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1週早いですが、投降します!
よろしくお願い致します!
時刻は既に夜。
窓から差し込む月明りとノワールの植物だけが輝くなか、王宮玄関の扉は既に閉められておりそこにはキャメルが立ち尽くしていた。
「キャメ」
私が銃でキャメルを威嚇しようとした瞬間、近くに居たトーマスが勢いよく飛び出しキャメルに飛びついた。
そして……。
「キャァアアア‼」
流れる動作でキャメルの右足を折り、額を床に抑えつけ、今度は右腕を折れるように手首を持って足をかけた。
誰もが呆気にとられ、キャメルの泣き叫ぶ声だけが響き渡った。
「二度は言わない。残りの魔物を標本に戻しハワード様の怪我を治せ」
決して大きい声では無いのにトーマスの声はよく通り、その声は今まで聞いたことが無いほどに低く腹の底から恐怖を覚えるほどだった。
私の知っているトーマスは銃や吹き矢の訓練が失敗しても笑いながら直してくれて、仕事に忠実で時に寡黙、ノワールといちゃついている時には孫を見る様な優しい目をしてくる優しいお祖父ちゃんだった。
トーマスの様子に怯えていると横に居たノワールがそっと肩を引き寄せて微笑んでくれた。
いや、そんな優しい顔する場面??
「ノ、ノワール……あれ……」
「あぁ大丈夫。僕に拷問の仕方を教えたのはトーマスだからね。もう安心だ」
何が安心なのか分からないがノワールはそのまま私の眼を自身の肩でふさぎ、耳元に草を生やしサワサワと音を出して周りの状況が分からないようにした。
それでも時折聞こえてくるキャメルの悲鳴は聞こえないことにする。
時間にして数分だったと思うが、ノワールが私の頭を抑える力が弱まったことに気がついて顔を上げると近くに右腕や指、足が変な方向に曲がり泣いていているキャメルが居た。
後ろからトーマスに首を鷲掴みされ、トーマスの方は心なしか少し若返った様に見える。
「少しでも変な真似をしたら、分かっているな?」
「は、はい…………」
キャメルがノワールに手をかざし、白い光りが彼を包みこみ、消えた。
「ノワール様、お怪我はどうなりましたかな」
「うん、完全に治ったみたいだ、中身はあれだが本当に聖女らしいね」
「よかった……」
ほっとして抱きつけばノワールは軽く抱きしめ返してくれた。
「…………反乱が起きるわ」
アレックス殿下も走って近づいてきた時、トーマスに首を掴まれていたキャメルがポツリと呟いた。
激しく泣いたから顔はぐしゃぐしゃで鼻水まで垂らしている。
髪も可愛いはずのワンピースも乱れ、瞳はほの暗く鈍い光りを放ちながら笑っていた。
「反乱?」
私が聞くとキャメルはクスクスと笑い出した。
トーマスがノワールに視線で止めるか確認したが、ノワールは軽く首を振る。
「フフッキャハハハハ‼私は聖女でヒロインのキャメルよ??10周目くらいだったっけ?フフッあんたたちみぃ~んな!民に殺されてたんだから!キャハハハ‼」
確かにこの王国での聖女信仰は厚い。
現にゲーム内でのキャメルは聖女となったことが発覚してから貴族達は公爵令嬢のオリビアよりもキャメルの方が王妃の座に相応しいと言い、王都を歩けば何もしなくても大量のお土産をもらっていた。
聖女は王よりも尊き存在。
そう考える王国民も居るくらいで、彼女の言う反乱が起きない可能性の方が低かった。
「キャ、キャメル……その、今回のことはお互い様ということではどうだろう、君から王国民には説明してもらって……」
アレックス殿下が情けない声を出して、まさかのキャメルに許しを得ようとしてくるが、彼女はその姿をあざ笑った。
「フフッ何言ってるのアル?私、自分の怪我は治せないの。今もすっごく痛いんだけどぉ??」
「聖女様!そこの男がただ一人で行っただけでございます!どうか我々は……」
「そ、そうです!我々は関係ありません!」
アレックス殿下ばかりではなく、騎士の中からもちらほらとキャメルに許しを請う発現が出始めた。
「ちょっと貴方達‼キャメルは魔物を使って貴方達のことも殺すところだったのよ⁉それを」
「…………プッ!」
ざわざわと嫌な空気が広がっていったとき隣のノワールから小さな笑いが聞こえた。
この場に似つかわしく無いその笑いに、全員の視線が注がれる。
ノワールは私の額にキスすると強く抱きしめてきて、彼の顔を見えない様に頭を抱え込んできた。
「反乱ね、時巡りの力以外何も持っていないゴミのために起こるとは思えないけど、そんなに民の様子が気になるなら議論の場でも設けようか?」
低く、そして怖いくらい美しい声が周囲に響いた。
あ、今多分すっごく怖い顔をしている。
ノワールの顔は見えないが周囲のアレックス殿下やキャメル、それにトーマスやディーンと騎士達の顔は見える。
彼らの顔は一様にして引いていた。
キャメルに至ってはさっきまで強気だったのに完全に怯えてアレックス殿下の裾を掴んでいる。
「ゴ、ゴミって……私は聖女様よ‼前だって本当に……」
「前がどういう状況だったか知らないが今はありえないね。トーマス、ひとまず封印の刻印をさせてそのゴミを地下牢に放り込んでおけ、見張りは次が決まるまでしばらく任せる。ディーンは魔王城の管理に戻れ、多分子供達が心配している」
「承知致しました」
「はいっす!」
トーマスはキャメルを連れて、ディーンは王宮玄関を出るなどテキパキと動いていく。
「アレックス、議論の場は父上が戻られてから考えよう、もう使いの者は送っているんだろう?」
「い、いえまだ……」
「早くしろ、父上が帰って僕のことを認知するまで僕は平民同然で公的な権利は一切無い。父上の代理としての権利は全てお前と宰相にあるんだ。それとニコラスに王宮の門扉を閉めるために動いてもらったからまだ外の門の近くに居るはずだ。どこぞに逃げた宰相よりも使えるから協力を仰ぐといい」
「は、はい……」
アレックス殿下は意気消沈しながらも近くの使用人を呼んでニコラスお兄様を呼ぶことと、飛ぶ魔法を持っている騎士を使いにいかせるように指示をしていた。
「ビアは」
「私はノワールと一緒に居るわ」
何となく、ビアはもう公爵邸か魔王城に戻って休んでと言われそうで先手を打つと、彼は分かりやすく眉間に皺を寄せた。
「おい、我儘を言って兄上を困らせるな‼」
「黙れ、書類上の婚約者とはいえ親しくないなら言葉遣いは正せ」
アレックス殿下の言い分を間髪入れずに跳ね返し、ノワールは私に向き直った。
コツンと額を合わせて甘えるように上目遣いで見つめてくる。
「ビア、この城はこの愚弟みたいに敵だらけだから心配なんだ。この混乱に乗じて何かあったら嫌だし、それにもう夜も遅い……」
「……私、さっきノワールの傍から離れたことを後悔したばかりなの。混乱に乗じてというならノワールの方が暗殺される危険があるんじゃないの?」
すりっと彼の頬に手を添え、強い瞳で見据えて一歩も引く気は無いと意思表示する。
しばらく見つめ合った後、折れてくれたのはノワールだった。
「はぁぁぁ~分かった……とりあえずその団服だけは着替えてきてくれ、他の男の服を着ていると思うだけでムカムカしてくる」
「ふふっ分かった、ありがとうノワール」
軽くお礼のキスを返すと、もっとしてほしいと見つめてくるがアレックス殿下も見ているなかでそんなことはしたくない。
それに辺りを見回せば怪我人も居るし、魔物が壊した外壁なども散乱している。
「ほら、こういう時こそ統括する人間が必要でしょ!」
ノワールの肩を軽く叩いて促せば彼は渋々動き出した。
「とりあえず僕の書斎に行こうか。あそこなら魔物の標本は一つも置いていないし良いだろう。調度品も全て前のままになっているはずだ、そうだろうアレックス」
「え、えぇまぁ……何で知っているんですか」
「この王国で僕が知らないことはあのゴミに関することくらいだからね」
ノワールはにっこりと笑顔で返しつつ、私の肩を抱き、決してアレックス殿下の隣にならないように歩き始めた。
なんか……元気になって余計に執着心が増した??
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