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「魔王様‼なんてお礼を言っていいか‼」
「あぁ魔王様‼」
「本物だ!本当に居たんだ‼」
ハワード殿下とのデート当日、デートとは言ってもただ単に遊びに行こうというお誘いくらいに思っていた私はこの状況に頭がついていかなかった。
「「「魔王様!」」」
視界には数十人の子供や女性が私を崇め奉り、そして古い大聖堂の様な室内には女神像がありなぜか黒いマントを着せられていた。
「えっと……これは、どういう状況ですか?」
私が聞くとハワード殿下、現在偽名のノワールはにっこりと笑顔を作った。
「ビアが自分のやっていることに気がついて無さそうだったからね、良い機会だから見せてあげようと思って」
魔王信仰が最近貧民街の子供達で行われているのは知っていたが、まさかここまできていたとは思わなかった。
私が崇め奉られているここは、貧民街の最奥にあるさびれた古城。
ハワード殿下と合流し、初めは普通にデートっぽい雰囲気で食べ歩きなどをしていたのだが……。
「服もブレスレットも似合ってる、まさか髪飾りまでつけてくれるなんて思わなかったから嬉しいよ」
そう言って黒髪黒目、浅黒い肌に変装したハワード殿下は私の手を握ってきた。
ただそれに対して私は顔色を変えずに対応したのが良くなかった。
「ノワールさん、今日はディーンとトーマスの件のお礼なので私が貴方をもてなす側です。
気をつかわなくていいですよ食べたらどこか行きたいところはありますか?」
ハワードは私の言葉に目をパチクリさせていた。
「……ハハッ僕のこと、まるで恋愛対象に見てないね、人のこと言えないけど本当に13歳?」
うっ‼
確かに、多少偶にときめくことはあっても所詮小学生とか中坊とか思ってしまっている。
「13歳ですよ、殿……ノワールさんもそうですよね?」
そつなく答えればハワードはまたクスクス笑った。
ここから追及が始まるかとおもいきや、話題は意外にもデートプランの話になった。
「実はビアが嫌じゃなければ貧民街の奥にある、使われていない古城に行きたいんだ」
「古城?いいですけど何があるんですか?」
ハワードはニヤリと悪戯っぽく笑った。
「ま、行ってみてからのお楽しみかな!それにしてもこのアップルパイ美味しいね」
「そうですね」
ハワード殿下について行き、貧民街の最奥にある古城につけばそこはバラで囲まれ子供達が守る場所となっていた。
そしてハワード殿下に着ていたマントのフードをはぎ取られれば、初めは敵意を持っていた子供達が急に態度を変え、私を中に入れて歓迎し始めた。
「……っていうか、何で顔を知られているの?」
「フフッ当たり前だよ、彼らの方が身長が小さい、いくら深めのフードを被っても下から覗かれれば顔は丸見えだ。特に貧民街の子供は夜目がきくしね」
わらわらと群がられ、感謝されるのは私だって嬉しい。
でもここまで規模が大きくなってしまうと、ゲームのシナリオに触れなければいいんだけど……。
一抹の不安がありつつ辺りを見回せば見知った顔を見つけて私は目を剥いた。
壁際で体育座りをしていたのは3ヶ月後にハワード殿下が助けるはずの7,8歳くらいの少年。
ドクドクと脈が強く動く音がした。
「ね、ねぇ?あの、貴方名前は?私は……ビアっていうんだけど」
「…………」
栗色の髪に栗色の瞳をした少年は私が話しかけると、視線を外して俯いてしまった。
「そいつ全然喋んないよ!」
「そーそ!ここに来たのも多分魔王様が好きなんじゃなくて行くところが無いからだし‼」
少年の姿を見ると、貧民街の子供にしては小綺麗な恰好をしていた。
ゲーム内では少し栄養失調なほどに痩せ細っていたが、今は健康そのものに見える。
ただ視線だけはどうにも周りを威嚇しているし、眠れていないのかひどい隈が出来ている。
「貴族の私生児が捨てられたんじゃないかな?」
ハワード殿下が言った瞬間、少年はビクッと肩を震わせて顔を隠した。
なるほど、貴族の私生児だからか。
実際に貧民街の子供達に接することが多くなり、私は一つ自分が勘違いをしていたことに気がついた。
それは貧民街の子供達の危機管理能力について。
この地域の子供達は小さい頃から仕事をするが、意外にも危険な仕事に手を出すことは少ない。
本当に追い詰められたときにのみ、危険な仕事をそれと分かって引き受けている節がある。
もちろんそうじゃないときもあるけれど……。
彼らは確かに守るべき対象ではあるけれど、何も出来ない分別のないよちよち歩きの赤ちゃんではない。
彼らは彼らでここで生きる術を学んで、しっかりと文字通り自力で生きているのだ。
でも貴族の私生児は違う。
途中まで蝶よ花よと甘やかされて育てられたのなら、命をかけた危ない仕事でもそれに気がつかずに大人の甘言にのって受けてしまうかもしれない。
だからこそ、一歩間違えれば死んでいたハワード殿下の暗殺にも加担してしまったのかもしれない。
「ビア?その子がどうかしたのかい?」
「……いえ、何でもありません」
この子をあまりハワード殿下に印象付けたくない。
キャメルがアレックスルートに乗ったためハワード殿下に全て話そうとも思ったがやめた。
ハワード殿下の性格として考えられる行動は以下の三つに分けられるから。
A私の話を少しだけ信じた場合、検証が必要ということになりあえてシナリオ外の行動をする
B私の話を全く信じなかった場合、何かしらの病気を疑われ強制的にアレックス殿下の婚約者を辞めさせられる可能性が出てくる
C私の話を完全に信じた場合、自身が確実に安全になるためにシナリオを大幅変更する可能性が出てくる
どれをとってもハワード殿下は何かしらのシナリオ外の行動をする可能性があるから、ちょっと信用出来ない。
私は笑顔でやり過ごし、この日からよく古城に出入りするようになりハワード暗殺の日を迎えた。
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