20
※ハワード視点です!
「あぁまた雪が降ってきたな」
僕、ハワード・ウェントワースは馬車に乗り、貧民街に来ていた。
普通に視察をするだけなら変装して行けば良いのだが、それをしてしまうと民に僕が理解を示そうと思っていることが伝わらない。
王になることはかまわないが、この表面をいちいち気にしなくてはいけないことが少々気に食わなかった。
公の視察に行ったからと言ってほとんど何も変わらない、情報は王国内に点在させている密偵達が正確に収集してくるし自身で様子を見たければ変装して気がつかれずに行うのが一番だった。
「面倒だな」
ここ最近、貧民街の治安はよくなりつつあった。
ビアが子供好きの魔王として悪党狩りをしているおかげで、大人同士の小競り合いや殺し合いはしょっちゅうあるが子供が巻き込まれることは少なくなってきている。
「……なぁ、僕は結構見た目が良い方だと思っていたがどう思う?」
馬車に同乗している従者に聞けば、従者は大きく頷いた。
「はい、ハワード殿下は男の私から見ても見目麗しいですし、現に多くの令嬢達から求愛されているではありませんか!」
「そうだな……ハァ、どれだけ周りに好かれても本命を射止められなければ意味は無いのだがな」
「あの、差し出がましいようですがオリビア嬢は止めた方がよろしいかと……」
控えめに苦言を呈してくる従者を無視し、僕はまたビアのことを考えた。
茶会では僕とビアが親密な関係にあると演出したのに、彼女は更に男好きの噂を流すことで僕がただ誑かされているだけとなってしまっている。
しかも僕との噂があるからさらに、あの難攻不落のハワードを誑かすほどに魅力があるとして悪女の名を轟かせ始めている。
茶会から三か月、デートに誘っても甘い言葉を囁いても手を繋いでみても恋愛的な意味で良い反応は示さない。
まるで子供扱いされているようにあしらわれる。
ディーンとトーマスを送って長いが、いまだにビアの目的は見えない。
「難攻不落はどっちだか」
クリフと積極的に連絡を取ろうとしていない様子を見るに、彼が好きだからやっているというわけではないんだろう。
まぁ連絡を取ろうとしてもディーンやトーマスには絶対に阻止するように命令を下しているのだが。
考えごとをしていると不意に馬車が大きく揺れて止まった。
「おい!目的地はまだ先のはずだが?」
従者が聞くと御者は扉を開けて頭を下げてきた。
「申し訳ございません。なにぶん整備されていない道で車輪が雪に埋もれてしまいまして、これ以上進めそうにありません!」
外を見れば確かに視界全てが雪で覆われており、人影すらまばらだった。
ところどころに雪をかき集めたと思われる雪山が出来ており、その横で老人が湯を沸かしているだけだった。
「分かった、ここからは歩きで行こう。問題無いどうせ見栄えとしての公務だ、むしろこの寒空の下に歩きで王族が視察を行ったとなればかなり民からの心象も良くなるはずだ」
「殿下、しかし……」
従者はまだまごついているが僕は馬車から降り、歩き出した。
こんなとき、貴族出身の従者や家臣は使えない。
あまり汚れ仕事の様なことをしたことが無いため、雪の中を歩くだけでも竦んでしまうのだ。
ザクザクと雪の上を歩き、馬車の前に出るとそこには見知った少年が居た。
たしか、古城に連れて行った日にビアが話しかけた少年だ。
カビたパンの様な物を持って震えている。
「?そこで何をして」
「殿下‼‼」
従者の声と共に振り向けば、さっきまで大人しくしていた馬が荒れ狂いこちらに向かってきている。雪に取られていた車輪も無理やり動かしたらしい。
「クソッ!」
護衛は遠い、何より護衛は僕の命のみを守る。
見ず知らずの貧民街の子供の命など王族に比べれば吹けば飛ぶほどに軽く考えられている。
急いで子供の前に立ち、緊急用の種を魔法で育てるがこの気温では育ちが悪い‼
蔓で馬を絡めとるのが最善だが僕から離れれば蔓の強度が足りず、仕方が無くドーム状にとにかく身を守るように植物を生やした。
もしも馬にのしかかられれば助からない。
馬は叫びの様な嘶きと共に僕の使ったドームを一度だけ蹴り上げ、避けて行く、が。
次の瞬間僕は後ろに庇っていた子供に勢いよく引っ張られて転んだ。
幸い雪で埋もれただけなので問題無いが、起き上がろうとしても子供がのしかかってくる。
「何を……」
「動かないで‼」
よく聞いたことがある声がしたと思った瞬間、ドームの後方から白いマントを被ったビアが入ってきて植物に水をぶちまけた。
「コリン‼」
ビアが叫ぶと僕にのしかかっていた少年は植物に手をかざし、全てを厚い氷で固めた。
何が起こっているのか分からない状況でビアが僕とコリンと呼ばれた少年の前に立ち、植物に向かって銃を構えている。
「ビア?」
「しっ‼」
少年が口元に手を当てた途端、それは来た。
氷で透けて見えていた植物は一気に燃え上がり、厚い氷を砕いて炎の槍がビアの数センチ先で止まり、ほんの一瞬遅れてビアが引き金を引けば乾いた発砲音と共に炎の槍は跡形もなく消えてしまった。
「ハッ……ハァ、良かった…………ありがとうコリンが居なかったら絶対に私死んでた」
ガタガタと震えながら座り込む彼女は見たことが無い程に弱弱しかった。
「いいえ、それよりも!」
コリンという少年がビアに告げると次には突風と共に急に吹雪始めた。
「「「殿下‼ご無事ですか‼殿下‼」」」
「あっ……っ‼」
従者や護衛の声に答えようとすると、ビアに口を抑えられる。
「ハワード殿下、お願いです絶対に訳を話しますから今だけは何も言わずに私についてきてください」
そっと覆いかぶさりながら囁く彼女は僕だけを真摯に見つめていた。
いつも僕を見ているようで他のことを考えている薄紫の瞳が僕だけを見つめている。
不思議な胸の高鳴りを覚えつつ頷くと、彼女はゆっくり手を離し外に出るように指示してきた。
自分の手元さえ見るのが難しい吹雪の中、コリンに手を引かれて吹雪を抜ければそこには数人の子供とディーンが居た。
「殿下、申し訳ございませんが泥水被せるっすよ‼目と口閉じといてください!」
「え」
驚きながらも急いで目を瞑り、息を止めれば頭から本当に泥水を被せられそしてなぜか服を脱がされ、貧民街の子供の服を着せられた。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>
既にしていただいた方、ありがとうございます‼
次回10時に投稿します!




