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※ノワール視点です!
「流石ハワード殿下です!」
「貴方が要ればこの王国は安泰だ!」
「殿下の臣下になれることを心から喜び申し上げます‼」
僕、ハワード・ウェントワース第一王子は幼少期から、ずっと心にもない賞賛を浴びてきた。
いや、心にもないというのは正しくない。
彼らは本当に僕を賞賛しているし、僕がいればこの王国の平和を継続させられることも間違いではない。
でもその裏では僕を優秀過ぎる面倒な王子として暗殺しようとしていたことも事実だった。
「ありがとう、皆の期待に応えられるように精進するよ」
僕も形式通りの良い王子を演じて返すが、このやり取りが嫌いだった。
なぜ、僕は王子なのか?
なぜ、表の仕事にこれほどまでに力を注がなければならないのか?
13歳の時、ビアが僕の表向きの死を望んでいることを知り、僕はビアのためだと自分に言い聞かせて表舞台から消えた。
けれどそこから4年経ち、今では思う。
あの判断は本当にビアのためだったのか、と。
僕はあの時肩の荷が下りた様な、もう無理をしなくてもいいという安心感を得られていたことに気がつきながらもビアのためだと自分に嘘を吐いていたんだ。
「皆さんは魔王信仰というものをご存じでしょうか?」
僕が問うと、ビア以外の貴族達はザワザワと顔を見合わせた。
「……確か平民、それも貧しい者達が近年魔王と名乗る者から助けられたことから始まった信仰だと記憶しています」
ニコラスが言うと、下級貴族を中心にそれに追随する者達。
「あぁそういえば、私の侍従がそんなことを言っていたなぁ」
「私の使用人も言っていました」
「おや、そちらもですか、ウチのも……」
出てくる言葉の多さにビアがチラッとこちらを見てくる。
『ちょっと多すぎじゃない⁉わざと??』
わざとに決まっているだろう。
何しろこの会議に出席出来る程に影響力の高い貴族の使用人など、働き先としては最上位、そして僕やビアにとっては情報を得るのに最適な職なんだから。
驚く姿が可愛くて頬にキスしたくなったが流石にここでは抑える。
この貴族達の所に行かせたのは何も子供達だけではない。
ビアは子供を中心に助けていたが、貧民街の治安が多少安定してからは孤児以外は引き取らないが大人を助けることもしばしばあった。
その大人を多少教育して出したに過ぎない。
「ハワード、その魔王信仰が何だと言うのだ?」
「はい、その魔王を名乗る者がこちらに居るオリビア公爵令嬢です。ビアは7年程前から貧民街で腕試しの様な人助けを行っていたのです。その証拠に彼らはビアの声などを覚えているはずですよ?
古城で育った者なら顔や本名も知っています。ちょうどあの聖女が暴れた日から彼らの箝口令を解いているのでそろそろ王都全体にビアのことは広まる頃かと」
にっこりと告げると父上は目が落ちそうな程に見開いた。
「騎士からは銃の扱いに長けていたという話も出てきていたが……ハワードの話は真か?オリビア公爵令嬢?」
「はい本当です、ですがノワー……ハワード殿下からお借りした腕の立つ二人に指導してもらいながらです」
「ふむ、魔王信仰の話は私も聞き及んでおる。助けるだけでなく行き場の無い孤児には食事と寝床、高水準の学まで与えるとか。……この話が本当であれば其方はまるで」
「まるで本物の聖女ですね」
ニヤッと笑って父上の言葉を引き継げば、父上は僕の考えていることが分かったらしい。
この会議が始まって以来ずっとあった眉間の皺が無くなった。
呆けているビアに優しく笑いかけ、軽く頬にかかっていた髪を耳にかけてやる。
「ビア、民とは現実を見る生き物なんだ。聖女キャメルは覚醒後、父上を助けたがその後は治癒を全くしなかった。まぁアレックスが特にその場を用意しなかったというのもあるが」
「いやその……特に言われなかったから……」
お前は言われなければ息をすることさえしないのか、と一言苦言を呈したくなったがここはぐっとこらえる。
このビアが認められ始めた雰囲気に水を差したくない。
アクロイド公爵含めたビアを嘲わらっていた者達が、ビアを羨望の眼差しで見始めている。
「国王陛下のみを助け、己は王宮で暮らし遊ぶ日々をおくる伝説の聖女、対して悪党を蹴散らし孤児を助けその後の生活にまで関与し平穏を与える魔王、ビア、君ならどちらの話を信じる?」
「どちらって……どういう、あ‼」
疑問を口にしかけてビアは僕の考えていることが伝わったらしい。
僕は立ち上がり、周囲を見まわした。
「皆さん、随分と話はそれてしまいましたが一度今日の議題に戻りましょう!今日は聖女キャメルの処遇を話し合うための場、本来なら王族である僕の暗殺を企て王国を危機においやった人間は処刑が妥当だ‼なら何を話し合うのか!
それは聖女信仰によりキャメル亡き後、反乱が起きるのではないかと危惧をしているからだ‼だがどうでしょう?平民を含めた議論の場において、真に民に献身的な人間が聖女に騙され‼不遇な境遇に追いやられていたと証明されたなら‼
民は‼我々につくとは思いませんか⁉」
まるで劇の様だがこういった演出は存外に効く。
特に貴族の面々というのは刺激に飢えている、そんなところに救世主のごとき人間と案が出てくれば彼らは簡単に飛びつく、それに……。
僕が拳を握って〝合図〟を送るとアクロイド公爵と宰相は拍手を始めた。
そのほかの貴族もそれに従い、僕の案に賛成の意を示していく。
そう、この一連の流れは全て僕が作ったものだ。
アクロイド公爵にビアに懐疑的な意見を出して僕と敵対しろと指示を出していたが、あんな下品な感じでくるとは思わなかった。
おかげでビアでさえも僕が指示をしたとは思っていないが不快だった。
思わず笑顔でアクロイド公爵を睨むと彼はそっと目を伏せて謝ってきた。
まぁ、うまくいったから彼の持っている裏金をこっそり3分の2にしておくくらいに留めてやろう。
「流石はハワード殿下だ!」
「やはりアレックス殿下とは違いますな‼」
「ハワード殿下こそ次期国王に相応しい‼」
僕の心をざらつかせる言葉を貴族達は口々に言い、父上も僕を感嘆の眼差しで見てくる。
最後に父上も拍手の輪に入り、緊急会合は終了となり、平民を含めた議論の場は一週間後となった。
父上が帰って来たことにより僕とアレックスの仕事が格段に減り、丸一日の休みが出来た。
そして僕はその一日を使い、ビアと魔王城の秘密の庭園に来ていた。
「話って何?」
胡坐をかいた僕の膝の上に座っているビアが聞いて来た。
僕の髪色である水色のドレスを着ながら秘密の庭園で二人きり。
ここ最近はずっとアレックスと書類ばかりを見つめていた薄紫色の瞳が、僕を見つめていることが嬉しくて彼女の髪に黒バラを咲かせながら熱いキスをするとビアは受け入れてくれるが、納得がいっていない様だった。
「ノワール話って何?もしかしてただデートしたかっただけ?」
「ハハッ違うよ、だったらちゃんと誘うさ…………ビア、僕のこと好き?」
抱き込んで、ビアの肩に頬をつけて上目遣いで見つめ甘えた声を出せば、彼女は戸惑いながらもココアを脇に置いて軽く抱きしめ返してくれる。
「好きよ?どうしたの?」
「…………」
平民ノワールとして生きてみて、僕は心底実感していた。
僕は王になりたくない。
腹の探り合いも騙し合いも得意だし好きだけれど、どうしても表向きの仕事が多い国王の仕事というのが好きになれない。
子供の時、ビアは前世の記憶が蘇る前はずっと僕の婚約者になりたがっていた。
それは僕を愛しているからじゃなくて僕が次期国王になると思っていたから。
彼女はあの頃とは違う。
でも、僕は知っている。
国王という王国内最大の権力者の地位というのは人を惑わす魔力がある。
ビアは多分大丈夫だと思う。
僕が王になりたくないと言っても、アレックスに王位を譲るつもりだと言っても彼女は僕に変わらずに接してくれると信頼している。
でも万が一にも、ビアの心がアレックスにいってしまったらと思うと……。
グッと唇を噛みしめて僕が何も言えないでいると、ビアはそっと僕の頬を挟んで上を向かせた。
そして何度も何度も唇を重ねてくる。
「~~~~~っ‼な、何……」
「ふふっ元気でた?」
「…………でた」
クスクスと彼女は笑ってまた僕の口元に優しくキスしてくる。
あぁ、この手玉に取られている感じ、好きだなぁ。
僕からも額に軽くキスを返すと彼女は嬉しそうに体を摺り寄せてきた。
可愛い。
「ビア、僕が君をこの世界で一番特別な女性にする。他の貴族女性なんて目じゃない、王妃よりも聖女よりも国王よりも!ビアが影響力をもてるようにする。だから、僕が国王にならなくても……見捨てないで欲しい」
尻すぼみに声が小さくなるなんて普段の僕なら絶対しない。
ビアの反応が怖くてすがるように抱きしめ、僕はビアが反応するまで見つめ続けた。
「…………ノワール……ずっとそれを悩んでいたの?私が権力欲しさにノワールが国王にならなかったら離れていくと思っていたの?」
ひんやりとした声が彼女から発せられた。
悪役令嬢の演技のヒステリックな感じと違い、本気で怒っているときの声だ。
「いや、あの……」
「…………へぇ?そう、私って権力しか見てない女だと思われていたのね?」
「ち、違う‼そうじゃないけど、いざ権力をもてそうになったら」
弁解している最中にもビアは僕の胸倉を掴み、襟やループタイごと闇の魔法で消し飛ばした。
「ビア??」
「じっとして」
次の瞬間ビアは膝立ちになり僕を半眼で見下ろし、そして……。
「痛ってぇえええ‼‼‼」
首に思い切り噛みつかれた。
愛情表現での甘噛みなんて非じゃない。
僕の首から離れたビアの口元にはしっかりと血がついているし、噛まれた首は激しく痛みを訴えている。
訳が分からずただただビアを見つめていると彼女は僕の頬をそっと優しく撫でてきた。
まずい、ビアの銀色の髪が太陽の光に照らされていつもより綺麗なせいか、この異常事態に思考が追いついていないのかゾクゾクして、いけない気持ちになってくる。
僕はちょっとおかしいのかもしれない。
「私、絶対何があってもノワールから離れないから……ノワールが王子じゃなくても平民でも奴隷でも‼絶対に!離れるなんて嫌‼だからこれはその印。ノワールが生涯私のものだっていう印ね‼‼」
「印……」
首の傷口を触ればぬるりとした感触と共に、血がべっとりと指についてきた。
「「…………」」
「……ノワール、ご、ごめんなさい、ちょっと強く嚙み過ぎたかも……その、ノワールがいつかもっといい女性を見つけたら居なくなるんじゃないかって思ったらつい……キャア!」
気がつくと僕はビアを芝生に押し倒していた。
「ノ、ノワール??あの……なんでそんなに嬉しそうなの??」
「ハハッばれたか!」
さっきまで僕を見下ろしていた彼女の髪を優しく撫でると、ビアはビクリと肩を揺らして縮こまった。
いつもこうだ。ビアは途中まで積極的に来るくせにいざそういう雰囲気になると逃げる節がある、でも今日は逃がさない。
印と言ってはっきりと血が出るほどに噛みついてくるなんて常軌を逸している、けど僕はそんなビアだからこそ安心して愛することが出来る。
『彼女に愛された人間は幸せだな、その時の状況など関係なく絶対の味方だと信じられるのだから』
子供の頃、前世の記憶を得たビアと初めて会った日の自分の言葉を思い出し、僕は小さく笑ってしまった。
まったくその通りだった。
ビアは僕の立場や周囲の状況に関係無く、僕を愛してくれる。
こんなに嬉しいことあるだろうか。
「可愛いビア、僕を傷物にしたんだ。僕もやり返したいんだけど……いいかな?」
彼女の銀色の髪を根本からゆっくりと触っていき、ついでに首や肩にも触れていき、そして鎖骨のあたりで手を止めた。
もちろん僕のやり返すとは同じくらい首に噛みつくことではない。
そんなことをしたらビアが好きな首や肩が開いたドレスが着れなくなってしまう。
「えっと……陛下達に清い関係って言ったのに……しかも外で?」
「あの時点では清い関係だったし正直ビアの名誉が回復することがほぼ確定している今、それはもうあまり重要じゃない。周りからは見えない様にバラで囲っているけど気になるなら小屋の方に行こうか?そのための小屋だ」
この秘密の庭園を造るとき、雨の日にお茶をしたいという思いもあったがそれとは別に期待を込めて見栄えの良い寝室も小さいながら用意した。
「そのための……」
「そう、そのための」
にっこりと返すとビアはしばらく考え、僕を引き寄せてキスしてきた。
「お手柔らかにお願いします」
「善処するよ」
僕からも熱いキスを返し、そして……まぁ描写は避けるが僕は一日中ビアを愛で、最近の疲れもアレックスへの嫉妬もよく分からない不安感も全てどこかにいってしまった。
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次回27日更新です!
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