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「にしてもオリビアは本当に綺麗になったなぁ」
「ふふ!ゲームそっくりでしょう⁉クリフもゲームそっくり‼もう、それ以上にかっこいい‼」
「…………あぁ、妹がやってただけであんま知らないんだけどな……」
毒針で眠ってしまった令息をとりあえず中に入れ、私とクリフは簡易の椅子に座りながら歓談していた。
クリフの団服を借りてボタンまで閉めているおかげで、このセクシーというよりも卑猥なドレスも隠せて私はご機嫌だった。
今日のイベントでクリフの登場シーンは無い。
おかげでイベントが起こるまでクリフは暇だし、最終的に私を刺すのはやっぱりクリフで決まりだ。
もちろん、キャメルがクリフルートかハーレムルートに入ればという話だが、赤い髪に赤い切れ長の瞳、短髪でいかにも筋肉質なクリフは絶対に攻略したいと思うはず‼
心理描写もクリフが転生者であるならばなんとかごまかせる……と思いたい‼
クリフは頬杖をつき、ぼんやりと夢現の様な顔をしてこちらをじっと見てくる。
「何?」
「その……す、すげぇことだなって思ってさ。7年前に俺を助けてくれたオリビアが俺と同じ転生者で、お互いに7年間ずっと思い合っていたなんてさ」
思い合っていた?
若干言葉に違和感があるものの、私はそれ以上に気になる言葉を訂正した。
「クリフごめんなさい。もう知っていると思うけど私は貴方を助けられなかった。
妹さんからどれだけ聞いているか分からないけど、あの時私が要らないことをしなければ背中の傷もお腹の傷も無くて、その頬の傷だけで済むはずだったの。本当にごめんなさい」
「な‼こ、これはオリビアのせいじゃねぇよ‼悪いのはアランだし。それにオリビアのことがあるから俺はずっと腐らずにやってこれたんだ。俺がオリビアを守るって目標があったから……あ、あのさ‼」
ガバッといきなりクリフは立ち上がり、私を見下ろした。
顔というよりも耳も含めて見えるところ全てが赤い。
「全部のイベント?が終わったらオリビアはアレックス殿下に婚約破棄されるんだろ?だったらその後俺と‼」
「ふぇぇえええん‼うぇええん‼‼ままぁ~~‼」
「「マ、ママァ??」」
思わず復唱しながら声のする方向を見ればベッドの裏からゆっくりとぶかぶかな服を着た小さな子供が出てきていた。
年は3,4歳くらいでどこにでもいる茶色い髪に茶色い瞳の子供だが、私にはその顔に見覚えがあった。
「ディーン⁉そこで何しているの??」
ディーンは私を見つけるとパァッと顔を輝かせて手を広げてきた。
「ママァ‼やっと見つけた~!」
「はい?」
「……オリビア……ガキが居たのか……?」
「いや、違」
「ぶぇええええん‼びぇぇえええん‼ママ抱っこぉお‼」
真っ青になるクリフに訂正しようとすると、ディーンの泣き声が更に大きくなり私の言葉をかき消す。
言うな、ということだろう。
仕方が無くディーンを抱き上げ、膝に座らせると彼は笑顔でうんうんと頷いてきた。
「パパがすっごく寂しがってたから、やかいの帰りにボクが連れて帰るねってパパと約束したんだ!偉いでしょ?」
パパ=ノワールのことだろう。
「……ノワールはそれを了承したの?」
「んーん、ボクが勝手に‼だってパパとママはお互いのことちゃんとイセイとして見てこなかったでしょう?おはなしあい、しよ?」
「うっ……」
舌ったらずな話し方をしているが言っている内容は大人そのものだ。
ディーンは魔法で若返ることが出来ることは知っていたが、正直ここまで小さくなれるとは思っていなかった。
本当は何歳なんだろう?
「こんな……こんなの聞いてない…………オリビアはただの演技だし、それに……本当に好きなのは」
気がつけばクリフは頭を抱えてブツブツと独り言を呟いていた。
「クリフ?大丈夫??聞いていないって誰に?」
何となくクリフの腕に手を伸ばせば、彼は独り言を止めて私の手を握ってきた。
思いきり握っているのかちょっと痛い。
「あぁそっか。オリビアは優しいから断れなかったんだよな。ガキを盾に使うなんて卑怯なヤツだな」
「クリフ……何言って、ちょっと痛い……」
クリフに伝えても彼はギリギリと力を込めることを止めない。
「なぁオリビア、手紙が無かったから俺が愛想つかしたと思ったのか??手紙も会いに行けなかったのもよく分かんねぇけど誰かに邪魔されてたんだ。でも俺はずっとオリビアのことが」
「いやぁぁぁあああ‼陛下‼」
「陛下‼お気を確かに‼‼」
途中からクリフの声がかき消えるほどの悲鳴が巻き起こった。
国王陛下が倒れたのだ。
「クリフ‼第一騎士団副団長としては様子を見にいくべきじゃないの⁉」
「…………オリビア、今夜ガキの父親と会うのか?二人で?」
「ク、クリフには関係無いでしょう⁉」
私が叫びにも近い口調で言うと、一気に腕を引かれた。
「俺に関係ない??」
「クリフ副団長‼どこですか‼」
扉の外から大人のディーンの声が聞こえ、クリフは忌々しそうに扉を見つめると私の手を離してくれた。
ディーンはいつの間にか私の膝から降りていたらしい。
本当に有能。
「……今度会いに行くから」
ポツリと言うと扉を開け、声の主を探しているようだったが見当たらなかったのかクリフはそのまま出て行ってしまった。
「いやー、危なかったっすねー」
クリフが出て行って数秒後、扉からヒョコッと顔を出したのは大人のディーンだった。
ちゃんと大人用の使用人の服を着ている。
「あ、ありがとう……助かったわ」
「いえいえ、これに懲りたらノワール様以外には思わせぶりな態度は取っちゃダメっすよ?」
「別に思わせぶりな態度なんて……」
「7年ぶりの再会で泣きながら相手に抱き着くのは思わせぶりじゃないんすね、初めて知りました」
「うっ……」
悲鳴が起こる直前、クリフははっきりと『俺はずっとオリビアのことが』と言った。
それに続く言葉なんて決まっている。
いくら基本恋愛に鈍感とはいえ、ここまでくれば分かる。
クリフは出会ってからずっと私のことが好きだったんだ。
子供の頃のことは流石に気がついていたけど、まさか大人になってからも続いているとは思わなかった。
でもなんか、嬉しくない。
クリフが好きで始めたゲームで、寝て起きたらゲームの中に転生していて、憧れの人に告白されそうになったのに……。
『ビア、君を愛しているんだ。恋人になってほしい』
じっと私を見つめるエメラルドグリーンの瞳が脳裏をよぎった。
ポンポンとタイミング良く、ディーンが頭を撫でてくる。
「やー、二人とも子供らしさの欠片もねぇな―って思ってたんすけど、案外可愛いとこあるっすね、ノワール様も昨日からずっと唸ってて面白いっすよ?」
「ノワールが?」
王族の身分を突然失っても、次の日には平然としていたノワールが??
「本当に?ちょっと想像できないんだけど……」
「本当ですって。気になるなら自分で確かめてみたらどうっすか?」
「……うん」
「あと、オリビア様は基本演技を抜きにしても距離感おかしいときがあるのでもっと注意すること、隙も大きすぎる。
さっきのあいつ、王都に戻ってきてから何度も公爵邸に侵入しようとしていたんすよ?」
「えぇ??」
確かに知った仲とはいえ、流石に妙齢の令嬢が居る屋敷に侵入するなんて常識からかけ離れている。
クリフの言動はちょこちょこおかしかった。
そういえば……。
「そういえば、手紙とか会いに来るのを邪魔されていたってもしかして……」
「やー、男の嫉妬は醜いっすねー?」
ディーンは腕を組みながら意味ありげにウィンクをしてくる。
誰とは言わなくても分かる、ノワールがやっていたのだろう。
そっか、ノワールの計画を紐解けば17歳になった瞬間に私に告白して即日OKをもらわなければならなかった。
そうでなければ次の日に私は目の敵にしていたクリフに出会うし、そこでノワールが手紙などを邪魔していたことが発覚してしまうから。
『ビア、悪かった……どうしても今日答えが欲しかったんだ』
「ふふっ!」
切実に言うノワールの顔が浮かび、思わず笑ってしまった。
あの最強の攻略対象者ハワード・ウェントワースが何て穴だらけの計画を実行したものだろう。
自分に自信があったのだと言えばそれまでだが、ノワールの雰囲気は自信とはかけ離れていて今思えばどうしようもなく焦っていた。
「……ノワールは……いつから私のことを好きだったの?何で?どこが??」
「それはご本人に聞いてください、話し合い、結構大事っすよ?」
「うん、そうね」
私は頷き、着ていたクリフの団服を丁寧に畳んで机に置き、時巡りの聖女誕生の歓声が沸く王宮をあとにした。
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