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「おぉハワード‼本当に生きていたのだな‼」
「ハワード‼」
「はい、お久しぶりです父上、母上」
キャメルの暴走から3日後、国王陛下と王妃殿下はアレックス殿下からの知らせを聞いて隣国での会合を早々に切り上げ、帰って来た。
使用人含め私達はというと、貴族からの支援なども受けつつ順番に睡眠もとりつつなんとか王宮は仮の復旧くらいには辿り着いていた。
国王陛下とノワールが手を取り合って互いを確かめるなか、私は少し後ろでアレックス殿下達と共に綺麗めなドレスを着て控えていた。
アレックス殿下はというと複雑そうな顔だった。
単純に兄が生きていて嬉しいと思う反面、今まで確実と言われていた王位が揺らぐのだから無理もないかもしれない。
「良かった‼お前が死んだと聞いて私達がどれだけ悲しんだと思う⁉」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ですがオリビア公爵令嬢に助けてもらい、こうして生きています」
私の名前が出たことで、国王も王妃も分かりやすく眉間に皺を寄せて私を見た。
「あー……その件は……他の高位貴族も含めて話そう」
「そうね、まずはハワードが生きていたことを喜ばなくては」
……そういえば、ノワールやアレックス殿下はどこまで陛下達に伝えたんだろう?
転生者などにわかには信じがたいし、ましてや今居るこの世界がゲームの世界など信じてくれるのだろうか?
事前にノワールからは私との話に齟齬が出ないように、ノワールの目の前で聞かれたことだけに答えるように言い含められていた。
アレックス殿下とニコラスお兄様には転生者であることを伝えたが二人とも状況が状況だっただけに反論しなかっただけで半信半疑、というかそこら辺の部分のみほぼ全く信じていないといった風だった。
他の高位貴族を含めた緊急会合の場に国王陛下やアレックス殿下達と共に行く際に、ノワールをじっと見つめれば彼は視線に気がついて振り向き、柔らかく微笑んでくれた。
本来こういった会合に女性は参加しない。
基本的に爵位を受け継げるのは男性だけだし、参加するとしても王妃ぐらいなものだった。
しかし、今回私は王妃殿下を差し置いて参加している。
キャメルの処遇に関する重要人物として出ないわけにはいかなかったのだ。
会合の場に着くと長い机が置いてあり、10数名の30代~60代までの紳士が立ち上がり、国王陛下に礼をしていく。
室内には使用人と貴族の護衛の人間が壁際に立っていた。
「皆ご苦労であった、急ぎの用件であるゆえ挨拶は省こう。座ってくれ」
国王陛下が扉から一番遠い上座、いわゆるお誕生日席に座り、そこから1つ空けて陛下から数えて3番目の席にアレックス殿下が近づいた瞬間、ノワールは割って入り3番目の席に着いた。
「兄上??兄上はそちらの席かと……」
アレックス殿下が2番目の席を指すが、ノワールは首を振る。
「いや僕はこの席だ。そこは僕が居ない間この王国と陛下を支えてきたお前が座るべきだろう。オリビア嬢はそのままこの僕の隣に座るといい」
一応書類上はアレックス殿下の婚約者。
本来ならアレックス殿下の隣に座るべきなのだが、ノワールは座ったまま近くに居た私の手を取り笑顔で誘導してくる。
これは座るしかないじゃない。
アレックス殿下も渋々といった形で席に着いた。
「ふん!あの噂はどうやら本当だったようですな、ハワード殿下?」
「噂とは何かなアクロイド公爵?」
この王国で公爵は3人のみ。
宰相、スミス・バイロン公爵。
お兄様のニコラス・オルブライト公爵。
そして、カルヴィン・アクロイド公爵。
50代半ばの公爵はじっとりと気持ちの悪い視線で私の胸あたりを見てきた。
思わず手を前で合わせて軽く隠すと、見下した目線で睨み鼻を鳴らした。
「貴方がアレックス殿下の婚約者に執心しているという噂ですよ。殿下、たしかに初めての女というのは思い出深いでしょうが、しょせんそれは一夜の夢に過ぎないのですよ。もっと女を知った方がいい」
葉巻に火をつけ、アクロイド公爵は下卑たしたり顔で言ってきた。
つまり、私とノワールが寝たからノワールは私に執着していると言いたいのだ。
下座に座っている貴族達も口々に公爵の話に賛同していく。
それを陛下も特に止めようともせず見守っていた。
今まで悪役令嬢をするにあたって何度もこういった見下された視線は浴びてきた。
でもよりにもよって大好きなノワールの前で、しかも今は悪役令嬢のフリをする理由も無い。
「……私は」
言い返そうとしたとき、隣のノワールが膝を軽くポンポンと叩いてきた。
言い返すなっていうこと?
ノワールを見れば、彼は机に肘を立てながら優雅に微笑んでいた。
ただし、黒い笑顔で。
「品が無いですねアクロイド公爵?それに今回の議題は聖女キャメルの処遇のはず、話題がそれてしまっている。ですが皆さんもこの話題が気になっているようだ」
彼は演説でもするかのように周囲を見渡した。
陛下は無表情でノワールを見つめ、アレックス殿下はほぼノワールを睨んでいる。
「いいでしょう、まずはその噂の真偽についてですが噂は事実です。僕はオリビア公爵令嬢をこよなく愛し、数か月前からは恋人関係にあります」
「なんと!」
口々に貴族が驚きを漏らしていく。
その中には汚らわしいと言う者もいる。
「ですが勘違いしないでいただきたい、彼女と私はあくまでも清い関係を築いています」
ギリギリで!ではあるけどね‼
内心補足を入れつつも私はさも本当のことのように、というか一応事実なのだから毅然とした表情で座り直した。
「それにアレックスと彼女の唯一の肉親であるニコラス公爵には手紙でその関係になる許可までとっています」
ノワールが近くの使用人に指示をすると、テーブルの上には破れた2通の手紙が出された。
破れた手紙を見るとそこにはアレックス殿下とニコラスお兄様の文字でどうぞ、差し上げますと書いてある。
「アレックスこれは事実か?」
「は、はい父上。ですがそれはあくまでも兄上が亡くなっていたと思ったからで……」
「へぇ?婚約者そっちのけで聖女キャメルをエスコートして、本来の婚約者にはドレス一つ贈らずにいたくせにどうしたんだ?ビアは傲慢で品が無く欲深い最低な令嬢なんだろう?」
ねっとりとした甘ったるい声を出しながらノワールが語り掛けるが、アレックス殿下は一切目を合わせようとしなかった。
「そ、それは‼彼女が馬鹿のフリをしていたからで……。父上‼この3日俺は彼女と過ごし彼女の聡明さに気がつきました‼‼たった3日でここまで王宮が復旧出来たのも彼女が補佐をしてくれたからなんです‼‼」
「ハッ!悔いたからと言って犯した罪が許されるわけじゃないぞ‼父上!アレックスは婚約者となってからはビアを罵倒し、一度は突き飛ばしたこともありました‼」
「そんなの子供の頃の話です‼今はしない‼」
「そうだな、今はせいぜい孤独に追いやり無視を続け婚約者に愛されない女として辱めるぐらいだなぁ?」
「っ‼そ、それは‼」
「ビアが己を引き立てるのに一役買うと思って惜しくなったんだろう⁉愚か者が‼」
「ち、違う‼俺は……」
「父上、僕も表に出てきた今‼ビアの婚約者にアレックスは相応しくありません‼‼何年もの間婚約者の務めを果たさなかった者がどの顔を下げて婚約者とのたまうのか‼‼即刻!アレックスとは婚約解消させて僕とビアの関係を認めていただきたい‼‼」
「まぁ待ちなさい……オリビア公爵令嬢」
「は、はイ‼‼」
急に国王陛下に名を呼ばれ、私は思わず声が裏返ってしまった。
ノワールもアレックス殿下も激しい口論のせいで少し息が上がっている。
アレックス殿下はともかくノワールがここまで熱く語るのは珍しい。
国王陛下は私をじっと見つめ、ゆっくりと語り掛けてきた。
「ハワードからは其方が予知夢を見たせいで、長きにわたり虚けのフリをしてきたと聞いている。令息達との関係も全て見せかけのものであるとな。にわかには信じがたいと思っていたがアレックスのこの様子を見るに信憑性は高いと思える」
あ、なるほど、そういう説明になっているのね。
こくりと頷く。
「だがフリとはいえ其方がやってきたことが淑女にあるまじき行いの数々だったことも事実、私はそれを踏まえて其方は王家の縁戚になるのは相応しくないと思う。何か今までの所業を覆せるような事実を其方はもっているか?」
「もっている、と言えばどうなるのですか?」
私がありませんと発言するよりも先に答えたのはノワールだった。
彼はさっきまでのやり取りが嘘の様に息が整い、悪だくみをするようにニヤリと笑った。
「ふむ、それが真に彼女の正当性を民に示せるのであれば、ハワード、お主との婚約を考えよう。どうやら本当に好いているらしいからな」
「考えるとはまた曖昧な言葉ですね。父上、情報とは時に千の魔法よりも強い武器となりえます。それを身分が高いからと搾取するのはいかがなものかと」
国王陛下は肩眉を上げ、それ以外の面々は皆目が点になりノワールを見た。
いくら実の息子で王子とはいえ、不敬な発言だ。
流石に国王陛下も怒るのではないかと思い、ノワール以外の全員が身構えた、が。
「ブッ‼アッハハハハハ‼‼そうじゃったそうじゃった!お主はそういう息子じゃった‼‼いやはや、もしや偽物の線もあるかと思っておったがこのやり口はハワードにしかできまい‼」
「誉め言葉として受け取っておきます。それで結論は?」
「ククッ!まぁそう急かすな、私とてお主を敵にまわしたくない者の一人だ、約束しよう、オリビア公爵令嬢の悪評を払拭出来るのであればアレックスとは婚約解消させ、お主との婚約を認めよう」
「父上‼そんな俺は‼」
「父上、婚約ではなく婚姻でお願いします。僕もビアも成人しているので婚約期間を設ける必要は見当たりません」
吠えるアレックス殿下に対し、冷静に要求を上乗せしてくるノワール。
「あぁ分かった分かった、婚姻を認めよう。アレックス、お主はオリビア公爵令嬢の悪評を覆せるものは何も無いのだろう?」
「…………ありません」
「ハワードも、お主の持っている情報とやらが使えないものであれば諦めなさい、良いな?」
「はい、もちろんです!」
にっこりと、それはもう爽やかな笑みを返してノワールは頷いた。
ご機嫌なのが誰から見ても分かる。
そしてゆっくりと椅子にもたれかかり、周囲を惹きつけるように間をとった。
「皆さんは魔王信仰というものをご存じでしょうか?」
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