13
書けたので出しちゃいました(;^ω^)
クリフと別れて3年後。
オリビア13歳、冬。
王都の負の部分と言える貧民街で、子供たちは奴隷商人に捕まり、売られるまでの刻一刻を暗く汚い湿った地下牢で過ごしていた。
ある者は泣き、ある者は喪失感で中空を見据えている。
誰もが絶望しているなか、10歳ほどの一人の少年が立ち上がった。
「大丈夫!魔王様が僕たちを助けてくれるから‼」
「魔王様??」
少年は泣きじゃくっていた女の子の横に座り、自信満々に言う。
「魔王は子供と歌が大好きなんだ。だから皆で歌って魔王様に気がついてもらえば絶対助けてくれる!だから、ね?歌おう‼」
そんな都合の良い事ある訳ない。
少年よりも少しでも大人に近い子供達はそう思ったが、年少者は違った。
泣いていた女の子を始め、一人、また一人と歌いだす。
その様子を見て、初めは信じていなかった者も藁にも縋る思いで歌いだす。
「うるっせぇぞ‼てめぇら‼‼」
見張りの男にガンッと強く鉄格子を叩かれ子供達は一瞬怯んだが歌うのを止めない。
今、止めれば自分達の行く末は一つ。
ぼろ雑巾の様に使われて死ぬだけ。
「ガキが‼魔王や魔物何つーのは大昔に滅んだんだ‼テメェらを助けるなんざぁ~~あぁぁぁあ??」
体格の良い男が叫んでいると突然呂律が回らなくなり、次の瞬間ドサッと倒れ込んだ。
一拍置いて廊下の陰からはすっぽりと黒いマントを被った、まだ大人の二歩手前といったところの女が出てきた。
手には吹き矢の筒を持っている。
その後ろからは60代ほど屈強な男がついてきていた。
「間に合ったみたいね」
シンと静まり返った地下牢の中に凛とした美しい声が響いた。
「魔王様遅いっすよ~?俺、マジで売られるかと若干ビビリましたよ」
さっきまで子供らしく他の子供を慰めていた少年は、親し気に少女に話しかけ鍵を催促していた。
「……その魔王っていうの、やめない?」
「ん~、んじゃ、本名で呼びましょうか?オリ」
「わぁぁああ!待って‼良い‼魔王大賛成!ほら、鍵も開いたから子供達もおいで!」
そう、黒いマントを被り、男に向かって吹き矢を使って昏倒させたのはほかでもない私、オリビアである。
3年前、クリフと別れた次の日に偽御者でありハワード殿下の配下であるディーンは公爵邸にやってきた。
「ども!ディーンっす!よろしくお願いしまっす‼」
「……どうも」
「今日からお前の従者になるディーンだ。彼は使用人とはいえお前よりも価値のある人間だ、誠心誠意対応しろ」
それだけ言うとお兄様は応接間から出て行ってしまい、ディーンと私の二人になった。
「第一の顔はオリビア様の従者‼第二の顔はアレックス殿下の婚約者の尻ぬぐい‼確してその正体は……オリビア様の監視‼まぁ、殿下からは四つ目の役割も言われてるんすけどね!これからよろしくお願いしまっす‼」
パッと快活に告げるとディーンは勢いよく頭を下げた。
なるほど、お兄様はハワード殿下と繋がっていることは知っているから私よりも価値があると言ったらしい。
「こちらこそお願いします、それでディーン。五つ目の役割を作って申し訳ないのだけど貴方って強い?」
「は?まぁそこそこっすけど……」
うんと一回頷き私は彼に負けず劣らずしっかりと頭を下げた。
「お願いします‼私に戦う術を教えてください‼報酬は弾みます!」
「は、え?ちょ……オリビア様??いや普通に無理っすよ?」
ディーンの当惑は想定の範囲内なので私はそのまま頭を下げ続けた。
ハワード殿下に会ってから私はずっと考えていた。
彼を助けるべきか否か。
ハワード・ウェントワース第一王子は、知力、容姿、魔法、全てにおいてチートを誇る最強の攻略者とも言える。
そんな彼の最大の弱点は寒さだった。
ハワード13歳の冬、貧民街に視察に行った際に子供を馬車から助けようとして暗殺される。
彼の魔法は植物の支配。
ハワードが望めばその湯水のごとく湧く魔力が全てを叶える。
人間を締め落としたいと願えば、どんな小さな植物でも人の何十倍にも膨れ上がり、彼の望みを叶える。
新種の花が欲しいと思えば一つの株から数百種類の花を咲かせることも出来る。
だが所詮は植物のため、痩せた土地、降り積もる雪で植物の成長が阻害され、そんな中無理をして魔法を使えば隙が出来るのは必然だった。
暴走した馬車が子供をひき殺そうとしたとき、咄嗟にハワードは子供を庇い植物魔法で自分と子供を覆った。
しかしそのせいで視界を塞いでしまい、馬車の直線状の奥から炎の槍が投げられ、それに貫かれて自身で作った植物にも引火して彼は死亡した。
ゲームでは主人公キャメルがちょこちょこハワードの周りをうろつき、視察に行くのを阻止しようとするが失敗。
そして炎の槍がハワードを貫いた瞬間、時を戻して彼を助け、そのまま一緒に時を過ごし、最後には一周目と同じように悪役令嬢オリビアを断罪してハッピーエンドという流れだった。
このまま何もなく、キャメルが登場しなければハワード殿下は3年後に死ぬ。
もし私がハワード殿下を助けようとすれば、また強烈なしっぺ返しがあるかもしれない。
それでも思ってしまったのだ。
ハワード殿下を見殺しにしたその後を。
きっと私は自分を許せないし、ハワード殿下のおかげでベラと仲直り出来たのに、助けられた可能性があったのにしないのはなんか違う。
正義とかなんかこうすごい話ではなくて、私は私のためにハワード殿下を助けたい。
私がずっと頭を下げていると、頭上から深く長いため息が聞こえた。
「どんだけ長い間頭を下げても無駄っすよ、情にほだされるようじゃあの人の側近なんてやってられないんで」
私はバッと顔を上げてディーンを見つめた。
彼の顔には確かに、協力したいけど~、とか可哀そうだけど~とかそういったことは微塵も浮かんでいない。
「……ディーンが私の監視をするのは私のやっていることをハワード殿下に報告するためでしょう?」
「ま、概ねそうっすね」
概ねという言葉が若干気にかかるが、私は頷いて続けた。
「ならこれはチャンスじゃないの?私に協力すれば私は自分のやりたいことを最短距離で出来る。そうすればハワード殿下に伝えられる情報も多くなるはずよ。
それを独断でやらないって決めつけるのは職務怠慢じゃない?」
「「…………」」
じっと無言が続き、折れてくれたのはディーンの方だった。
さっきよりも深く深く溜め息を吐き、一度持ち帰ってハワードに確認することを約束してくれた。
「何つーか、殿下もそうっすけど本当に10歳っすか?っつーか、二人ともなんか似てるっすね、理詰めでくるとことか」
「ありがとう、誉め言葉として受け取っておくわ!」
悪役令嬢らしくフフンと鼻を鳴らしながら礼を言った。
そして、後日ディーン伝いでハワード殿下からの連絡があり、ディーンを戦闘の指南者として雇う許可をもらった。
ついでに危ないことをしそうだから、という理由で二人目の従者トーマスも付けられた。
ディーンからは主に身の隠し方や気配の消し方、そして吹き矢などを習い、トーマスからは射撃と敵に近づかれた時の体さばき、馬の乗り方を習った。
そして二年程夜遊びと称して隠れて特訓し、去年からは実戦が組み込まれ今に至る。
野生の動物や悪党と思える者を片っ端から倒していき、最近では奴隷商人を中心に狩っていた。
ちなみにクリフはあれだけ意気込んでいたのに、結局手紙は来ず、心配になってディーンに見に行ってもらえば第三騎士団で難なく楽しく過ごしているらしい。
「んで、トーマスさん今日は何点っすか?」
子供達を解放した後、ディーンは魔法を解き大人に戻っていた。
トーマスは蓄えた灰色のヒゲを伸ばしつつ思案すると私に向かってニヤリと微笑む。
「35点!いやはや強者となる道は遠いですなオリビア様」
「うっ……」
「っすよねー!な~んか遅いなぁ~と思ってたんで納得っす‼」
「……返す言葉も無いのだけど……ちなみに足音と気配の殺し方、あと一度見つかってしまった以外は何があるの?」
「おぉ!そこまでお気づきとは成長しましたな‼では40点に格上げしましょうぞ、あとはまぁ型にはまりすぎている点と言いましょうか?
せっかくまだ幼いのだから、見つかったら潔く姿を現して隙をつければもうちょっと加点しましたぞ!」
「なるほど……勉強になります」
ペコリと二人に頭を下げれば、トーマスは孫に接するように笑いながら頭をガシガシ撫でまわしてきた。
「いやなに、殿下から令嬢教育を仰せつかったときはこの老兵に辞めろと暗に言われているのかと思っていましたが、なかなか楽しいですな!」
ディーンもそれに頷いていた。
「そうそう!オリビア様がやろうとしていることはまだ分かんねぇっすけど、結構楽しいっすね!あ、そだオリビア様これ殿下からっす」
ディーンから渡された小さな箱に入っていたのは、水色のバラを模した小さな髪飾りだった。
「次のお茶会に着けてくるように、とのことっすね。オリビア様に会えるの三年ぶりなんで殿下楽しみにしてましたよ~?」
ニヤニヤと肘でディーンに突かれながらも私は渋い顔で髪飾りを見つめた。
次のお茶会はシナリオに関わる重要イベント、私はハワード殿下とはほぼ会うつもりも無いし、装飾品ももう決めているのだが……。
「あ!ちなみに殿下から伝言っす‼『これだけ良くしているのだから君に拒否権は無いよ』ですって!」
「う~ん」
前途多難な気がしてならない。
私は不安な気持ちいっぱいに、ハワードルート最初のイベントであるお茶会を迎えた。
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次回8時に投稿します




