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「魔王様!これ読んで!難しい単語ばかり出て読めないの」
「何?」
クリフから無事に逃げおおせた翌日、私はニコラスお兄様から渡された死んだハワードへの手紙の件で古城に来ていた。
すぐにでもノワールには会いたかったのだが、彼は現在事務作業に忙しいらしく、手が空くのは昼だということで私は談話室で子供達の相手をしていた。
古城は調べたら現在では没落した大公家の所有物だった。
だからか、談話室もとても広く、そしてその壁や図書室にある蔵書量もすさまじい。
私とノワールで新しい本はそろえているが、本が多いおかげで子供達の向上心を刺激しているようでありがたかった。
前世と比べてもここの子供達は字が読めるようになると、読書家になる傾向がある。
が、10歳くらいの女の子に渡された大きな本を見て私は固まった。
タイトルは〝毒草とその仕込み方〟
「…………別の本を読もうね」
「え~?」
「はいはい!じゃあ僕の持って来た本‼」
左脇の少女に本を返し、右の少年から本を受け取ると私はまたしても固まった。
〝人体の急所、いかにして隙をつくか〟
「…………別の本……はない?」
「え~?またぁ??」
右の少年にも抗議されながら他の子供の持って来た本を手に取るが
〝男の落とし方〟〝ザ・交渉術〟〝王国法全書〟〝人の動かし方〟〝心理学的詐欺術〟〝暗殺技術大全〟〝罠全集〟
談話室に居る子供達は5、6歳~13、4歳くらいまでの子供達が20人程。
そのどの子供達も物騒な本を持っている。
「えっと?………皆なんでこういうのを選ぶの?もっとほら!難しいのが読みたいなら私がこの前持って来たシドレア戦記とか伝記とかもあるし……航海術の本とか‼船での旅なんて素敵でしょう⁉」
ノワールが古城に住むことになってからは、私はお金はドレスの転売で出すが古城内部のことはほとんど彼に任せて魔王業、というか修行のための悪党退治に勤しんでいた。
子供達に渡された本を見るとまだ真新しい物も含まれている。
だからこの本達はノワールが買い与えた物だと思うが、その意図が分からない。
「だって密偵になるならこういう本を読んだ方が良いってノワール様が‼」
「兄ちゃん達もこういう本読んで勉強したって言ってたよ?」
「姉さん達もこういう本読んでいつでも魔王様とノワール様のために動ける様に信頼を築いてるって……」
「ちょ、ちょっと待って‼密偵⁉それに私達のために信頼関係を築く⁉そんなことしなくていいのよ??もっと好きなことをして生きて良いの‼」
元々この古城で子供達が集まること自体、自然発生的なものだった。
7年前から私が助けた子供達が偶々この空いていた古城に集まり、4年前からは私が資金援助をしてノワールが管理をしている。
しかも最近ではゲームが始まり表の生活が忙しくなってきているため、魔王業もあまり出来ていない。
現に、今ここに居る子供達の中にはノワールが拾って来たのか、自分でたどり着いたのか私が関わらずに古城に住み始めた子も居る。
そこまで義理立ててもらう必要は無い。
「好きなことを選んだ結果、二人への恩返しになっただけっすよ」
聞き覚えのある声に振り向けば、ディーンとトーマスが皿いっぱいに15㎝程に切った竹の様な物を入れて談話室に入ってきていた。
「「「サトウキビだー‼‼」」」
私を取り囲んでいた子供達は目を輝かせてディーンとトーマスに群がった。
二人から小さなナイフも受け取り、器用に皮を剥いて中の繊維を齧っている。
「ここを巣立った者の中にはパン屋に勤めている者も居れば商人や騎士、果ては文官にまでなった者も居ますが、そこまでの道を作ったのは紛れも無くお二人でしょう。何かしらの恩返しをしたいと思うのは道理と思いますがな?」
トーマスがサトウキビを絞って作ったジュースを渡しながら話してくれた。
流石に公爵令嬢としてサトウキビを齧って繊維を吐き出すのは抵抗があるので、いつもこうして出してくれる。
ちなみに本来サトウキビはこの王国には無いものだが、ノワールが品種改良を重ね、ここの季節でもちゃんと甘くなる様に作ってくれた。
「うん!兄ちゃんも姉ちゃんも魔王様とノワール様のおかげだって言ってた‼」
「絶対いつか恩返しするって言ってたよ?」
「僕も恩返ししたいよ、だってここ、暖かくて美味しい物があって勉強出来て夢みたいだし」
「私も‼」
「……ありがとう、無理はしないでね」
じんわりと温かい気持ちが溢れ、そのまま私はサトウキビジュースを飲んだ。
前世でも飲んだことが無かったものだが甘くてさっぱりしていてとても美味しい。
「問題無いよ、出て行った子供も含めればかなりの数が居る、僕が言うまで何かあっても動くなと伝えているしね」
気がつけばノワールも談話室に入ってきていた。
「そうねノワールありがとう」
「いや礼には及ばないよ、それよりもビア?何か良い知らせを持って来たんじゃなかったのかな?」
私の隣に新しく座っていた5歳くらいの子供を抱き上げ、自身の膝の上に乗せてノワールは意味ありげな笑顔で詰め寄って来た。
死者からの手紙なんて勝手なことをして‼幸いニコラスお兄様達は信じているようだったけれど危なかったじゃない‼と本当は怒るつもりで来ていたがノワールの顔を見て怒る気分ではなくなった。
代わりにノワールの方に頭を預けて手を握る。
「さぁ?お兄様の書斎に出版元が確かな割に怪しげな本が増えた気がしたけど忘れたわ」
「それは良かった、現実主義なニコラスにはピッタリな本だろうね」
「そうかもしれないわね」
ノワールの皮肉に二人でクスクス笑った。
付き合い始めたからと言ってすぐに自分から寄りかかって手を繋ぎ始めるなんて、私はやっぱり男好きの悪役令嬢オリビアだと思う。
でもノワールの顔を見たら触りたくなったし、触れて欲しいと思ってしまった。
本来この世界の令嬢達はもっと奥手だ。
一応じっとノワールの様子を伺えば彼は微笑んで額にキスしてくれた。
「はいはい、子供達もいるんでそれくらいで!ほら、子供達は勉強の時間っすよ!お二人は私室かどっかに行ってください!」
パンパンとディーンが手を叩き、全員を促す。
「分かったよ、ビア、あの庭をお借りしてもいいかな?」
「どうぞ、どちらにしろノワールが居ないと入れないでしょう?」
ノワールは私にあの庭をあげると言いながらも、入るには黒バラの壁をどうにかしなければならない。
あの狂気の様な愛情を考えるに他の誰かを私が招くことを許すとは思えないし、使い道など二人で会う以外に無かった。
「いやはや、若さとは尊いものですなぁ」
トーマスが髭を伸ばしながらしみじみと言うなか、子供達に別れを告げて私とノワールはあの秘密の庭園に向かった。
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