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※ハワード視点続きです!
泥水を被せられ、汚れた服を着せられ、訳も分からず僕は古城に連れてこられていた。
「それで?この僕の命令外の行動は何なんだ?」
苛立ち混じりにディーンに聞けば、ディーンは頬を掻きながら視線を逸らした。
「あー、それはっすねー……あ!殿下ほら‼オリビア様が来ましたよ‼」
「おい!話をそらす」
語調を荒げながら言おうとした途端、僕は衝撃を受けてよろめいた。
見れば真っ白い服を着たビアが汚れるのも構わずに僕に抱き着いている。
大事に大事に僕の命を、鼓動を確かめるように抱きしめてくる。
「良かった……ハワードが生きてる……」
誰に聞かせるためでもない、彼女自身が絞り出したその言葉に僕の胸は異様な高鳴りをみせた。
ドクッドクッと今までに感じたことがない心臓の動きに頭がついていかない。
まだ何が起こっているのか、なぜビアが護衛をも撒いたのかは分からない。
でも彼女は損も得もなく命をかけて僕を救ってくれた。
そして初めて呼び捨てにしてくれた。
心が満たされるような、もっと何かが欲しくなるような不思議な感覚に襲われる。
「うわ!殿下真っ赤っすよ⁉」
「へ?」
ディーンの言葉に自身の顔を触れば確かに熱い。
「おや、本当に春が来ましたな!」
いつの間にかいたトーマスが口髭を伸ばしながら面白そうに見てくる。
「う、うるさい‼それよりも誰か説明を……」
ドクドクと心臓が異様な動きをするなか、ビアを離して話を聞けば最善なのは明白なのだがこの心地良い感覚を手放したくなくて僕からもしっかり抱きしめると、ビアは途端に力無くもたれかかってきた。
「ビア?…………ビア‼‼誰か‼ここに医師は居るのか⁉」
呼びかけても揺すっても返事をしないビアに焦り、僕は初めて焦りながら叫んだ。
「精神的なものでしょう。聞けば命の危険に直面したとか……いくら大人びて見えても13歳の少女ですね。大丈夫、ゆっくり寝ていればよくなりますよ」
ビアが気絶し、僕が助けを呼ぶだけで使い物にならなくなるとディーンはさっさとビアが既に古城に招いていた医師を呼び、診察をさせてくれた。
「いやー、殿下の取り乱す姿なんて初めて見たっすよ‼」
「恋は盲目と言いますが、殿下も大事なものが出来て良かったですな」
古城の中は三か月前に見たときとは比べ物にならないほどに綺麗に整備されつつあった。
ビアも床に寝かせることになるかと思ったが、綺麗なベッドが用意され、室内は快適に過ごせるほどに清潔になっていた。
「ビア……」
古城に住んでいる女性にビアは僕の泥で汚れた体を拭いてもらい、服を着替えさせてもらい眠っていた。僕もお湯を借りて身ぎれいにしてビアの眠っているベッドに腰かける。
彼女の顔がなんだかいつも見るよりも綺麗でとても大事で、無性に触れていたくなる。
「あー、それで……全て説明しろ」
あまり見ていると何だか礼儀に反することをしてしまいそうで、ディーンとトーマスに向き直るが二人は心なしがニヤニヤしていた。
「なんだ」
「いえいえ何も無いっすよ?ねぇトーマスさん?」
「ゴホン!そうだな、説明は長くなりますが儂らはこのまま先にお暇した方がいいですかな殿下?」
「いい加減にしろ、話せ」
「「承知致しました」」
「……ここが物語の世界???」
僕が聞き返せば二人は同時に頷いた。
「左様、儂らも半信半疑ではありましたが、なら自分の言った出来事が起こったら手を貸して欲しいと言われましてな、一応了承すれば殿下の暗殺が全て事細かに本当に起こった次第にございます」
「僕に言わなかったのはなぜだ?」
「いやまぁ、なんつーか、荒唐無稽なこの内容をそのまま伝えて真実であれば殿下が物語の道筋を変えて危険に陥るし、自分がいかれていればただの虚偽報告になるのだから言わなくても問題無いって言われた感じっすかね~」
「つまり彼女に言い負かされたんだな」
「「はい」」
「ふむ」
どう考えてもいかれている、だが……。
「じゃあ、ビアはこのまま僕に公には死んだままでいてほしいってことだな?」
聞けば僕が逃げたあと、ビアはトーマスと共に先に雪の中に隠しておいた数週間前に貧民街で死んだ子供の遺体を、植物のドームと一緒に泣きながら燃やしたらしい。
僕の質問に二人は頷いた。
「いいよ、じゃあ死んだことにしよう」
「は⁉え??殿下、いいんすか?」
僕があっさり答えると、二人は目を見開いた。
「あぁ、表舞台で動くのは性に合わないと思っていたところだしね、丁度いいよ。第一王子でなくなった僕についてくるのかどうかは各々で決めてくれ。他の密偵達にも連絡を頼む」
「「…………」」
ビアが子供の遺体を焼いてまで作った偽装を僕は暴きたくない。
僕らしくもなく、死んだことにする理由はそれがほとんどだった。
呆然とする二人を見送り、部屋にはビアと二人きりになる。
いつもの僕なら女性と二人きりだろうと何も思わないのだが、今日は何だが変な気分だった。ビアの寝息がやけに大きく聞こえる。
じっと顔を見つめれば、彼女の長いまつ毛がピクピク動いて涙が零れ落ちた。
何か夢を見ているようだった。
ディーンやトーマスの話では僕だけでなくクリフという少年のことも助けようとして失敗したらしい。
だからとりわけビアにとって僕が特別だから助けようとしたわけじゃない。
そんなこと分かっていても嬉しくなってしまう。
いつも殺されかけ、暗殺と隣合わせだった僕にとって損得関係なく命をかけてくれるなんて最高の贈り物だ。
「愛しているよ、ビア」
条件に合うからでも、何となく気になるからでも、幸せになれそうだからでもない。
合理的な判断からはかけ離れた感情を僕は初めて抱き、ビアの目元に優しくキスをした。
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