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「アレックス達が敵にまわったらビアだけでも逃げるんだ」


ノワールが目を覚まし、一安心したのも(つか)の間、彼に囁かれ私は目を見開いた。

思わず小さく首を振ると、ノワールは私を初めて睨んできた。


敵にまわったら??

なんでアレックス殿下達が?


ノワールの言葉の意味もよく分からず、彼をじっと見つめているとアレックス殿下が苦笑がちに言ってきた。


「?兄上??……もう生きていることが分かったんです。隠し事もほどほどに、後ほど詳細を聞きますので」


「……痛!いや、今言う……アレックスいいかよく聞け、クリフに僕を襲わせた主犯は……キャメルだ」


「は……?兄上??何を言って……キャメルは聖女ですよ?彼女は純粋で可憐で…………兄上を殺す動機なんて無い‼」


「そうですハワード殿下‼何かの間違いでは?今は薬が効いて頭も回っていないのでしょう⁉彼女に会っていただければ誤解は必ず解けます‼今はお休みを‼」


ノワールの言葉にニコラスお兄様とアレックス殿下は口々に反論したが、ノワールは荒い息をしながらただ二人を冷静に見つめ、言った。


「うっ……アレックス、先々代の聖女を歴史で学んだだろう。その親友の末路を言ってみろ」


先々代というと、確か私が知っている限りでは現王家の祖先である後の英雄を時間を巻き戻して助け、魔物の殲滅(せんめつ)に貢献したことで一番有名な聖女だった。


「せ……先々代の聖女はちょっと特殊だったんです……だから、あんなことを……」

「アレックス殿下、差し出がましいようですがノワールは重傷なんです、話してください‼」


もぞもぞと話すアレックス殿下に苛立ち、横槍を入れるとニコラスお兄様に睨まれたがそんなものは知らない。

私にとって一番大事なのはノワールだ。


「……先々代の聖女の親友は……聖女に最愛の夫を寝取られ気が狂い、最後には自殺をした……兄上‼これがキャメルと何が関係あると言うのですか⁉彼女はそんなことしない‼‼」


「なぜ、そんな醜態が伝わっているんだろうな」


一瞬ノワールが何を言っているのか分からなかった。

彼は息をするのもつらそうで、性格的にこんな緊急時に意味のない謎解きをするとも思えない。

それを踏まえて考え、気がついてしまった。


「私だったら……やり直すわ」

「どういう意味だ?」


アレックス殿下もニコラスお兄様も全く見当がついていないように私を見つめてくる。


当たり前だろう。

この世界にはゲームなんて存在しない。

リセットの効く世界なんてこの世界の住人には考えにくいのだろう。


「私だったら、親友も不倫相手であるその夫も失いたくない。だからやり直します。でも先々代の聖女はそれをしていないからこうして醜態が語り継がれている……。


もしかして聖女が世界の時間を巻き戻すには一定の決まりのような規則があるのではないですか?」


私の言葉にノワールは頷き、その後を続けてくれた。


「聖女達の行いを紐解くと、必ず王国や世界全土に多大な影響力を及ぼした者達だけが助けられている……ハハッ僕が言うのもなんだが、この時代においてのその死ねば助けてもらえる基準を満たしているのが僕だけなんじゃないか?


痛っ‼……ハァ……キャメルはいつでも世界を巻き戻せる状態にしたい、そして……この世界をシナリオ通りに進めたい、それが彼女の目的だと僕は思っている。


キャメルは恐らくこの世界を何周……いや少なくとも何百周もして今に辿り着いているんだろう、でないと説明がつかないことが多い。

そして、僕はどの世界線においてもビアを愛し、クリフに殺されていたんじゃないのかな?


今回は多分……ハァ、ゲームの強制力を装った初めての試みだったんじゃないかな?

そのせいでビアが闇の魔法を使った銃を扱えるようになり、クリフを退けたから僕は生きている……ビアから火薬の匂いがする。そうなんだろう?」


痛み止めが効いてきたのか、ノワールは饒舌に語りだした。

アレックス殿下達は途中から話の内容が分かっていないようで顔によく分からないと書いてあるが、ノワールはかまわず続けた。


今、ゲームの強制力を装ったと言った??


私も疑問に思いながらも彼の問いにゆっくり頷くと今まで、アレックス殿下達を捉えていたエメラルドグリーンの瞳が私を見つめた。


「ビア、この世界にゲームの強制力なんて存在しないらしいよ。全部キャメルが仕組んだことだったんだ。でないと今ここでアレックス達に見られながら僕が生きていることが説明がつかない」


ドクッと全身に一気に血が巡った気がした。


強制力が存在しない??


「でも、クリフのことは」


「全部キャメルが裏で糸を引いていたんだろう……人身売買のゴロツキとビアが雇った傭兵が同じ人間に雇われていれば出来る。そしてビアが強制力を信じたきっかけ、アランの足が一瞬で治ったのも……キャメルがやったとなれば……出来る」


彼女が私と同じ転生者なら私とクリフが気を失った後、クリフの頬にゲームそっくりな傷を残すことも出来る。


「ちょっと待ってノワール‼‼ならなんで私に自分と世界なら世界を選べなんて言ったの⁉もしかしたら貴方あのまま死んでいたかもしれないのに‼」


彼の服を掴んで叫ぶように怒鳴り散らせば、ノワールはただ何も言わずに私に優しく微笑んだ。


……多分、私のためだ。


ゲームの強制力が本当かどうか不確かな状態で、もしも万が一本当なら、私に危害が及ぶ可能性が出てくるから……。


「……ノワール……二度と自分の命を軽く見ないで……私、本当に貴方が好きなの、後を追われたくなかったら死なないで……」


さっき泣いたばかりだと言うのにまたしても涙が頬を伝った。

ノワールを大好きだと思う心と、こんな自分を軽んじる男は嫌いだと思う心がぶつかり合う。

ノワールが死にそうで本当に怖かった。

こんな思い、二度としたくない。


「ごめん」


彼は小さく謝ると私の手を握ってきた。

2人で見つめ合い、軽いキスをする。


「……ゴホンッ…………えっと、兄上……話についていけていないのですが……」


完全にニコラスお兄様とアレックス殿下を忘れていた。

わざとらしい咳払いをしたアレックス殿下は耳まで真っ赤だった。


ちょっと刺激が強かったかしら。





痛み止めが効いてきたとはいえ、重傷のノワールにこれ以上話させることは憚られるため、私から二人にゲームのことを含めた全てを説明した。


二人は最初、全く信じていなかったがクリフの件で次々と上がってくる証言に何も言わなくなっていった。

ノワールが心配したアレックス殿下達の逆上も特に無く、アレックス殿下は淡々と静かすぎるくらいにノワールの指示を聞いていく。



「キャメルは恐らくしばらくは見つからないだろう。見つかれば万が一にも僕を治す流れになるかもしれないからね」


ノワールの言った通り、キャメルは日が暮れてから王宮に戻ってきた。

おかげで私達は十分な証拠と、準備をすることが出来た。


広い王宮玄関の魔物の標本の影から多くの騎士と共に二人の様子を伺う。

服は着替え、私は騎士の中で一番小さい団服を貸してもらっていた。


「キャメル、これを君の引き出しから見つけたんだ」


アレックス殿下が予定通りにキャメルを追い詰めていく。

彼女がそのまま罪を認めれば私の手首の刻印と同じものを彼女にも施し、牢屋に入れる手はずとなっていた。


ちなみに、騎士達と共にキャメルを捉えに私が動いていることをノワールは知らない。

しばらく話すと彼は薬のせいか眠り込んでしまったから。


ぎゅっと右手に持っている回転式銃(リボルバー)を握った。


騎士達は優秀で、国王不在の中宰相とともに聖女キャメルを捉えることにしたアレックス殿下の指示のもと着々と動いた。

そこに私が入る余地など本来無い。


でもどうしても許せなかったのだ。


私達全員の人生を弄び、そして何十回、何百回とノワールを殺させたことが許せない‼‼


『必ず邪魔はせずに気配を殺していますからどうかお願いします‼‼』


そう言って騎士団の隅に控える許可をもらった。


腹の底から煮えたぎる感情を抑え込んでいると不意に手首からピキッと軽い何かが割れた様な音がした。


何?


見れば、手首の刻印が一部消えかかっている。

瞬間、全身に恐怖が走った。

悪役令嬢オリビアはラストで怒りのあまり封印を破り、誰かを殺している。


だ、大丈夫、大丈夫‼


ノワールはゲームの強制力は存在しないと言った。

だから、私が怒りに任せて力をふるうようなことをしなければ闇の魔法も暴走しないはず……。


「キャメル……君はこの世界を何周しているんだ?」


私の焦りを他所にアレックス殿下はキャメルに核心をついた。


「…………あ~あぁ、また失敗しちゃったぁ」


泣くでも喚くでも怒るでもなく、キャメルはただ軽く溜め息をつきながら言った。

本当のゲームがちょっと失敗したときの様な軽さに、怒ってはいけないと思うのにどうしても内側からどす黒い感情が沸き起こる。


「今度は上手くいくと思ったのになぁ」

「キャメル……なんでこんなことを…………」


アレックス殿下の合図で騎士達はキャメルをすぐさまとらえるのに、殿下はなかなか合図を出さない。


「キャハハ♡それ前のアルも言ってたぁ~、そういう可愛い感じがあるところが好きなんだよね~、ニコラスだともっと理詰めできて嫌な感じなんだよねぇ」


「キャメル……」


真面目に聞くアレックス殿下にキャメルは近寄り、にこにこと話しかける。


「私ぃ、アルが本当に好きなの!ふふっ‼ゲームの時みたいなハワードに劣等感をもった自信の無いイケメンが私だけを好きになって溺愛してくれるなんて最高じゃない??


それに、この抜けているところも好き!ねぇアル?聖女の力って貴方が思うよりもずっと万能なんだよ?」


嬉しそうにアレックス殿下に告げた瞬間、キャメルの周囲には白い光が舞いそしてそれは迷いなく王宮に点在している魔物の標本へと向かった。


ゴキッパキッメキキっと異様な音をたて、私達が隠れていた牛の頭を持つ二足歩行の魔物の標本は逆再生の様に肉がつき、瞳が宿り、命を宿していく。


「キャハハ‼魔物達‼‼言うことを聞くなら私が永遠の命をあげる‼さぁ、この世界の人間全部殺しなさい‼」


キャメルの声と共に、息を吹き返した魔物達は一斉に動き出した。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


次回、遅くて23日、書けたらその前に出します!


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