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夜会の後、私は豪華なドレスから動きやすい平民の様なワンピースに着替え、その上にふわりとガンベルトをつけて銀色の銃を仕込み、貧民街の古城へと向かった。

いつも通り馬に乗ってディーンと共に黒バラの前に立ち止まる、いつも通りに黒バラが開いていく。


古城には必ず見張りが立っているため、見張りがノワールに伝えてくれたらしい。


「魔王様‼いらっしゃい‼」

「皆元気そうね」


深夜0時にもかかわらず、起きていた子供達は出迎えてくれる。

いつものことだった。

でも、いつもなら一緒に出迎えてくれるはずのノワールがそこには居ない。


よく考えれば私は昨日大嫌いだと告げて城を飛び出している。

ノワールが本当に私のことを好きだったとしても、もう気持ちは無いこともありえるのではないか。


自分で考えていて、気持ちが無いという部分にチクチクと心を痛めていると不意に背中を叩かれた。


「まずは話し合い、結論を出すのはそれからっすよ?」

「うん……」


ノワールの私室に続く階段を一段一段重い足取りで昇り、いよいよ扉の前まで到着する。

緊張しながらも軽いノックをすると、返事よりも先に扉が開いた。


「……ビア、悪かった」


一言だけ呟いたノワールは明らかに疲れていた。

たった一日なのに憔悴しているというか、全身から負のオーラを出している。

こんなノワールを見るのは初めてだった。


「プッ!」

「ビア?」


人が弱っている姿を見て笑うなんて我ながら性格が悪い。

でも笑わずにはいられない。

だって、あのノワールが恋愛のことぐらいでここまでなるの??


「ごめんなさい、でもなんか私にちょっと言われただけでここまで疲れちゃうなんてノワールらしくなくて……」


怒るかと思いきや、ノワールも腕を組みながら壁に体を預け、頷いた。


「僕もそう思う。他のことなら何だって出来るのに、ビアのことだけどうにもね」

「「…………」」

「……ビア「ノワール」」


沈黙の後、お互いに名前を呼ぼうとして声が重なり合い、思わず笑ってしまった。


「僕からいいかな?」

「どうぞ」


ノワールは恭しく一礼すると手を差し出し、エメラルドグリーンの瞳で見つめてくる。


「美しい人、このまま魔王城の庭園にご案内させていただけませんか?」

「ふふっ喜んで」


ノワールに昨日みたいな怖さは無く、そこに居るのはいつもの気心の知れた見目麗しい青年その人だった。

私が身分を捨てさせたのでこの言葉は言えないが、王子様みたいだと思ってしまった。


そっと差し出された手に手を乗せると、彼はゆっくりと手の甲にキスをしてくる。

夜会でよくされることだが、他の誰にされるのともノワールに感じる気持ちは違う。

暖かくて、心地いい。


腕を突き出され、エスコートするという態度で示され、そこにそっと手を乗せると彼のリードに合わせて歩き出すが歩幅はこちらに合わせてくれているらしく、そんなに早くない。


いつもと違う私達の雰囲気に起きていた子供達がわらわらと群がろうとしてくるが、トーマスとディーンが二、三人ずつ抱えて寝かしつけに行っていた。


「ビア、僕と二人きりが怖いなら誰かつけるけど?」

「ううん大丈夫、今日はちゃんとガンホルダーも付けてきていつでも銃を取り出せるようにしているしね」


これ見よがしに銃を見せ、左手で回してまたガンホルダーにしまうとノワールは苦笑してしまった。


「これは心強い」

「ふふっ怖いの間違いじゃないの?」


二人でクスクス笑いながら古城の外に出て庭園を歩いて行く。

古城の庭園には約8割野菜が植えられている。

子供達が自分で育て、自分達で収穫し、料理する用だった。


残りの2割は花が植えられているが、どれも社会勉強のために王都で売るための花が植えられていた。


野菜や少量の花でも、庭園を歩くのはあくまで話をする口実のため私には十分だったのだが、ノワールはそのどれにも見向きもせず真っすぐ歩いて行く。


「ノワール?」


気がつけばノワールの顔はちょっと赤い。


「ビア、あの……あークソッ…………悪い、言いたいことがまとまらないけど昨日本当はビアを連れて行きたかった庭があるんだ……その、僕の気持ちはちょっと重いかもしれないけど……引かないで欲しい」


畑を突き抜け黒バラで出来た壁に到達すると、黒バラは私達を待ち構えていた様に道を開けていく。


「わぁぁ‼」


黒バラの先にあった光景に思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

バラが開いたその先にあった光景はまさにファンタジーそのもの。


大きさはさほど広くないがタンポポの綿毛の様な植物が所せましと生えて、綿毛の部分はエメラルドグリーンに光っている。

散った綿毛がフワフワと空中にも舞い、ランタンなど必要ない程に明るい。


綿毛に照らされる周囲のバラは薄紫色。

そのバラの淵も淡く光っている。


奥には小さな池があり、芝生の様な植物が水の動きに従ってそよぎ、まるで踊っているみたいだった。

そしてその池の隣には小さな小屋があった。光る薄紫色のバラで覆われてとても美しい。

その手前にはおしゃれな椅子とテーブルまで用意してある。


「綺麗……」


自分の語彙力の無さが悔しい程のその光景に、私はただただ息をのんだ。


「ビア、気に入った?」


そっと首を傾げながら顔を覗き込んでくるノワールにこくこくと必死で頷く。

綺麗で、素敵過ぎて声にならない。


でも確かに、薄紫色は私の瞳の色だしエメラルドグリーンはノワールの瞳の色だ。

言われてみればノワールの気持ちの強さがうかがえる。


「気に入ったならこの庭はビアにあげる」

「は⁉ノワール⁉こんなに素敵なものもらえな」

「その代わり!」


私の言葉を遮るようにノワールは付け加えた。

その代わり、僕と付き合って欲しいと言われるのかな。


ノワールのことは嫌いじゃない。

むしろかなり好きな方。

だけど物をあげる代わりに付き合って欲しいと言うのはちょっと乙女心的に嫌だ。


「その代わり、僕と……一曲だけでいい、踊っていただけませんか?」


手を差し出し、顔を赤らめて小さな声で尻すぼみに言うその姿はいよいよノワールらしくない。


ドキッと心臓が強く拍動した。

なんか変な感じ。


ダンスなんて夜会に出れば多くの令息と踊り、たまに既に爵位持ちの男とも踊り、その行為にもう何とも思わなくなっていた。

でもノワールに差し出された手は嬉しい。


心臓が早く強く動き、喜びが徐々に体に満たされていく。


ここにある植物はどれ一つとっても市場で見たことなどない。

いくらノワールの魔法が植物の支配とはいえ、存在しないものを作るのは至難の業なはず。

それを私とダンスを踊るためだけにそろえたの??


「喜んで」


今まで何百回と言ったその言葉を初めて私は心の底から言った気がした。


「ありがとう」


そっと手を乗せると勢いよく引かれるかと思っていたが、彼は優しく引き寄せてくれた。

どこからともなく弦を弾く音色が聞こえ、辺りを見回せば植物で出来たハープがひとりでに鳴っている。


踊りだし、ノワールはしっかりとこちらをホールドしているがそれ以上は触ってこない。

何度も嫌な思いをしていたダンスがこんなに心地いいなんて知らなかった。


そっと見上げれば彼はエメラルドグリーンの瞳で優しく微笑んでくれた。

その姿はゲームで見ていたノワールとはかけ離れている。

ゲームでのノワールはもっと自信満々で残酷で他者を蹴落とし、キャメルを好きになったあともただただ押してくる、僕についてこいと言わんばかりのキャラだった。


「なんでダンスなの?そんなに踊りたかったの?」


昨日のことを聞こうと思っていたのに、口からは全然違う言葉が出た。

あぁ私、昨日のことを聞いてこの幸せな時間を壊したくないんだ。


「……ずっと嫉妬していたんだ」

「嫉妬??誰に?」


一瞬クリフと思ったがクリフとは踊ったことなどない。

ノワールはちょっと照れたように笑った。


「アレックスだ。婚約者だからよく踊っていただろう?……アレックスにしてもビアにしても全く気持ちが無いことは分かっていたんだけど、どうにも感情がおいつかなくてね。

誰かを羨んで、それでも自分が動けないもどかしさなんて初めて知ったよ」


ノワールの言葉に思わずクスッと笑ってしまった。


「アレックス殿下が聞いたら腰を抜かしそうな程驚きそう!」

「ハハッそうかもね、あいつは僕の幻影を追いかけ続けて自滅しそうな雰囲気があるからなぁ」


「流石、よく見てるわね」

「一緒に育ったからね」


「…………ビア、昨日のことは悪かった。けど僕は本気なんだ、好きだよ、恋人になって欲しい」


ポツリと言われた言葉に思わず身を固くすると、ノワールは分かりやすい程に眉を下げた。

私の中では気持ちが固まっていないのに、こんな風にダンスを踊って二人きりになって。

私、何やっているんだろう。


ディーンに言われたばかりなのにまた思わせぶりな行動をしてしまっている。


今日私はノワールに私のどこが好きなのか聞こうと思っていた。

でもそれってフェアじゃない気がする。

内容を聞いてそれによって答えを変えるのは、何だか相手の気持ちに是非をつけているみたいで何様だと思う。


腹を括ろう。


この居心地の良さが、幸福感が絶対に続くとは限らない。

でもノワールと離れたくないし、このまま宙ぶらりんな関係はノワールに失礼だ。

何より、この心地いい場所を他の人に譲るなんて考えただけで胃がムカムカしてくる。


ハープの音が止み、ダンスが終わると私は力強く彼を見据えた。


「ノワールの隣はすごく居心地が良いの、この場所を他の誰かになんて渡したくない、だから……よろしくお願いします‼」


「ビア‼」

「ただ‼」


ノワールが嬉しそうに声を上げた瞬間、私はそれに待ったをかけた。


「ただ、私は今アレックス殿下の婚約者なの。合って無いような婚約だけど一応全部が終わってからつ、付き合いたいの」


付き合いたいなど今まで言ったことが無いため、自然と顔に熱が溜まってくるが言うことは言わなければならない。


ノワールは何とも言えない蕩けそうな顔で私を見つめてくる。

そんな顔で見ないで欲しい。

私の方が恥ずかしくなってくる。


「ビア、ならアレックスとビアの親代わりになっているニコラスの許可があればいいね?」

「へ……」


思いがけない言葉に目を見開いていると、ノワールは私の手をとってキスをしてきた。


「嬉しいよ、今すぐ抱きしめて寝室に連れて行きたいほどにね」

「ヒェッ」


冗談めいて言っているが目は本気そのものなのでちょっとビビッて後ずされば、そのまま一歩詰められた。


さっきまで甘い空気を出す子犬の様な瞳が今はもう獲物を狩る獣のそれになっていた。


「そんなに怯えないでくれ、大丈夫、ビアの嫌なことは絶対にしない…………あと、一応言っておくが僕は裏切りは許さない」


エメラルドグリーンの瞳が妖しく光った。

そのまま私の髪に触れ、耳にかけてくれた。


「可愛いビア、頼むから僕に地下牢なんかは使わせないでくれよ」

「あ、あのそれはどういう……」

「うん?賢いビアなら分かると思うけど?」

「……はい……」


返事をすると耳元でスルスルと植物が成長する音がした。

また私の髪に黒バラを咲かせているのだろう。


黒バラの花言葉は憎しみ、恨み、永遠の愛、決して滅びることのない愛、そしてあなたはあくまで私のもの。


嫌なことはしないと言いつつも、裏切れば監禁すると言うのは矛盾している。


その狂気にも似た純愛に私は若干の恐怖を覚えながらも、他に目移りすることが無いのではとちょっと期待もしたのだった。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


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