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王宮の夜会会場は広く、豪華な造り。

そして両端には絶滅した魔物の骨がいくつも飾られていた。


人々が笑い合い、踊り、交流を深める中、悪役令嬢である私もその役目を全うしていた。

明らかに胸を強調して肌の露出が激しいドレスを着ているせいで、私の周りには鼻の下を伸ばした令息達が集ってくる。


婚約者であるはずのアレックス殿下は私と共に会場に3歩入った瞬間に離れて行った。


「オリビア嬢、今夜もお美しいですね。私と一曲踊っていただけませんか?」

「いやいや、私と」

「僕と踊ってください」


「うふふ!まぁ嬉しい♡」


人の顔を見ずに体ばかり見てくる下衆に誘われても一ミリも嬉しくないが、ゲームでは喜んでいたので仕方が無い。

適当にまともそうな、そして隙が大きそうな若めの男を選び手を乗せた。


手を乗せた途端、男は這うように背中に手を添わせて自身の体に引き寄せてきた。


気持ち悪い。

視線も、触れている手も、彼が吐く言葉も全てが気持ち悪い。

比べるまでも無いのに、昨日ノワールに触られたとき、緊張はしたが気持ち悪くは無かったと思ってしまった。


ダンスでも必要以上に体を寄せてきてぞわぞわと寒気がしてくるが、流石に悪役令嬢の演技を7年もやっていると表情管理はお手の物になってくる。

今、私は傍から見れば承認欲求が満たされて満足この上ないように見えるだろう。


踊りながら辺りを見回すと、ピンク色の髪の毛の少女が目に入った。

主人公キャメルだ。


私と同じように令息達に囲まれ、困っているところをアレックスが助け出している。


ゲーム本番最初のイベントは国王陛下が倒れることから始まる。


『陛下!陛下お気を確かに‼医者を!誰か医者を‼』


全員が騒ぎ立てる中、キャメルはその様子を見つつ自身の体に不思議な力がみなぎるのを感じていた。

そして直観的に国王の元へ向かい、白い光りを放ち無事に国王を助けるのだ。


其方(そなた)はまさか……時巡りの聖女か?』

『え?え?……あの、時巡りの聖女ってなんですか?』


素っ頓狂な声を出し、場を和ませ、なんと愛らしい聖女様だともてはやされる。

そこに悪役令嬢の出番は無いため、私はイベントが起こる前にこの夜会から退場するつもりでいた。


じっくりとキャメルの様子を伺っていると不意に腰を引き寄せられた。


「オリビア嬢、私と踊っていながら他に目移りするなんていけない人だ」


踊っていた令息はニタニタと笑いながら私に顔を近づけてきた。

明らかに自分に酔っている発言に溜め息を吐きたくなるが、私はにっこりと微笑み息がかかりそうなほどにこちらからも顔を近づけた。


「あら失礼?ちょっと踊り疲れちゃったみたいで……控室でちょっと休もうかしら」


私の発言に令息は生唾を飲み込んで頷いた。

何を想像しているか分かるだけに吐き気がしてくる。

曲が終わり、令息は早速控室へと私を案内する。


控室と言っても本当の控室ではない。

いわゆる逢引き部屋の様な場所だ。


【時巡りの聖女】は全年齢対象のため、そういったいかがわしいシーンは無いが、露骨には無いだけでオリビアが色々な男性と夜を共にしていることをアレックスが嘆くシーンはあった。


だから私も適当な男を見繕っては逢引き部屋に引っ込み、床を共にしたフリ(・・)をしていた。

べたべたと自分の体に私を引き寄せながら歩き、隙だらけの男の手に軽く毒針を刺す。

普通気づきそうなものだが、逢引き部屋に向かう途中の男は大抵気がつかない。

気がついたとしても悪戯だと笑ってしまえばそれで流される。


毒針に仕込んだ毒は昏倒し前後の記憶を失うもの。


『例え記憶が無かろうと噂で最高の女と言われていれば、適当に覚えている素振りをして自慢してしまうのが男の(さが)っすね!』


と、いうディーンの言葉を信じて実戦してみれば見事に男達はありもしない私との夜の話を広げていった。

おかげで貞操観念の緩い悪役令嬢の出来上がりだ。


「待ってください‼」


いつもの様に暗がりを令息のリードに従いながら笑顔で歩いて行くと、不意に後ろから声をかけられた。

見ればそこには怒りを顔ににじませた赤髪赤目の騎士、クリフが居た。


ゲーム本番が開始するからクリフが現れることは想定内。

だがその見た目が想定外だった。


キャーーー‼‼

ゲームで見るよりも実物の方がかっこいいんですけど⁉


ゲームのCMでクリフを一目見た時と同じように心臓が強く早く動く。

思わずサインください‼と言いそうになるほどクリフはゲームそっくりでそれ以上のかっこ良さがあった。

転生してから7年も経っているし、最後に会ったのは子供のクリフだったため余計にその見た目の良さが際立つ。


「なんだ騎士風情が‼」


私との逢引き部屋行きを邪魔され、真っ赤になって怒る令息にクリフは殊勝に頭を下げた。


「お楽しみ中申し訳ございません‼ただ、私もぜひオリビア様に一夜のお恵みをいただきたいと思い来ました‼」


クリフが‼ちゃんと敬語を使ってる⁉


しかも内容が内容なだけに私は素のまま目を丸くして彼を凝視してしまった。

クリフの赤い瞳としっかり目が合い、嫌でも彼の意図が分かる。


〝俺を選べ‼話を合わせろ‼〟


じっと憧れの赤い瞳に見つめられ、思わず顔が赤くなるし目は泳いだ。

令息は驚き過ぎて口を開けて何を言えばいいか考えあぐねているし、私もどうしようか考えているとクリフは首から下げていた何かを私の目の前に突き出してきた。


揺れるそれに焦点を合わせれば、ずっと前に私がクリフにあげた笛だった。

いつも首から下げていたのか汚れているし、ちょっと欠けてちゃんとした音が出るのかも怪しい。


でも自分で言った約束を覚えていたらしい。

私は溜め息を吐いて令息から手を離した。

攻略対象者であるクリフに関わるのは得策ではない。


けどクリフが笛を私に返して気が済み、キャメルに恋をしてくれるのならそれが一番彼にとって安全な道だと思った。


そっとクリフの腕を掴み、私の体に引き寄せた。


「うふふ♡私、情熱的な方が好みなの♡またいつかお会いしましょう?」

「ちょっオリビア嬢‼」

「さ、行きましょっか!」

「はい」


状況についてきていない令息を放置し、私とクリフは逢引き部屋に親し気に入った。

中はいかにもなベッドと簡素な机、椅子、そしてここにも魔物の骨が飾られていた。


数百年前、魔物は実在し現王家が滅ぼしたため王家の権威を見せつけるために討伐した魔物の骨やミイラを王宮内では飾っていた。


何の気なしに部屋の中央へ向かうと、後ろで扉の鍵を閉める音が聞こえた。


「……オリビア……あの」


ガシガシ頭を掻くクリフに私は手を差し出した。


「笛、返して頂戴、貴方あの時の平民でしょう?」

「…………」


チャラッと音を鳴らしながら銀色のチェーンをつけた笛が私の手に落とされた。

そのまま手を握られる。

固く分厚くなった手は彼の努力をそのまま表わしていた。


「あの……さ、変なこと言うけど、オリビアも転生者だったりする?」

「は……今、なんて……」


一瞬クリフの言っている意味が分からなかった。

けどクリフは今確かに言った〝転生者〟と。

目を丸くしてただクリフを見つめていると、彼は頬を染めて私を見つめ返す。


「昨日思い出したんだ、ここ、俺の妹が昔やっていた時巡りの聖女そのままだって」

「‼‼‼クリフ‼」


喜びのあまり思わずクリフに抱き着くとそのまま彼は抱きしめ返してくれた。

割れ物でも扱うようにそっと背中に手を添えてくれる。


その優しさに思わず涙が出てきてしまった。


ずっと私は不安だった。

クリフのこともハワードのことも二人の未来を大きく変えているし、その責任は重い。

本当は私の思い違いなんじゃないか?

本当は私がおかしくなっているんじゃないか?

ずっとずっと不安だった。

でも、仲間が居た。


嬉しくて心が温かくなって感情がとめどなく溢れてくる。


「良かった!私だけじゃなかった‼」


クリフに抱き着きながら子供の様に泣いていると不意に扉に何かがぶつかる音がして、私は正気に戻った。


「「?」」


クリフと共に廊下を除けばそこには先ほどの令息がいびきをかいて寝ていた。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼

次回、不定期更新です。

遅くて一週間後に投稿します!


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