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「ノワール‼ノワール‼お願い目を閉じないで‼」
腹を刺され、その場に倒れ込んだノワールは意識を失いかけていた。
クリフは本来心臓を貫くつもりで刺しに来ていた。
それをノワール避けたのだが、炎をまとった剣が彼を突き刺したその姿はゲームのハワードが死ぬ瞬間に酷似していた。
刺されたと同時に焼かれたからか、出血量は少ないが素人判断では何をすればいいのか分からない。
今日私達はデートでしかもせっかくの石聖祭だから、二人とも強いからと護衛をつけなかったことがあだとなった。
「オリビア……これで我慢しなくていいんだ、俺と」
ノワールを刺した興奮か、はたまた別の気持ちからか、蒸気した顔でクリフが一歩近づいた瞬間に、私はノワールを庇いながらスカートの中に仕込んでいた銃を取り出した。
パァン‼と乾いた銃声が響き、彼が防ごうとした剣もろとも闇の魔法の弾丸で彼の耳に風穴を開けた。
「……どっか…………消えて」
ポツリと私は呟いた。
殺したい。
そう純粋に思ったのは初めてだった。
けどクリフは一筋縄では殺せないし、万一このノワールが動けない状況で魔法を放たれれば手の打ちようが無い。
煮えくり返るヘドロの様な感情をノワールを助けたい一心で抑え込み、やっと呟いたのがその一言だった。
「お前達そこで何して……うわぁ‼人が‼」
「人が刺されているわ‼」
祭りの喧騒にかき消されていたこの出来事が、周囲の人間の叫びによって広がっていった。
クリフは私の言葉に絶望した様な表情で、フラフラと人混みに紛れてしまった。
耳の痛みにも気がついていないらしく、庇う素振り一つしなかった。
ただ一つ、なんで、なんでと呟きながら消えるクリフの姿を私はじっと警戒して見つめていた。
「おい‼‼この騒ぎはなんだ‼」
警備に居た騎士達が駆け付け、重傷のノワールに気がつき始めた。
「お願い‼誰か医者を呼んできて‼‼早くしないとノワールが死んじゃう‼‼」
「これは酷いな、医者は……今日は石聖祭でどこも休んでいるんだ。隣街に行くしかないな、おい!こいつを運んでやれ!」
騎士の一人が軽々とノワールを抱え、連れてきた馬に乗せた。
「ちょっと待って‼だったら王宮の宮廷医師に診せて‼‼それかキャメルを探してきて!この王都に居るはずだから‼」
古城にも医師はいるが、今日は子供達も居ないため休暇をとっていた。
隣街まではどれだけ急いだって3時間はかかる、王宮ならたった数分の距離。
私の言葉に騎士はまじまじとこちらを見て、頭を抱えて大きなため息を吐いた。
「ハァ~……オリビア公爵令嬢、我儘もいい加減にしてください。王宮医師というのは王族のために居るんです。それをこんなどこにでも居る平民が診てもらえるわけないでしょう?
それよりもこの件の事情を貴方にもお聞きしたい、ちょっとこちらで話を……」
殊更馬鹿にするように騎士の一人は言ってくる。
ノワールは言っていた。
騎士の中にも仲間は居ると。
でも彼らは人伝いにノワールの存在を知るだけで、ノワール本人を知っている訳では無い。
今この中にもノワールの仲間は居るかもしれないのに、誰も助けてくれない。
本来騎士は公爵令嬢にこんな態度は許されないが、アレックスやニコラスから私の言うことは聞かなくていいと言われているのだろう。
「違う‼平民じゃないの‼‼彼は、ハワード第一王子よ‼」
「はぁ?死んだ殿下を出すなんてちょっと不謹慎じゃないですかね。それにあのお方は顔は拝見したことはありませんが確か水色の髪にエメラルドグリーンの瞳でしょう。黒髪黒目じゃあちょっとね」
どうしよう!どうすれば……。
「いい加減にしろ‼‼彼を殺す気か‼‼」
私達を取り囲む群衆の中から身綺麗な一人の男が出てきた。
「ローズウェル……男爵……」
群衆の中から出てきたのは私がかつて、孤児院の監査の件で手柄を譲ったあの男爵だった。
「オリビア様の言う通り王宮に連れて行くんだ‼男爵とはいえ私も貴族だ‼責任は全て私がもつ‼必要ならば断頭台だろうがなんだろうが立つ‼」
男爵の剣幕に押され、馬にノワールを乗せて隣街に行こうとしていた騎士は足を止めた。
その隙に私は騎士の足を思い切り引っ張り鞍から引きずり下ろした。
私だって馬に乗る。
どこを引っ張れば屈強な男でも体幹だけで支えきれないかは何となくわかった。
「どいて‼」
「え!あ、ちょっと‼」
動揺する騎士を引きずりおろして代わりに馬にまたがり、私は周囲の人を蹴散らして王宮に向かった。
「男爵‼ありがとう‼」
前を向き、馬を最速で走らせながら叫んでお礼を言ったため彼に聞こえたのかは分からない。
祭りで浮かれる人々をギリギリで避けながら私は王宮に向かった。
「ノワール、お願い死なないで‼お願い‼‼」
私よりも大きな体でぐったりもたれかかってくるノワールは何も答えず、力無く馬に乗せられている。
早く早くと急いでいるのに、たった数分の王宮までの道がどうしようもなく長く感じられた。
目の前のことに集中しているのに、こんなときなのに私はノワールとほんの数週間前にした会話を思い出していた。
「今僕が生きていると発覚したらゲームの強制力?とやらはどうなるんだろうね」
秘密の庭園で私を膝の上に乗せ、軽く抱きしめながら冗談交じりに彼は言った。
「……お願いだから試さないでね。ノワールの命がかかっているんだから」
「ハハッ分かってるよ、ちょっと考えただけだ…………まぁでも、もしも僕が生きていることが発覚して、僕が死ぬだけだったらまだマシな方だね」
クリフの時は頬の傷だけだったのが、背中に切り傷を数十か所と腹部に刺された痕が出来た。
ノワールの場合は死だから、強制力が働いてむごい死になるのかそれとも他の人間も死ぬのか。
「もしかしたら世界そのものが壊れてしまう、なんてのもあるかもね。僕は生きている限り天才的な影響力を持っているから」
茶化すように笑いながら彼は言ってきたけれど、本当にそうかもしれない。
「……ノワール止めて。死ぬなんて冗談でも考えたくない」
「ごめんごめん、もしもの話だから……ビア、もしも僕の命と世界を天秤にかけることがあれば世界を取るんだ。もしかすると、影響力はビアにまで及ぶかもしれないからね」
私が機嫌が悪くなったのを察知して彼は誤魔化すようにキスをして、ついでに耳を軽く甘噛みしてきた。
思わずビクッと跳ねるとノワールは楽しそうに笑っていた。
ノワールはこうなることを予測していたんだろうか。
馬を走らせながらポロポロと涙が頬を伝った。
あの時、ノワールは冗談交じりに言っていたけれど彼の影響力は凄まじい。
この王国だって今はほとんどノワールが掌握している様なものだ。
そんな彼が生きていることが発覚すれば、ゲームの強制力で本当にこの世界は壊れてしまうかもしれない。
それでも私は……。
「ノワール……ごめんなさい。私、私自身より、この世界より……貴方一人が大切なの」
7年間ずっと守り抜いてきた悪役令嬢の役。
この日、私は今までの全ての頑張りを捨てて、久しぶりに大きなフラグを折ってしまった。
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次回、11日に投稿します!




