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「大丈夫かい?俺の婚約者が申し訳ないことをした」
アレックス殿下が手を差し伸べると、キャメルは顔を赤くしながらそっとその手を取った。
「い、いえ、あの助けていただきありがとうございます」
必死で立とうとするも、恐怖から足が震えてしまいふらつくキャメルをアレックスが抱きとめる。
そしてそのまま震える彼女を強く抱きしめた。
「こんなに可憐な人を虐めるなんて……あの女は人の心なんて無いんだろうな」
「そ、そんなことありません……あの、貴方のお名前は」
キャメルが聞くとアレックスは少し抱きしめる力を緩めて彼女の顔を見た。
「あぁすまない、俺はアレックス・ウェントワース。この王国の第二王子だ」
「お、王子様‼あの、私大変失礼なことを‼」
抱きしめられていた状態から抜け出し、キャメルは顔を真っ赤にして歪な淑女の礼を取った。
若干寂しそうなアレックス。
キャーーー‼
ゲームそのまんま‼
「茶番だな」
私が内心ゲームと同じ光景に大興奮していると、後ろのハワード殿下は淡々と告げた。
声までは聞こえないが、仕草や表情を見てだいたいのやり取りは察しているのだろう。
ちなみにそのハワード殿下はというと、なぜか私の髪を一度解いて丹念に編み込んでいる。
「あの……殿下?お仕置きっていうのは」
「うん?これのことだよ。それともオリビア嬢はもっと激しいのが好みかな?」
「いいえ‼‼」
強く否定すると彼は軽く笑ってまた編み込みを始めた。
「……殿下、この状態で言うのもなんですがディーンとトーマスの件、ありがとうございます。すごく助かっています」
「ハハッやっと言ったね。どういたしまして……髪飾りをつけなかったのはなぜかな?気に入らなかった?」
「いえ、すごく可愛かったですけど……ちょっと理由は言えないです」
下手に嘘を吐けばこのチートキャラにはバレてしまう。
そのため私は小細工無しでそのままを伝えた。
「ふぅん?秘密主義な君らしいね。たかが髪飾り一つに何をこだわるのか僕には理解出来ないけど?」
私にも殿下がこだわる理由が理解できないです、とは流石に言えずあいまいに笑ってごまかした。
人に髪を触られるのは公爵令嬢になって当たり前の事になったのだが、いつもと手つきが違うからかなんかこそばゆい。
いつまで続くんだろう?
キャメル達を見ていると彼女達も木の下で談笑していた。
アレックス殿下は私と居るときと違い、王子然とした雰囲気を醸し出しながらも楽しそうだ。
もう完全にハワードルートにはならないだろう。
「オリビア嬢、ディーンとトーマスが良い働きをしているならお礼が欲しいな」
髪をいじるのが終わったらしく、ハワード殿下は後ろから覗き込んできた。
髪は触ってみると編み込みを頭に沿わせるようにまとめて、何か植物を巻き付けているらしい。
鏡が無いから見えないが、悪く無い出来のように思える。
「はい、何がいいですか?……とは言っても何でも手に入る殿下に満足していただける様な物、私は持っていないですけど」
「ハハッ僕にもすぐには手に入らないものもたくさんあるよ」
「すぐには、というところが殿下らしいですね」
クスッと笑えば殿下も満足そうに微笑む。
「まずは二人きりのときはその殿下というのをやめにしようか?……呼び捨てで良いし敬語もいらない。それと……」
すりっとハワード殿下は私の頬に手を添えてきた。
その仕草が様になっていて思わずドキドキしてきてしまった。
「オリビア嬢のことも今日からはビアと呼びたい。いいかな?」
「い、いきなり愛称ですか……いいですけど」
別に拒む理由も無いため、了承した。
キャメルがハワードルートに乗っていれば、彼の心理描写などもあるため徹底的に対応に気をつけなければならないが、彼女はもうアレックスの方と出会ってしまっている。
ゲームのシナリオに関わるのはハワードの暗殺事件のみ。
なら逆に暗殺事件に関わること以外は気が楽だった。
「それともう一つ、来週の予定は開けておいてくれ。ビア、僕と一緒に平民デートをしよう?」
「へ、平民デート??」
「ディーンに変装道具一式を持って行かせるからそれで変装して欲しい。偶にはお互い全てを忘れて子供らしく遊ぶのも良いと思うけど?」
子供らしくという言葉が一番ハワード殿下には似合わないが、確かに前世の記憶を取り戻してからずっと張りつめる毎日だった。
偶には羽を伸ばしたい。
けど……。
私はじっと目の前のハワード殿下を見据えた。
あと三か月で彼は暗殺される。
どうにか表向きゲーム通りに彼を生かす方法を考えなければならない。
動くとなれば私しかいないため強くなるしか無いと頑張ったが、具体的な案はまだ出てきていない。
私には時間が無い。
「あの、私は……」
「ビア、じゃあ聞き方を変えようか?僕はディーンとトーマスを送っている報酬として君とのデートを望んでいるんだ。それとも今二人を取り上げてもいいのかな?」
「ふふっ殿下はいじわるで優しいですね」
多分私が本当は行きたいけど、行けない理由があることを察して逃げ道を潰してくれた。
そっと手を添えればハワード殿下はそのまま私の手を取りキスして来た。
「偽物我儘令嬢には言われたくないよ。それと僕のことはハワードと………………」
話している途中で、ハワード殿下が口を噤み視線を下の方に向けた。
何事かと思って見れば遠くの方からアレックス殿下が歩いて行っていた。
キャメルはもう立ち去っており、アレックス殿下は私達に気がついている様子も無い。
「そろそろ戻ろう、アレックスが行ったらビアを降ろす。僕は少し時間を空けてから行くから」
「はい」
なんだか逢引きしていたみたいなやりとりに違和感を覚えつつも、アレックス殿下が離れたことを確認して私は降ろされた。
茶会の会場に戻ると、なぜだか不自然に場がざわついた。
誰も彼もが私を見ている。いや、私の髪を見ていると言った方が正しい。
「お、お前その髪‼」
アレックス殿下までもが口をあんぐりと開けて私の髪を指さしている。
そういえばお仕置きと称してハワード殿下に髪型を変えられていた。
触った感じ変では無いと思っていたが傍から見ると変だったらしい。
「あら‼気分を変えたくて変えてみただけです‼何です⁉皆して公爵令嬢である私を不躾に見て‼」
悪役令嬢らしく金切り声を上げながら叫ぶが全員口を開けたまま、私の後ろを見た。
てっきり別の方向から戻ると思っていたのにハワードは私の真後ろから会場に戻ってきた。
「あ、兄上アレはなんです⁉」
「アレ?」
ハワードはアレックス殿下に指さされるままに私の髪を見て、しまった‼と何かがバレた様な顔をしていた。大変わざとらしい。
「あの……手鏡などは」
「ど、どうぞ」
王宮の使用人が私にビクビクしながら手鏡を渡してくれ、自分で髪型を確認して私は目を剥いた。
私の髪は綺麗に編み込まれて後頭部に沿ってまとめられている。
とても美しい出来上がりで頭の周りには水色のバラが咲き乱れていた。
そう、ハワードの髪色と全く同じ水色のバラである。
似た様なタイミングでお茶会会場から消え、ハワードと同じ様なタイミングで同じ場所から現れ、しかも髪はハワードの髪色と同じ水色の生花が咲き乱れている。
こんなに綺麗にトゲの無い水色のバラを髪に巻き付けるなど、ハワードの魔法しかありえない。
私は思い切りハワードを睨みつけると、彼はしてやったり顔をして笑った。
「私‼体調が優れないのでここで失礼致します‼‼アレックス殿下、送ってくださいませ!!」
「あ、あぁ」
アレックス殿下は何が何だか分からないという雰囲気を出しながらも、心ここにあらずの状態で私をエスコートしてくれた。
あぁ、お仕置きってこういうことだったのね……。
ハワード殿下にはもうなるべく逆らわないと、私は心に誓った。
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