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『あっ……』
『キャメル??何かあったのか?大丈夫か??』
キャメルが自室で声を上げると、廊下を通り過ぎていたアレックスがすかさずノックと共に聞いてくる。
キャメルは扉から上半身だけだし青ざめた顔で首を振った。
『な、何でもないの……あの、アル、明日の夜会は私やっぱり都合が悪くなって……』
『……キャメルがその顔をするときは何かあったときだ。またオリビアか?』
『ち、違うの、本当に都合が悪くなって……』
『ちょっと失礼するよ』
『あ!アル‼待って!』
キャメルの静止を振り切り、アレックスが中に入るとそこには無残に切り裂かれた白いドレスがあった。
『ひどいな……すぐにここに入った物を調べさせよう、まぁ、だいたいの見当はついているが……』
不在だったとはいえ、王宮の内部に出入り出来て聖女の私室の場所を知っている者など限られている。
そしてこんなことをする者はアレックスの頭の中では一人しか浮かばなかった。
『アル!お願い、証拠は無いの‼何かの間違いでこうなったのかもしれないし……怒らないで……』
きゅっと手を握り、上目遣いで懇願するキャメルをアレックスは抱きしめた。
『キャッ!アル……』
『大丈夫、俺が必ず君を守るから……キャメルは本当に優しすぎるよ、ドレスは取り急ぎ用意させるから安心して欲しい』
『アル……』
『キャメル……』
二人は見つめ合い、そして……。
コンコンッとノックの音が聞こえ、二人は離れた。
『キャメル様、今よろしいでしょうか?』
『は、はい‼大丈夫です!』
カチャッと扉を開けて、小さな花を持ってきて入ったニコラスはアレックスの姿を見つけて固まった。
『…………お二人で何を?』
『いや、えへへ、あの、ドレスのことでキャメルに相談を受けていて』
『そ、そうなの‼アルにドレスのことを言っていて‼』
『……そうですか』
「っつー感じでまぁいい塩梅に二人とも絆されているっすよ」
「弟の恋愛模様を聞くのはむず痒いな、それに女性の部屋に許可なく押し入るのはマナー違反だろう」
ディーンが声音を変えて実演報告をし、ノワールはその報告を聞いている間もずっと私の手を握っていた。
キャメルが聖女となって約3か月が経ち、物語は早くも中盤に差し掛かっていた。
私は順調にキャメルの物を壊し、盗み、捨て、暴言を吐いた。
その度にニコラスとアレックスは私をしかりつけ、キャメルを助け、好感度ゲージは見えないがディーンの言う通り、上がっていると思う。
「ビア、クリフの方は大丈夫か?」
「ふふっ大丈夫、ノワールやディーンとトーマスが助けてくれているから」
クリフは意外にも騎士の仕事を放ってまで私に何かしてくることは無かった。
何度か帰り際につけられたり、こちらに無理やり話しかけに来ようとしたことはあったが、そもそも悪役令嬢オリビアは他のキャラに比べてクリフルートにあまり絡まない。
絡む場面でも私は自身の仕事だけをして、3人に助けられながらすぐに退散しているため被害が無い。
彼の最大の難しさは過去受けた傷を癒すことにあるため、ひたすら出かけて接点を持つ。
それがキャメルが出来る攻略法のため接点も必然的に少なくなる。
キャメルはクリフのことも攻略しようとしており、何度もデートに誘っているが反応はイマイチらしく、いまだにクリフの頬の傷はそのままになっていた。
クリフのことは良いとして、私は最近ひとつ不安なことがあった。
繋いでる手に力を少し込めて私はノワールをじっと見つめた。
「ノワール……ずっと気になっていたんだけど…………嫌じゃないの?」
「嫌?何が?」
こてんと首を傾げるノワールは本当に何も思い当っていないようだった。
「……この嫌がらせ……本当は私、本心でやるはずだったことなの、前世の記憶があるから今は多分しないけど……私、本当の性格はかなり嫌な女だと思う」
そう、ずっと思っていた。
悪役令嬢オリビアと前世高校生の私は魂の入れ替えの様なものではなく、生まれ変わりなのだ。
だからこの後、権力欲しさに狂って2回も聖女を殺そうとするのも本当は本心でやるはずだったことだ。
ノワールは2、3回目をパチクリすると、豪快に笑い出した。
「アッハハハハハ‼ビア!そんなことを気にしてたの⁉」
「なっ!そんなことって‼」
まだクスクス笑いを残しながら彼は繋いでいた手を離して抱きしめてきた。
そして頭にキスをしてくる。
「言っとくけど僕は優しい女は嫌いだよ、基本的に目的の邪魔にしかならないからね。
僕はビアの周りに流されないで己に忠実な所が好きだよ。そういう人間は心から信用出来る」
「本当に?私、今ノワールに浮気されたら相手の女を殺すけど??」
「ハハッ!殺すかそっか‼」
上機嫌に答えるとノワールは意地悪く笑いながら顔を近づけてきた。
あ、まずいかも。
ここ3カ月で私達の関係は進展していた。
そしてノワールがこの笑いをしているときは、決まってとんでもなく長くて深い方のキスをしてくる。
ちなみに、流石に籍を入れたわけではないので一緒に寝るのは断っている。
いつも首を甘噛みされたりとギリギリだけど。
向かい側の席にトーマスとディーンが居るところでそんなキスはしたくないため、思わずのけぞると見透かした様に後頭部に手を当てて引き寄せてきた。
息がかかるほどに耳に口を近づけられて囁かれる。
「相手をただ殺すだけなんて生ぬるいね、僕ならビアの目の前で相手の男も、その家族も、関係する人間全て根絶やしにして見せしめに広場にでも吊るすけど?」
本気の声音に思わずブルッと震えると、逃がさないとばかりに強く抱きしめられた。
「大丈夫、もしも浮気したらの話だからね?ビアはそんなことしないだろ?」
「は、はい……」
上には上がいる。
ノワールの狂気とも言える愛情は怖くもあるが、私が何をしても愛想をつかすことは無いんじゃないかという不思議な安心感を与えてくれた。
「儂らはもう用済みですかな?」
初孫を見る目で私達を眺めていたトーマスが言った。
そんな優しい目で見られるような話をしていた訳では無いが、私にはそれよりも二人に頼みがあった。
「あ、ちょっと待って、ディーンとトーマスには石聖祭の時にキャメルが何を買うのかを見て欲しいの!」
石聖祭とは早い話、バレンタインの石バージョンのこと。
好きな相手に自分の瞳の色の石が入ったアクセサリーを贈り、相手も自分の瞳の色の石が入ったアクセサリーを贈ってくれれば両想い。
色の無い水晶はいわゆる義理チョコ扱いで、お世話になった人に贈る。
自分の瞳の色の石を複数人には渡せないので、キャメルが水晶を買えばハワード(ノワール)抜きの逆ハー狙い、ピンクの石を買えばその時に攻略したい人が分かるということになる。
「ふむ、ではキャメル嬢が買い物に行く際に尾行致しましょう」
「んじゃ、俺達はノワール様が怖いんで退散しまっす!」
二人は了承するとすぐに部屋から出て行ってしまった。
確かにノワールはさっきからとっとと出て行けオーラを放っていてちょっと怖い。
「「……………」」
現在ノワールの私室。
実はここで二人きりになるのはあの喧嘩以来初めてで、ちょっと緊張する。
「ビア」
「はイ⁉」
「プハ‼ククッ……そんなとって食べたりしないよ、ちょっと眠いからさ、膝枕してほしい」
思わず声が裏返ってしまった私をクスクス笑いながら、ノワールは甘えるように上目遣いで見てくる。
……多分、気をつかわれている。
私がちょっと退いているのを分かったうえで、言ってくれているのだ。
確かに、どんなことされるかと内心ドキドキしていた。
その優しさに胸が締め付けられて、ノワールへの好きが更に増していくのが分かる。
私は膝をポンと軽く叩いた。
「どーぞ、ノワールだけの特等席よ」
「ハハッ!最高だね‼」
ノワールは私の膝に頭をつけると、幸せそうに眼を細めた。
何だか猫みたい。
何となく頭を撫でて、面白半分に彼の分け目を違う方向に整えていく。
サラサラの髪が指に触れる感覚がとても心地いい。
「ビア、石聖祭の当日になってしまうけど丸1日開けられるからデートしよう。ビアはどんなのが良い?イヤリングとかかな?」
「イヤリングも良いけど……指輪がいいわね、出来れば同じデザインの」
「分かった、じゃあ指輪にしよう」
それだけ言うとノワールは本当に眠かったらしくうとうとし始めた。
ノワールがしていることはほとんど情報屋の様なものだった。
王国内各地に点在させた仲間から情報を収集し、それを売っているのはもちろん、何を誰にどう売るのかを選別して相手の動きを操作している。
今では裏の組織も、貴族も、アレックス殿下達王族も彼の名を知らないだけでノワールの手の平の上で全てが転がされている。
王国全土の全ての情報を一人で采配して、ほとんど信頼出来る仲間に任せているとはいえ古城の管理もして、今はクリフの言う〝あの人〟探しもしている。
疲れて当たり前だった。
静かにただ優しく頭を撫でていると、すぅすぅと可愛い寝息が聞こえてきた。
残酷で狂気じみた愛情を持つ私の王子様。
どうか、今だけはゆっくり休んで。
願いを込めて顔にかかっていた髪を耳に引っかけると、ノワールはちょっと笑った気がした。
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既にしていただいた方、ありがとうございます‼
ヤンデレ書いてみたいなぁ、ということで書いていますが実際居たら怖いですよね(;^_^A アセアセ・・・
オリビアとノワールは両方とも過激なのでバランス取れているようで何よりです!
次回、9日午前中です!
よろしくお願い致します!




