに呆けた顔をしている。
「……ねぇノワール……この空気……」
「うん?あぁ、ちょっと焚きつけただけなんだけどね、彼女アレックスとニコラスと父上以外は人間だと思っていなかったらしくてね、結構な態度をとっていたらしいんだ。
だからだろうね、前までは聖女信仰があるから皆口に出せず周囲と情報共有することなど無かったが今は皆口に出すようになって己の怒りが正当であることを把握したんだろうよ」
あっけらかんと言うノワールはいつも見る優しい顔でも悪戯っぽい顔でも無く、心の底から彼女の生死などどうでもいいようだった。
「…………そう……」
ノワール、もといハワード・ウェントワースという男は元来とても残酷だ。
子供の頃から暗殺されかけた経験から、疑わしきは殺すということを繰り返しているし拷問も自身で表情一つ変えずにこなす。
ノワールと寝たあの日から一週間。
『ビアとゴミ聖女キャメルの印象操作をしたいんだ。ゴミに傷つけられてビアがふさぎこんでいることにしたい、だから一週間だけ公爵邸から出ないで欲しい、いいかな?』
と、言われ全く外出をしなかった。
ノワールとの小屋での出来事は幸せで恥ずかしくて、思い出しては一人でもだえている様な状態だったため私も誰にも会わないのは丁度良いと思っていた。
けど、軽いイメージ戦略みたいなものだと思っていたのにここまでキャメルが恨まれているなんて……。
広い講堂の中が殺気に満ち溢れていて、私に向けられているものでは無いと分かっていても怖い。そしてこれを扇動しておいてこの状況を軽く笑っているノワールのこともちょっと怖い。
このことをきっかけに彼が変わってしまいそうで、何か嫌だ。
「皆さま!今日はお集まりいただきありがとうございます‼今日ここに来ていただいたのは他でもない聖女キャメルをどうすべきかを話し合うためです!本日は平民や貴族、王族の垣根は忘れ、平等な多数決で判断をさせていただきたいと思います!」
中央の文官がまるで劇が始まる前かのように声を張り上げ演説を始めた。
そこに拍手をする民衆。
平等という言葉に相応しく、この場には王族以外は給与所得に合わせて上位貴族、下位貴族、平民、貧民全員が満遍なく着席していた。
ただし、流石に講堂に入れる人数は限られているため、比率を満遍なくさせている状態だった。
王族だけは人数の問題で国王、王妃、第一王子ハワード、第二王子アレックスの4人のみとなっている。
「俺の店はその女が安っぽいと言ったせいで潰れたんだ‼妻は疲弊して寝込んでる‼子供達には食い物も満足に与えられねぇ‼そんな偽聖女ぶっ殺せ‼」
拍手が収まるとどこからともなく怒鳴る声が聞こえた。
文官はちらっとノワールを見るが、ノワールは肩をすくめて好きにしろと合図を送った。
「私もよ‼私も、その女に殿下と目が合ったからと折檻されて使用人を辞めさせられたのよ‼王宮で解雇された使用人が次の職場なんて見つけられるわけないのに‼」
「私もです!その女がデザインが気に入らないからってある事無いこと言ったせいで仕事が無くなった‼」
次々と主にキャメルの周囲の使用人やお針子から出てくる恨み言の数々。
時折、キャメルによって没落させられた、彼女の虚言のせいで社交界に出られなくなったという貴族達も混ざり、キャメル一人を罵っていた。
「うるさい!モブの癖に‼私は聖女様なのよ⁉何が殺せよ‼そこにいる悪役令嬢を殺しなさいよ‼」
「黙れ‼何が悪役令嬢だ‼魔王様は俺達を救ってくれたんだ‼それなのにお前は!」
「そうだ‼魔王様がいなかったら僕たちは今頃他国で奴隷にされていた!」
キャメルはただただ叫び、虚勢を張りながら周囲を睨みつけていた。
それに対し周囲は更に怒りを増していく。
本来、聖女という一言が重くなる立場の人間は軽々しく非難する言葉を口にしてはならない。全てはキャメルの性格の悪さと軽率さ、そしてこの世界をゲームと思ったことから始まっている。
彼女に関しては救いようが無い。
クリフのことも傷つけ、ノワールを何度も殺し、どうしようもない女。
でも、一人の悪役を全員で糾弾しているその姿はまるでゲームで悪役令嬢を断罪している姿そのままだった。
ノワールはこの光景に満足している。
元々キャメルを愛していると言っていたアレックス殿下もニコラスお兄様も助けるつもりは無いらしい。
偶にゲームをしていて思った。
弱者となってしまったその一人を皆で糾弾するのは立場が逆転しただけの虐めに近いものがあるのではないかと……。
私はキャメルが大嫌い。
けれど、せっかく古城ですくすく育った子供達やノワールに彼女を殺させることは嫌だ‼‼‼
「ちょっと待ってください‼‼」
「ビア⁉」
私は立ち上がり、キャメルの前に立った。
ノワールも目を丸くしていた。
講堂中の最高潮に殺気立った視線が全て私を見て、何度も野盗達とは対峙してきたのに心臓が恐怖で縮み上がった。
が、私の大切な人達にキャメルを殺させたくない一心で拳を握る。
「か、彼女は確かに許されないことをしました。私達に記憶が無いとはいえ何度もこの国の王族を殺し、何人もの人生を捻じ曲げ、不幸に追いやった。……けれど、彼女は聖女です‼彼女を殺せばこの王国に禍がふりかかるかもしれない‼だから永久投獄くらいに……」
「許せと言うのですか⁉その女は家族を路頭に迷わせたのです‼貴方に分かりますか⁉我が子がひもじいと言って道端で物乞いをするつらさを‼」
「そ、それは……」
分からない。
前世女子高生、今世公爵令嬢の私はまだ一度もお金に不自由して今日のご飯の心配をするつらさなど経験したことが無い。
「それは分かりません‼ですが彼女をこのまま殺してしまっては必ず後悔します‼綺麗ごとなのは分かっています‼ですがどうか、彼女を殺さずに」
「ふざけるな‼‼」
「お前もその女の味方か‼‼」
「ビア、あの女は殺す、もうやめるんだ」
キャメルに向けられていた殺気が私に向き、すかさず私と民衆や貴族の間に入ってくれたノワールも私を止め始めた。
「ノワールでも‼」
言いかけたとき、ノワールに頭を押さえ込まれて抱きしめられた。
次の瞬間、苦しいくらいの熱風と強い光を放つ炎が会場中に渦巻き、そして消えた。
「オリビアやっぱり優しいなぁ」
聞き覚えのある声にドキッとした。
声の主は丈の長いマントを羽織っていたが、すぐに誰だか分かった。
この声、それにこの魔法……。
マントを羽織った青年はフードを外しながらゆっくりと壇上に上がってくる。
「ク、クリフ……」
フードから見えたのは赤い髪に赤い瞳、耳が欠け、そして見間違えるはずの無い頬に傷のある青年クリフだった。
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次回最終回、22時過ぎ頃に出します‼
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