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「クリフが第三騎士団に⁉」


ベラに紅茶を入れてもらいクッキーをつまみながら私は目を丸くしていた。

昨日はベラと和解し、すっかり彼女は私を怖がらなくなったらしい。


「そうなんです!今しがた騎士団から連絡がありまして、クリフ君を引き取りたいというお話です。何でも第三騎士団長の養子にしたいそうですよ」


「…………そう、第三騎士団に……」


どういうことだろう?

クリフは本来ゴロツキを全て一人で倒した功績から第一騎士団長の養子になるはずだった。

しかし私のせいでゴロツキはほとんど傭兵が倒したためそういう話は一切なかったのに……。

しかも事件から一ヵ月も経ってから?


第一騎士団が王族周辺を警護する近衛の様な役割をするのに対し、第三騎士団は国境付近の警備を行う。

だがこれでクリフが騎士になることは決まったようなものだし、逆に良かったのかもしれない。


「いいんですか?このままで」

「え?」


「クリフ君のことです。第三騎士団に引き取られてしまえばこのまま会うことは難しくなってしまいますよ。いいんですか?演技をしたままで」


「…………いいわよ」


私が答えるとベラは納得いかない顔をしていたが、それ以上言わなかった。

私だって考えたのだ。


ベラの様にクリフにも私の事情を説明するか否か。

けど、考えた結果止めた。

事情を説明すればクリフとは友達に戻れるかもしれないけれど、それはゲームの流れとは違う。

第一、攻略対象者には心情を描くシーンがあるから強制力を欺くことは不可能だ。


もしまた私のせいでクリフが傷つく様なことがあれば耐えられない。


ただそれでいくとハワード殿下のことは……。

うん、ひとまず考えないようにしよう。


そうこうしているとノックが聞こえた。


「おい、入るぞ」


こちらの許可も無く勝手に開けようとするニコラスお兄様に焦りながらも私は持っていたティーカップを床に叩きつけた。


「ちょっとベラ‼この紅茶全然甘くないじゃない‼‼淹れなおしてきて‼‼」

「は、はい!ただいま」


金切り声を上げる私に対し、ベラは震えあがった演技をした。

一瞬本当に怯えているのかと焦ったが、私が割ったカップを持ちお兄様の後ろに周った瞬間ニヤっと笑っていたため安心した。


『これですねオリビア様!心得ています!』


と、顔が言っていた。

恐がっていないのは嬉しいけど、ちょっと楽しんでない?


お兄様はそんな私達の様子には気づかずに冷酷な瞳で睨んでくる。


「使用人をぞんざいに扱うのもいい加減にしろ。………ハァ、クリフ君が今日の夜経つことになった、命を助けてもらったんだから最後に礼くらい言ってきたらどうだ」


クリフが今日の夜に?

随分早い、クリフは全治二ヵ月と言われていたはずだ。

まだ一ヵ月しか経っていない。


「…………あら!あの平民もう動けるんですね、フフ!やっぱり平民だから生命力も虫並みなのかしら!」


「お前……‼‼……っ!いや、もう勝手にしろ!」


かなり怒られることを身構えたが、お兄様は怒りを飲み下し、そのまま去って行った。

オリビアの兄であるニコラスは冷静で自分を律することに長けたキャラ。


ただ15歳の少年が必要に迫られて公爵の業務をする負担は大きく、どこまで自分を抑え込み、どこで感情を出せば良いのか分からなくなってしまっているのだ。


もう完全に前世と今世の私は同化し、お兄様への愛情や関心を引きたいという欲求もあるがこればかりは仕方が無い。





夜、羽毛布団に包まれながら寝ているとノックの様な音がした。


「誰?ベラ?」


眠い目をこすりながらもぞもぞ起き上がり、聞いて見るが相手は答えない。

そしてまたノックが聞こえる。

完全に起きた頭で聞いて見ると、ノックは扉からではなく窓の方から聞こえていた。

見ればそこには小さな拳と赤い髪がチラチラと見えていた。


「へ……ちょ⁉クリフ⁉」

「へへ!オリビアやっと起きたな」


急いで窓に駆け寄り開けて除くと、案の定クリフが壁の突起に足をかけ掴まっていた。

クリフは私を見ると笑顔になっているがそれどころではない。

大人では絶対に足を滑らせる程に狭い突起に足をかけてギリギリの所で彼はバランスを保ちながら立っていた。


私の部屋は3階。

落ちれば普通に怪我では済まない。


「何しているの‼早く入って‼‼」


窓は外開きのため、クリフに気をつけながら開け放ち私は彼を中に引き入れた。

クリフが無事に室内に入り座った今でも、まだ心臓がうるさく鳴っている。

クリフは傷口が痛いのか脇腹を抑え込んでいた。


「何していたの‼危ないじゃない‼」

「痛てて……オリビアにこれ返したくて」

「?」


手を差し出すと、私の両の手の平には小さな笛が落とされた。

これは……。


「私があげた笛?なんで?」


確かにもう必要ないけど……。


じっとクリフを見つめると彼は手をついて下から覗き込む様に顔を近づけてきた。

少年らしい大きく可愛い赤い瞳が私を捕らえて離さない。


「オリビアさぁ、やっぱり平民がどうとか思ってないだろ?」

「‼‼なっ!……そんなこと……」


「俺がこの半年見てきたオリビアは、泥だらけのガキに抱っこせがまれても笑顔でやってのけて、泣いているガキが居ればそいつが鼻水垂らしていても気にせず話を聞く、そんなヤツだよ…………今だって俺が呼び捨てにしてんのに怒んないし」


「っ‼…………い、いいから早く出て行きなさい‼これを持って‼」


私が無理にクリフの手に笛を押しつけ、腕を持って立たせようとするが彼は全く立とうとしない。

悪役令嬢をしなければならないとはいえ、クリフのさっきの痛そうな顔を見る限りやっぱりまだ怪我は治っていないのだ。

無理に立たせることは出来ない。


「『何か危険なことがあったら自分だけで解決しようとしないで、それを吹いて助けを求めるの』」

「???何?」


クリフの脈絡の無い言葉に聞き返すと、彼は私が乱暴に握らせた笛を見つめていた。


「これくれた時にオリビアが言ってた言葉……オリビア、俺騎士になるよ」

「第三騎士団長もそのつもりで養子に迎えるのだからそうでしょうね。ほら、いいから出て行って‼」


ぐっとクリフを立たせる腕に力を込めれば彼はゆっくりと立ち上がった。


「この一ヵ月、俺が殺したアランの事、オリビアのこと、孤児院のこと、ずっと考えてた」

「…………」


「考えて考えて考えて、結局俺が何も出来ないガキだからこうなったんじゃないかなって思った。オリビアは孤児院の事とかアランの事、全部知ってたんだろ?……自分一人で解決しようとしてんのオリビアじゃんか」


活発な彼には珍しく、しおらしく目には涙が貯まってきている。


「俺がなんも知らない間にずっと俺達のこと守って、ドレスとか宝石とか売ってさ、オリビアすげぇ優しいじゃん……何でそこまでしてくれんの?」


「それは……その……」


悪役令嬢らしい言い訳が思い浮かばない。

私が言葉に詰まっていると、クリフは諦めたように笑った。


「そんな優しいヤツが何で皆に嫌われようとしてんのか俺分かんねぇよ……でも、オリビアが俺に助けを求めないのは……なんか分かる。俺ってすげぇ弱い。


俺に力があったらオリビアは孤児院のこと俺に相談してくれた?

俺に力があったらアランは死なずに済んだ?

俺に力があったら今のオリビアのこと助けることが出来る?


今日さ、本当はこの笛返して、もう俺には必要ないからオリビア持っててよって言うつもりだったんだ……でもやっぱ止めた」


おもむろにクリフは私を抱きしめた。

強く抱きしめてくるわりに彼は震えていた。

鼻をすする音がするからきっと泣いているんだろう。


「俺、絶対に……絶対に強くなるから‼騎士になってオリビアを守れるくらいに強くなるから‼‼だから!……その時にこの笛もっかい返す」


「だ、駄目……」


本来なら、こんな一大決心の様な覚悟、喜ぶべきであって邪魔するべきではない。

でも、今の私はそれどころではなかった。


クリフは悪役令嬢のために強くなるわけではない。

ただ単に引き取られた先が騎士団だったから、里親の期待に応えるためだけに強くなったはずだ。

これではシナリオが変わってしまう‼


「駄目‼クリフ返して‼‼今すぐに‼」

「へへっ!や~だね!」


私が彼を引きはがし無理に笛を奪おうとすると、ひらりと身を翻されて躱された。

クリフはさっきまでの陰鬱な表情はもうなく、泣いていた痕があるが元の悪ガキに戻ったような屈託のない笑顔を見せていた。


「じゃあなオリビア、偶に手紙送る‼あっ!返事が無かったらすぐに駆け付けるから返事はちゃんと返せよ‼」


クリフはそれだけ言うと、さっきまで脇腹を痛がっていたのが嘘のように軽やかな足取りと手つきで扉の鍵を開け出て行ってしまった。


「クリフ‼‼」


金切り声をあげ、慌てて追いかけるとそこにはお兄様が立っていた。


「何の騒ぎだ?」

「お兄様‼クリフが‼そこの平民が私の笛を持っているんです‼今すぐに取り返さないと‼」

「ち、違います‼これは以前オリビアにもらった物で‼」


私とクリフの言葉にお兄様は深く溜め息を吐いた。


「クリフ君は命の恩人なんだ、笛くらい安いものだろう。全く、欲深いと思っていたがここまでとは……」


お兄様は言うや否や、私を部屋に押し込み扉の鍵をかけた。

私は普段から素行が悪いため内側からかけられる鍵と外側からかけられる鍵、両方ついている。


「ちょ‼お兄様‼‼」

「しばらくそこで反省していろ、クリフ君の見送りもお前はしなくていい」

「お兄様‼話を聞いてください‼違うんです、いつもの我儘ではなくて本当に‼」


私が戸を叩いて叫ぶ中、遠ざかっていく兄の足音を聞きながら私は絶望していた。


「……オリビア、必ず戻ってくるから‼」


扉越しに力強いクリフの声を聞き、私はただただ祈りを捧げ続けた。


神様どうか、クリフを傷つけないでくださいと。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


ここでクリフ救出の話は一旦終了です。

次回はちょっと時間が進んでスタートします。

おそらく2,3ヶ月後くらいになるかと思います。

よろしくお願い致します!


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