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キャメルが狂った様に甲高い声で笑うなか、私は自身の3倍はある牛頭の魔物と目があってしまった。
「ニンゲン殺ス‼エイエンホシイ‼‼」
大きく振りかぶった拳は躊躇なく伏せた私の頭すれすれを通過して近くの銅像を無残に破壊した。
「ちょ、ちょっと待って‼貴方達言葉が分かるなら‼‼」
「ニンゲン殺ス‼エイエンホシイ‼‼」
魔物が絶滅したのは約800年前とされている。
家庭教師の話では知能はほぼ無いと聞いていたが、言葉を介するなら望みはあると思い話しかけてみるが全く聞く耳をもってくれない。
しかも王宮では祖先である英雄の権威を示すために各部屋にまで魔物の標本を置いている。
部屋にある標本を思い出した瞬間、ゾクッと全身が震えた。
トーマスとディーンは町での私達の騒ぎを聞きつけ、キャメルが到着する前に王宮に来てくれてノワールの護衛に当たってくれている。
でも……。
「っ‼……ノワール……」
何で離れたんだろう。
ノワールは寝ている時に子供や使用人であっても誰かに入られるのを嫌がる。
だから今は鍵をかけて部屋には彼一人のはずだ。
彼とはよく庭園で一緒に昼寝もしているし、私なら中に居られたはずなのに……。
見れば騎士達は牛頭の魔物とやりあっているが、火を使った魔法も全く効かず、剣で突き刺そうとしても皮膚が異常に固いのか弾かれてしまっている。
「ニンゲン殺ス‼エイエンホシイ‼」
同じ言葉ばかりを発し、拳を振りかぶって来た魔物に対し、私は怒りのままにその肩を撃ち抜いた。
「ギィェェエエエ!」
耳をつんざく断末魔の様な叫び声が王宮玄関に響き渡り、騎士達が目を丸くして私を凝視するが無視し、銃のハンマーを起こしてシリンダーを回し、次に撃つ準備を整え今度は魔物の頭に向かって構えた。
「そこを退きなさい、次は頭に当てる」
「ニンゲン‼‼殺ス‼」
パァン‼‼
躊躇なく引き金を引き、魔物は息絶えて大きな音をたてて横たわる。
視線を巡らせてキャメルを探せば彼女の隣に居る太った魔物の口から真っ黒な霧が立ち込めていた。
「キャメル‼‼待ちなさい‼」
私が叫び、彼女の肩めがけて一発撃つが霧が邪魔で外したらしくキャメルは笑いながら黒い霧の中に消えていった。
室内だというのに強い風がふき、黒い霧をどんどん室内に充満させていく。
時刻は夜、火の光は期待できないのに部屋中の灯りが風と霧によって消されていく。
魔物はこの中でも見えているのか、それとも仲間意識が無く他の魔物を傷つけてもいいと思っているのか、そこかしこから悲鳴や叫び声が聞こえてきた。
偶にバチバチと電気の様な音がして光りを放っているアレックス殿下が居るが、余計に魔物を寄せ付けてしまい、それを守る騎士が身動きが取れなくなってしまっている。
ノワールを助けに行かないと‼‼
気持ちは焦るのに黒い霧のせいでどっちへ進んでいいかも分からない。
不意に強く腕を引かれ、私は勢いよく後ろに倒れ込み誰かに抱きかかえられた。
「このっ‼」
「待った、ビア僕だ」
ゼェゼェという荒い息と共に後ろから聞こえてきたのは大好きなノワールの声だった。
「ノワール‼なんで、寝てたんじゃないの⁉」
「ハハッ……こんなお転婆な恋人放置して寝られるほど鈍くはないかな」
「つっても騎士の一人から連絡が入って、飛び起きて俺に担がれて来た口っすけどね」
「黙れ……うっ痛……恰好がつかないだろう……ビア、黒バラをつけたままだろう?それで場所が分かったんだ」
ぼそっと近くで補足する声はディーンだ。
かなり消耗はしているようだが軽く冗談を言う二人に安心してしまった。
体を反転させてノワールの首に抱き着く。
「ノワール、よかった……」
「ハァ…………ビア頼みがある」
一言呟くとノワールは私と自身の間に手を入れて何か光る物を取り出した。
よく見るとそれはあの秘密の庭園だけに咲いている淵が紫色に光るバラだった。
「今からこのバラを魔物だけに咲かせていく、だから僕の手から伸びるバラに沿って闇の魔法を伸ばしていって欲しい」
「……ノワール何言っているの?バラに沿って闇の魔法を使うなんて私出来ないわ?」
私が出来るのはせいぜい銃を使ってイメージを固めて親指程の大きさの闇の魔法を放つのみ、それ以外は封印もされているし不可能だった。
「ビア、王族はあらゆる秘匿を教えられる。僕ならビアの封印を解ける……頼む、僕のバラに沿って力を伸ばしていくだけでいいから……」
「む、無理よ……出来ない……」
封印を無理やり解いたオリビアのしたことを私は知っている。
一番近くの人間を闇の魔法で消し飛ばすのだ、つまり、この場合ノワールを私の手で殺す。
「うっ……ハァ…ビア時間が無いんだ、大丈夫ゲームのオリビアじゃない、僕の愛している今のビアなら出来ると僕は確信している。ゲームのオリビアは闇の魔法を使った銃なんて使わないだろ?」
紫色の淡い光りに照らされながらノワールは柔らかく笑い、私の手首を優しく握った。
「…………やって……みる」
周りではこうしている間も怒号や叫び声が飛び交っている。
恐らく音的にディーンとトーマス辺りがこちらに魔物が来ないように牽制してくれているのだろうが、彼らにも体力の限界はある。
さっき見た限りでは魔物には剣も火も通用しない。
二人がやられてしまうのも時間の問題だった。
ノワールは私の返事を聞くと手首をなぞり、聞き取れない言葉を呟いた。
パキィンと軽い音がしたかと思えば手首が軽くなり、内側から何かがあふれ出してくる。
バクバクと心臓の音は警戒音を出し、私の頭の中ではゲームでクリフがやられていたあの映像がフラッシュバックしていた。
自分の魔法への恐怖に怯えていると、ノワールは私の肩を軽く抱き寄せた。
「あ~あぁ、この二種類だけは二人の秘密にしたかったんだけどなぁ」
懐から種を取り出し、ノワールが地面にばらまくとそれは瞬時に、そして爆発的に成長して床を埋め尽くした。
秘密の庭園で何度も見たノワールの瞳の色であるエメラルドグリーンの綿毛をもつ植物が床を埋め尽くし、次に魔物だけを紫色に光るバラが巻き付いていく。
「ニンゲン‼殺ス‼」
またもや同じ言葉ばかりを発する魔物達を見つつ、ノワールは冷静にバラの先端を私に渡してくれた。
楽しく、心地いい思い出しかない秘密の庭園と似通った光景に私の心は落ち着いていく。
さっきまでの焦りや恐怖はどこかに消え、祈るようにバラの先端に力を込めれば私の予想を遥かに超えた大きさの闇の魔法が着火された。
大きすぎる闇の魔法に暴走をイメージしたが、意外にも闇の魔法は一番近くに居たノワールには傷一つつけずにバラの蔓を着々と辿り、魔物を消滅させていく。
ついでに周囲の黒い霧も消し飛ばしていき、視界は明るくなっていく。
王宮玄関に居る全ての魔物が私とノワールの魔法で消滅したときにはエメラルドグリーンに光る植物に包まれた幻想的な光景が広がっていた。
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