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俺、アレックス・ウェントワースはいつも期待されない子供だった。
双子の兄であるハワードは何をしても完璧で、まるで予知をしているのかと思えるほどに先を見通して行動する。
『アレックス殿下もすごいけれど、やっぱり凡人の域を出ないな』
『王位はハワード殿下だろう、だからこそ陛下はオリビア嬢をアレックス殿下にあてがったんだ』
俺の魔法は雷。
見ようによっては神の御業にも等しいこの魔法が発現した時は本当に嬉しかった。
剣術の稽古で雷を身にまとったことで魔法が発覚した。
周囲から賞賛され、この時、初めて兄上に勝つものが出来たと思った。
『すごいなアレックス!』
兄上に羨ましがられたのが嬉しくて、あの日は寝られなかった。
が、その翌日、兄上は軽々俺を越えていった。
二人で王都郊外に赴いた時、土が悪くほとんど枯れかけの畑があった。
兄上は徐に手をかざすと見渡す限りの作物を生やし、出来たトマトを一つもぎ取り齧ると首を傾げた。
『あれ、すまない、魔法で無理やり成長させると味はあまり良くないようだ。食べなければ肥料にしてしまってくれ』
戦いにしか使えない俺の魔法より、実用性が高く、また広範囲に使える魔法は俺とは比べ物にならない程に周囲に賞賛され、感謝されていた。
『兄上……いつから魔法を?』
『うん?今だよ、何だか出来る気がしたんだ。アレックスに触発されたのかな』
あの頃、まだ5歳で触発の意味が分からず俺を馬鹿にした言葉だと思った。
兄上が憎くて憎くてどうしようもなくて、けど、俺がいくら兄上を恨んでも睨みつけても兄上は俺を視界に入れない。
まるで、敵じゃないみたいに。
10歳くらいからは、兄上は俺を敵とみなしていないことを理解してきていた。
格下過ぎて、敵ではなくて俺は兄上にとってただの石ころの様に何でも無い存在なのだと知り始めていた。
それでもその事実を認めたくなくて、俺は必死で兄上の言う言葉に噛みついていた。
「殿下!アレックス殿下‼」
「え?」
名前を呼ばれ、呆けていたことに気がつき呼ばれた方を見ればそこにはピンク色の瞳を潤ませた聖女、キャメルが心配そうに俺を見ていた。
「大丈夫ですか?お疲れならもう案内は大丈夫です!お休みになってください!」
そう言いつつキャメル嬢は俺の手を取り、握った。
力を分けてくれるようにきゅっと握られた手が可愛くて、思わず顔がほころんでしまう。
聖女キャメルの魔法は時巡りの魔法。
悪い臓器でもない限り、あまり若い人間に使用することは出来ない。
だから代わりに手を握ってくれているのだ。
なんて愛らしいんだろう。
「キャメル嬢は優しいんだな、ありがとう。でも大丈夫だから次へ行こう」
握られた手を握り返せば彼女はほんのり頬を染めた。
こんな女性が将来妻になってくれたらどれだけいいだろう。
『そうだな、アレックスには別のもっと淑やかな女性が合うと思うよ』
キャメル嬢と他愛ない話をしながら不意に兄上の一言が蘇った。
そういえば10歳ぐらいの時、兄上が一度だけ予想を外したことがあった。
悪女オリビアのことだった。
オリビアが本当は才女ではと兄上が突然言い始めた時には驚いた。
しかし、入念に計画を練ったにも関わらず結局は俺の言った通りオリビアはやはり馬鹿で傲慢なだけだった。
それなのに兄上はその頃からなのか、オリビアに執心し始めた。
『兄上‼なんであんな馬鹿な女を好いているフリをするんですか‼このままでは兄上はおかしくなったと言われてしまいますよ⁉』
茶会を二人で抜け出していたことが発覚し、あらぬ噂まで流れ始めたため俺は兄上を窘めた。
もう俺の中で兄上との差が埋まらないことは変えようのない事実だった。
なら、少しでもこの人の支えになろうと頑張り始めた矢先の出来事だった。
『アレックス、将来彼女を妻にしたくないんだろう?だったら大人しく僕に譲ってくれ』
『はぁ??正気ですか?あの傲慢で我儘な女のどこがいいんです?』
『お前にはきっと一生分からないよ』
それだけ言うと兄上は機嫌良く本を読み始めた。
訳が分からなかった。
あれだけ憎んで、恨んで、尊敬した兄上が今更俺の最大の汚点ともいえる婚約者を欲しがるなんて。
「ここがキャメル嬢の私室だ、今日はもう歩き疲れただろう?ゆっくり休むといい」
「うわぁ!ここが私の部屋ですか?何だか恐れ多くて……まるでお姫様になったみたい!」
「アハハ、君は聖女なんだ。実際はお姫様よりも偉いよ」
「そんな!……あの、アレックス殿下」
「ん?何だい?」
彼女はしばらく言うかどうかもじもじ悩み、意を決して俺を見た。
「あの、お茶会で会ったときからずっと素敵で、尊敬していました。今日また会えて嬉しいです!」
それだけ言うとキャメル嬢は恥ずかしそうに部屋に入ってしまった。
……お茶会の時から??
お茶会の時といえば、まだ兄上が生きていた頃だ。
それなのに俺のことを素敵だと彼女は言ってくれた。
ホワホワとした不思議な何かが俺を一瞬満たした。
兄上が死んで、俺は表舞台に引きずりだされた様なものだった。
今まで兄上が背負っていた期待が全て俺にのしかかり、何をやっても兄上の影がちらついた。
『ハワード殿下が生きていればこうはならなかったでしょう』
どれだけの成功を収めてもその言葉は絶えないし、事実、俺もそう思っていた。
でも彼女なら、キャメル嬢ならもしかして素直に喜んでくれるのではないか?
少しの期待をもちつつ、俺は部屋に入り息を呑んだ。
部屋にある書斎机に大量のアイビーが生えていた。こんもりとしたアイビーの山の中央には一つの手紙が置いてある。
「なっ……」
普通に考えれば衛兵を呼んで手紙の内容やこのアイビーの山を調べさせるが、俺は手紙の赤い宛名にくぎ付けになって動けずに居た。
〝親愛なる片割れ、アレックスへ〟
片割れという表現も、その美しくも特徴のある文字も見覚えがあった。
「あ、兄上⁉」
思わず危険も忘れて手紙を開くとそこには数行しか書いていなかった。
〝オリビアが欲しい、許可をくれ、返事はビアに渡して欲しい〟
兄上は暗殺事件ではっきりと死亡が確定しているし、焼けた遺体も発見されている。
死んだことは間違いない。
「兄上……そんなにあの女のことを慕っていたんですか?あいつは兄上の葬儀で高笑いしていたんですよ?」
兄上がオリビアに執心していることは公然の秘密となっていたが、彼女はあろうことかその葬儀の席で俺に囁いたのだ。
これで王位は貴方のものですね、と。
蔓植物のアイビーの花言葉には死んでも離れないというものがある。
ブルッと全身に怖気が走り、俺はとりあえず返事を書いた。
〝どうぞ、欲しいなら差し上げます〟
翌日、オリビア嬢に直接渡すのはわざわざ会いに来たようで嫌だったため、ニコラスに手紙を託すとニコラスの書斎机も同じような現象が起きていたとのことだった。
内容も同じ、オリビアが欲しい、許可が欲しいというもの。
「……兄上は、もしかして生きているのか??」
ニコラスに聞けば彼は首を振った。
「私もそう思い、あの事件を詳しく調べてみましたがやはり死亡は間違いないかと思います。それとこちらを」
ニコラスに差し出された本のタイトルは〝死者からのメッセージ〟というもの。
中を読めば今回と同じように死者が使っていた魔法が出現し、そこに死者からの手紙が添えられていたというものだった。
「こんなもの、眉唾もいいところだろう」
「いいえ、私もそう思い出典や著者、掲載されている事件やその関係者など調べ尽くしてみましたがどうやら本当のようです。ちなみに全員、心の病などではなく正気そのものでした」
真顔で言うニコラスの正気も疑ったが、彼が正気を失えば公爵家は一気に傾くことは誰もが知っている。
多分、傾いていないということは全て本当のことなんだろう。
「不思議な体験もあるものだな」
「そうですね、私もまだ知らないことがあるのだと勉強になりました」
ちなみに、ニコラス経由で渡されたその手紙はオリビアによって即刻破り捨てられたらしい。
そんな状態で兄上には伝わったのだろうか。
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次回更新は遅くて1月9日、書ければそれよりも早く出す予定です‼




