28
『昨日は本当に助かった、礼を言う』
『そ、そんな!私は当たり前のことをしただけです!』
国王やその周囲の者達が一斉に頭を下げ、キャメルはあわあわと手を振るがその様子に皆苦笑していた。
なんて純心で可愛らしい聖女だろうかと。
『アレックス、この可愛らしい聖女様は王国の宝だ。くれぐれも失礼の無いようにな』
『はい、父上』
聞いたことのある声にキャメルが振り向けば、そこにはいつぞやの王子様。
『あ、貴方は‼』
『キャメル男爵令嬢会うのは三度目かな、君みたいな可愛らしい人が聖女だなんて嬉しいよ』
プシュウゥと音を立ててキャメルが真っ赤になる中、アレックスの少し後ろに控えた銀髪に碧い瞳、眼鏡のイケメンが頭を下げた。
『キャメル嬢、彼は君の教育係になったニコラス・オルブライトだ。こう見えてもう爵位を受け継いで公爵の仕事をしている。普段の授業以外にも分からないことがあれば彼や俺に聞くと言い。あぁ、それから……』
アレックスが手を指した方向を見やればそこには筋骨たくましい赤い髪に赤い瞳、頬に傷が入ったイケメン。
彼も控えめに頭を下げる。
『彼はキャメル嬢の護衛でクリフという。王宮ではいいけど王宮の外に出る時には必ず彼が護衛する』
『そ、そんな護衛だなんて……』
『君はこの世界の聖女様なんだ、護衛をつけるのは当然だよ。煩わしいだろうが我慢してほしい』
『そんな、煩わしいだなんて……。精一杯頑張ります!』
『ハハッ聖女に仕事は無いから気軽にね』
『はい!気軽に一生懸命頑張ります‼』
ギュッと拳を握り、やる気を出すキャメルを周囲はクスクス笑い謁見の間は一旦退室となる。
ここまでが攻略対象者の人物紹介。
そして謁見の間を出てからが私、オリビアの出番だった。
謁見の間の扉が開き、攻略対象者と共に仲睦まじく出てきたところに私は勢いよく乗り込んだ。
扇をパァンと手で打ち鳴らし、威嚇の音を立てる。
「ちょっと貴方‼私の婚約者に馴れ馴れしくしないでくださる⁉」
キンキンした声でせっかく閉じた扇を開きながらキャメルを威嚇するとアレックスとニコラスがキャメルの前に立ちふさがった。
「え、え??あの、婚約者って……」
キャメルが怯えながらアレックスに聞けば、アレックスは苦々しい顔を隠しもせずに答えた。
「この女の魔法を国外に流出させないために、俺は仕方が無く彼女の婚約者をしているんだ」
「うふふ‼そうよ!聖女だか何だか知らないけれど王妃になるのはこの私‼オリビア・オルブライトなんですから‼もっと私を敬いなさい‼」
決まったー――‼‼
ハンッと髪を後ろに靡かせ、攻略対象者と主人公を威嚇する姿は悪役令嬢そのもの。
悪役令嬢らしい痴女にも似た演技には辟易していたが、この他者を威嚇する演技だけは生来のものなのか不思議な快感が襲ってくる。
この後は攻略対象者が口々に私に文句を言い、その後キャメルには選択肢が現れる。
王宮の外に出る、を選べばクリフと一緒にデート。
王宮を見て回る、にすればアレックスが王宮を案内してくれる。
王宮図書館で勉強、を選べばニコラスお兄様が勉強を見てくれる。
自分に盛大な拍手を贈りながら攻略対象者からの罵倒を待っていると、突然手を引かれた。
見ればクリフが私の腕を握っている。
「アレックス殿下、並びに聖女様、オリビア公爵令嬢は少々お疲れの様ですので屋敷までお送り致します」
「あぁそうしてくれ、行こうキャメル嬢」
「え?えと、はい!」
「大丈夫です、この愚妹は気にしないでください」
は?はぁ⁉
何なのこの展開は‼
これでは初めのクリフルートの選択肢が減ってしまう。
「離しなさい平民‼‼私を誰だと思っているのかしら⁉私は……ッ‼ゲホッ!ゴホッ」
私がいくら引っ張ってもクリフはビクともせず、ヒステリックに叫べば喉に直接熱い空気が入ってきた。
苦しくてむせているとそのまま引きずられ、空いている一室に追いやられた。
引きずられている最中にアレックスや聖女、ニコラスお兄様は角を曲がり、私が部屋に入れられる様子は見ていない。
流石に危機感を覚え、クリフの腕を闇魔法でほんの少し抉ると彼はすぐに手を離してくれた。
「何するのよ‼‼」
「……オリビア、昨日の夜どこに居た?ガキの父親の所に行ったのか??」
私に傷つけられた腕の血を舐めとりながら、クリフは低い声で聞いて来た。
昨日の夜はあの後、公爵邸に帰るには遅すぎたためそのままノワールとは別室の古城に泊った。
けどそんなこと、クリフには関係ない。
昨日の思わせぶりな態度は本当に申し訳ないと思うけど、今はそれどころではない。
クリフのフラグを一個折ってしまった。
早く、クリフをキャメルの元に戻さないと。
「昨日も言ったけど、クリフには関係無いわ‼私はノワールと付き合っているの‼もう私に構わないでちゃんと演技して‼キャメルに目を向けて‼」
「……付き合ってる??アレックス殿下以外に?」
「そうよ‼」
正しくはこのゲームが終わったら付き合うという約束、というか一方的なお願いではあるが今はクリフに諦めてもらうために言った。
だが……。
「プッ!アハハハハ‼オリビアは本当に優しいなぁ」
「は?……何、言っているの?」
怒るか悲しむかと思っていたのに、突然笑い出したクリフに恐怖しながら私が聞くと、クリフはまだ残った笑いをかみ殺しながら笑顔で近づいてくる。
「そうやって俺をゲームのシナリオに戻そうとしてくれているんだろう?俺が傷つかないように……あのガキのことはさ、驚いたけどいいんだ、俺がこっちにすぐ戻ってこれなかったのが悪いから、オリビアは断りきれなかったんだろう?
なあオリビア、俺達は運命で結ばれているんだ。あの人も言っていた」
「あ、あの人??」
クリフが近づくにつれて、私は窓際へと追いやられた。
「俺さ、ずっとオリビアのこと好きだったけど諦めていたんだ。だって俺と会うずっと前からオリビアは王子と婚約していたんだろう?でも7年間お互いに思い合っていて、それでオリビアはもうすぐ婚約破棄される、運命によって引き寄せられているからだってあの人が教えてくれたんだ」
「ク、クリフ、私貴方のことは好きじゃない、思い合ってなんていないの」
クリフのよく分からない言葉に怯えながらも訂正するが、彼はまたそれを笑い飛ばした。
「ハハハ‼やっぱりオリビアは優しいなぁ」
ゾゾゾッと背中を悪寒が走り、クリフにこのまま近づかれれば危険だということを感じてはいるが逃げられない。
銃は今日は置いてきているし、体術は私の苦手分野で、そもそも副団長となった相手に勝てる気がしない。
出入口はクリフの後ろにあり、彼の横を通る隙なんて無い。
考えあぐねていると窓の外で何かが動いた気がした。
クリフに注意を向けながらも横目で確認すると、茎も葉も花弁も黒い、黒バラが室内に入りたそうに窓を突いている。
ノワール⁉
なぜ彼がここに居るのか分からないが、さっきまで恐怖で足がすくんでいたのが嘘の様に体が軽くなった。
固くなっていた手足も、口も滑らかに動く。
私はクリフに気がつかれないようにそっと窓の鍵を外しなから話した。
「クリフ、誰に何を教えられたのか知らないけれど私は本当に貴方のことは何とも思っていないの。ゲームのキャラとしてすごく憧れていた時もあったけどただそれだけ。恋心とは違う‼」
言い切ると窓を勢いよく開け放つ。
開いた窓からは大量の黒バラが侵入し、クリフを追いやり、私を窓の外に引き込んだ。
「オリビア‼‼」
クリフは侵入してきた黒バラを剣で切り裂いていくが黒バラはそれ以上に増殖し、私が逃げるのを助けてくれた。
そのまま蔓に誘導されるままに下の階の窓に入れば彼が居た。
黒い髪に黒い肌の化粧と、ガラスで作ったコンタクトレンズの様な物をつけた黒い瞳、分厚い丸眼鏡の変装をしているが紛れも無くノワールだった。
いくら変装して、死亡から4年経っているとはいえ危険過ぎる行為だった。
蔓はそのままノワールの広げた腕へと私を預けていく。
「ノワール‼何で……」
「ちょっと野暮用があってね、けど来てよかったよ。ビア、いつ殺して欲しい?」
綺麗な顔を作りながらも心の中はとんでもなく怒っているらしく、今日の夕飯何にしようかのトーンでノワールは物騒なことを聞いて来た。
「いつでも駄目」
「大丈夫、ちゃんとシナリオが終わってから」
「ノワール」
「ハァ、分かったよ」
軽いため息を吐くとノワールは私を抱えたまま窓を飛び降りた。
どうやらクリフが階段を使って降りてきたらしく、入れ違いに入り、怒りの声が聞こえたがノワールは難なく城壁をスルスルと降りて逃げおおせた。
クリフの言っていたあの人って誰だろう?
その誰かがクリフをあんなにおかしくしたの??
一抹の不安を覚えながら、ゲームは本編へ動き出していった。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>
既にしていただいた方、ありがとうございます‼




