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「クリフ」
「アレックス」
「クリフ!」
「いいや、アレックスだ‼」
ハワード殿下暗殺の事件から約4年、今日はノワールの17歳の誕生日だった。
当初ノワールは王子という肩書が無ければただの少年に戻ると思っていたが、私の認識が甘かった。
ハワード時代に育て上げた密偵や信頼関係を築いた裏の人間のほとんどは、王族としての権力を失ったノワールとなってもほとんどの人間が彼から離れようとしなかった。
そのおかげでノワールは自身を暗殺に追いやった侯爵を突き止め、財産を侯爵に横領されたという証拠を捏造し、その侯爵と自身の元々の財産全てをどさくさに紛れてかすめ取ったのである。
今では私もほとんど把握していないが、裏で何やら人を動かし、財産と影響力を着々と広げていることは何となく察している。
「絶対にクリフ‼アレックス殿下はどこか抜けているから心配なの!」
「へぇ?やけにあいつを推すね、昔好きだったことと関係あるのかな?」
「違っ!そんなんじゃないってば‼」
「ふぅん?」
4年経ち、出会った当初は天使の様なかわいらしさがあったノワールは今では立派な男性となっていた。
というか、綺麗すぎるくらいに整った最高のビジュアルだ。
ソファにゆったりと体を預け、珈琲を飲んでいるだけなのにとても様になってしまう。
ノワール17歳の誕生日というめでたい日に何を言い合っているのかというと、攻略対象者+主人公キャメルの4人の内、誰を仲間に引き入れるかというものだった。
明日、開かれる夜会はキャメルのデビュタントの日でありゲーム開始の日だった。
ラストではバッドエンドだろうがハッピーエンドだろうが死人が出る。
悪役令嬢か、攻略対象者どちらかが死ぬ。
ならば攻略対象者を仲間に引き入れてラストはお芝居にしてしまおうというのがノワールの案だった。
しかし、この作戦には欠陥がある。
攻略対象者には心理描写のシーンがあるため、仲間に引き入れるには本当にラスト直前のギリギリに打ち明ける必要があった。
そこでそのギリギリに誰を引き入れるかというのを私達は話し合っていた。
「クリフの時は騎士として剣で刺し殺しに来るから、ほら‼このお芝居に使う剣で刺してもらえば私は絶対に死ぬことが無いでしょう⁉」
私がお芝居で使う柄の部分に刃が伸び縮みする剣を見せれば、ノワールはそれを見て鼻で笑ってくる。
「そんなもの、ちょっと知識のある人間が見れば一瞬で見破られるぞ、それよりもアレックスの魔法は雷だ。腐っても僕の片割れなのだから加減もお手の物だろう、はた目には派手に火花を散らせてビアには微弱な電気だけを流す、それしか方法は無い!」
「アレックス殿下は私のことを心底嫌っているじゃない⁉これからキャメルを好きになってついでに私への嫌悪も強くなって思い余って殺されそうで怖いの!」
「それはビアが僕の死を喜んでいると思われているからだろう?僕が姿を現して説得すれば全て払拭されるはずだ」
「はず、で殺されたくはないわ!クリフならまだ顔見知りだから何とか……」
「却下、顔見知りだからといってこの7年間手紙の一つも送って来やしない男だろう?軽薄なのは目に見えている……ハァ、この話は止めよう、どちらにしてもそのキャメル嬢が誰を選ぶかで決まる」
ここまで彼が熱くなり、全く譲らないのはめずらしい。
いつもなら折衷案なりこちらに少しは譲歩なりしてくれるのに……。
ノワールは自分を落ち着けるように一口珈琲を飲み、何かに気づいたように私の髪をじっと見つめた。
「ビア、少し髪型が崩れてる。直すから後ろ向いて」
「え?……えっと、じゃあ今日はベラを連れてきているから」
この世界では16歳が大人となる。
子供の頃ならまだしも、もうお互いに成人して1年の立派な大人だ。
それなのに髪を触らせるのは何だか気が引ける。
いつもなら一緒にノワールの私室に居る子供達もトーマスやディーンもここには居ない。
だからこそ、これから誰を引き込むかという内密な話も出来たのだが……。
そういえば、いつも通されるのがこのノワールの私室だから何とも思わなかったが今は本当に二人きりだ。
扉も完全に締まっている。
ノワールの身代わりとして焼いた少年の夢を見て以来、私はドレスを転売して資金を作りながら古城に教師を住まわせていた。
子供達の人数も増え、4年も経てば巣立つ子供もいるがまだまだその数は多い。
いつもはもっと外が賑やかなはずなのに今日はとても静かだった。
ノワールが話し合いのために人払いした?
私が戸惑いながら立ち上がろうとすると、ノワールは軽く私の手を握ってきた。
「ビア、大丈夫だから座って?」
ノワールはこの4年で表情が豊かになった。
前は作り笑いが標準なイメージでいたが、最近では屈託のない笑い方をするときもある。
でも今は何だか瞳がぎらついているような気がしてちょっと怖い。
ノワールを助けた日も確かこんな瞳をしていた。
「ハハッ大丈夫、昔みたいな質の悪い悪戯はしないよ」
「……うん」
何となく警戒しながら後ろを向くと、ベラが綺麗に編み込んでくれていた髪を手櫛で解かれる。
てっきり少しだけ直してくれるのかと思いきや、初めからやり直すらしい。
「えっと……ノワール?その、やっぱりベラにやってもらった方が……」
「ん?大丈夫だから」
何が大丈夫なんだろう。
ゾクゾクともドキドキともとれない、言葉に出来ない感覚が体中にはしる。
でも嫌じゃない。
「ビア、誕生日プレゼントありがとう。すごく嬉しい」
「喜んでもらえてよかった」
ノワールの17歳の誕生日にエメラルドグリーンの彫刻が施された万年筆を贈った。
彼は話しながらも私の髪を優しい手つきで解きほぐし、丁寧に結い上げていく。
「僕はさ、この17歳の誕生日をずっと待っていたんだ」
「??そう、おめでとう?」
成人する16歳ではなくて17歳の誕生日を心待ちにしていた?
私の反応にノワールはクスクスと笑った。
今日のノワールはちょっと変だ。
いつもはもっと気さくな友人って言う感じなのに。
「何でか分からないって感じだね、ビア、やっと君の眼中に入る年齢になれたことが嬉しいんだ。前の君は17歳だったんだろう?それなのに13、4くらいの子供が何をしても無意味だと分かったからね…………あ、ビアこっち向いて」
今の言葉の意味に気づきたくない様な、微妙な気分のまま私は言われた通りにノワールの方を向いた。
ゆるい編み込みを丁寧に仕上げていく。
ノワールは終始満足そうな笑顔だったが、その瞳はずっと私の髪を見ていて正直ちょっと安心してしまった。
今、眼が合うのはちょっと気まずい。
「あの……ノワール、もしかしてお酒でも飲んでる?」
「一滴も飲んでいないけど?酒の匂いもしないだろ?……それよりもビア、黒バラの花言葉は知っているかな?」
貴族の間ではその気持ちを花言葉で伝えることも多々ある。
そのため貴族教育の一環として、私も花言葉は一通り知っていた。
徐々に綺麗に編み込まれていく自分の髪を見つめて、出来ればずっと終わって欲しくないと思ってしまった。
終わってしまえば、何かが変わってしまいそうで怖い。
「黒バラの花言葉は……憎しみ、恨み、永遠の愛、決して滅びることのない愛……それと」
「「貴方はあくまで私のもの」」
最後だけノワールは被せて言ってきた。
そして編み込みが終わり、彼の手から伸びてきた茎も葉も花弁も真っ黒なバラが私の銀色の髪を彩っていく。
まるで絶対に離さないとでも言いたげに、編み込みにそって絡まるように成長していくバラを私はただ見つめ続けた。
黒バラの成長が止まり、全体が黒く縁だけが水色の綺麗な花を咲かせるとノワールは私の髪をとって大事そうにキスしてきた。
そして、私の瞳をじっと見つめる。
「ビア、君を愛しているんだ。恋人になってほしい」
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