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Ⅶ 不安

 4月の14日。

 いよいよ屈辱の日が翌日に迫ったこの日、カルトがいつも通り眠りにつこうとしていると、扉をたたく音が聞こえた。この家にはカルト一人、訪れる人もいない。不審に思いながらもカルトは扉越しに話しかけた。


「どちらさまで?」 

「夜分遅くに申し訳ありません。少々お願いがありまして……」  


 返ってきたのは意外にも若い女の声だった。


(女か……)


 女性なら手荒なことはしないだろう、とカルトは扉を開けた。

 そこにいた女はまさに絶世というほど美しかった。


(なぜこんな女が俺の家へ……?)


「……こんなところではなんですから、どうぞ」

「そうですか? ――では失礼します」

「それで、お願いとは?」


 カルトは面倒くさそうに聞いた。


「あぁ、そうでした、今日この国に来たのですが、途中で盗賊に襲われまして……宿に泊まるお金も盗られてしまったんです。なので、もしよろしければ今日このお家に泊めていただけないかと……」

「……そうですか、大変でしたね。――良いですよ、こんな家でよければ」

「本当ですか? ……ありがとうございます! 助かります!」

「いえ、夕飯はもう食べましたか? まだなら用意しますけど……?」


 今の今まで笑顔だった女の顔が怪しい笑みに変わったのはカルトがそう言ったときだった。


「そうですか? では……お言葉に甘えて、“あなた”をいただきます」


 女はカルトに襲い掛かってきたのだ。しかし、この日はラミアのメールにあった屈辱の日の前日。

 そんな日にカルトが警戒をしていないはずがなかった。


「お前何者だ。モストロか?」


 襲ってきた女を素早く躱し、冷静に聞くカルトに女は目を見開いた。


「アナタこそ、何者です……」

「人に聞く前に自分から名乗ったらどうだ?」

「――申し遅れました、私、ミラといいます。アナタの言うとおり、モストロです」

「――俺を喰う気か」

「はい! あなた、自分の出している匂いに気付いてないんですか? すっごく美味しそうな匂いなのに……」

「そんな匂い、気付きたくもない。俺はいたって普通の人種なんでね」

「そうですか、でもそのうち食べたくなってきますよ。私、そのために来たんです。“彼”とともに」

「そうか。――なあ、1つ聞いて良いか?」

「なんです?」

「――今まで何人喰った。この国で」


 カルトの顔が妖しく歪んだ笑みに染まり、ミラは顔を引きつらせていた。


「……こ、ここが初めてですよ」

「――そうか。もう一人は今、どこにいる」

「い、今は多分、反対側の国に……」

「反対側……シャルクか。」

「は、はい。そこで私と同じように家に入り人を襲っているはずです」

「――そいつの名は?」


 答えようとしないミラにカルトは“チッ”と舌打ちをしてから再度聞いた。


「そいつの名は」

「……ラロ、です」

「そうか。わかった。ならお前に用はない……」


 カルトは冷たく言い放ち、ミラをナイフで突き刺した。


「うっ!   いや……!」

「うるさい」


 モストロの急所は胃。

 モストロは致命的と思われる傷、不治の病などで瀕死の状態になったとしても、胃を傷つけられない限りはすぐに回復をする。

 そんな胃をカルトはナイフで一突きし、ミラを葬った。そして胃の一部を切り取り、紙飛行機に括り付け飛ばした。


(シャルク、か。気をつけろよ、クレイ)

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