Ⅳ 協力者
カルトにとっては数日振りの居城も、クレイにとっては初めての居城。キョロキョロしないわけはなく……。
「すみません、お連れの方。あまり見渡されるのはご遠慮いただけませんか」
ついに門番に注意されてしまった。
(だから静かにしろって言っといたのに……)
「わ……」
「すみません、だろ」
「すみません……」
カルトの言葉にクレイは素直に謝った。
「さあ、こちらです」
国王は先日、カルトが案内された部屋で先日と同じ格好で待っていた。
「やあ、何日振りでしょうね。少し見ないうちにお仲間が増えたようで……。お仲間ではなく、用心棒とでも言いましょうか?」
国王は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「ええ、今回の依頼は私1人では荷が重いですからね。少し、肉体派の彼に来ていただきました」
そんな国王に負けず劣らず、カルトも返した。
「――それで、私に何か用ですか?」
「もう一度、依頼内容を確認しに伺いました」
「確認……?」
「いえ、確認と言うと少し語弊がありますかね。依頼内容の詳細を伺いに来ました」
国王はばつが悪そうな表情でカルトから目をそらした。
「詳細、と言われましても……」
「わからないから私に依頼した、と?」
「そうですとも! ですから」
「冗談はやめてください国王様。あなたは知っているはずです、いや知っていなければおかしいのです。国王なのですから……」
「国王と言えども私は知りません!」
国王の言動にカルトは疑問を抱いた。
「私“は”と言われましたね、どなたか専門の方でもいらっしゃるのでは?」
「そ、それは……」
「国王様、これは貴方の依頼なのですよ」
カルトが念を押すと、国王はしぶしぶ話しだした。
「私が知らないのは本当です。確かに専門の者はいます、ですから……」
「ではその方に会わせてください」
「こちらにどうぞ」
広い城の地下、足元もよく見えないほどの明るさの中、カルトは国王の案内でモストロ専門の担当者のいる場所へと向かっていた。
(そこに行けば、今回の謎は解ける……)
「足元に注意してください」
「はい」
(どんどん奥に行くな……。そんなに危険なのか、それとも誘われてるのか……)
「おい、カルト」
クレイが前を歩くカルトを呼び止めた。
「なんだ?」
「俺、そこに行ったらマズいんじゃね?」
「今更だろ、国王に会った時点でもうマズい」
「でも……」
「いいから、何かあったら俺が何とかするから、お前は俺の言う通りにしろ」
「お、おう……。任せろ」
有無を言わさぬカルトの雰囲気にクレイの顔は引きつっていた。
「こちらです、しかしヒネーテさん。担当の者はなんと言いますか、変わって、おりまして……」
「構いません。こちらなのですね?」
「は、はい……。しかし本当に狂気の沙汰としか思えないのです、お気をつけて……」
国王の忠告など聞く耳を持たず、カルトはその部屋の扉を開けた。
「失礼しま……」
部屋の中は赤で染まっていた。壁と床はもちろん、椅子に机、ソファにおいても全てが赤で染まっていた。
スポイトと試験管を持ったその人は横顔だけでも怪しい雰囲気をまとっていた。
「ちょっと~。誰が入っていいって言ったの~? ――あら?」
その人物が話しだして初めて、カルトは国王の話の意味がわかった。
(こいつ、血液で興奮するタイプか? そりゃあそうだろうな)
危険を察したカルトは国王に小声で「こいつをお願い出来ますか? こいつはモストロですが、私の部下で今は全く害はありません。人の肉も喰いません。もし襲い掛かりでもしたら、焼くなり煮るなり好きにしてくださって構いません」と言ってクレイを託した。
そしてその人に向き直り、営業スマイルを浮かべた。
「失礼、モストロについて詳細をお聞きしたく参りました。ヒネーテと申します」
「あら~、イケメンじゃない! 座って?」
「お邪魔します」
カルトたちが座っていると、その人は着替えて戻ってきた。
「さ、それで? モストロについて知りたいって、あなた何者?」
「申し遅れました。私、中央より派遣されました、エファセのカルト・ヒネーテと申します」
エファセ、という言葉を聴いた瞬間、その人の顔が曇った。
「――エファセの方がどうしてモストロを連れていらっしゃるのかしら?」
「お気づきでしたか。あれは私が拾ったのです、どうかお気になさらず……」
「そ、で何を知りたいのかしら?」
「私は国王からモストロの異変について調査を依頼されました。その、モストロの異変について最もお詳しいのがあなただと案内されたのです」
「モストロの異変、ねぇ?」
その人は席を立ち、ファイルを持ってきた。
「これが、まとめたファイルよ。あたしの名前はラミア・ロドン。モストロ専門の研究者よ。エファセのことは噂で聞いてたわ。出来る限りの協力をしてあげる」
「――ご協力感謝します」
ラミアはカルトにファイルを渡してもなお、カルトのことを凝視していた。
「――なにか」
「いいえ~? エファセってきれいな顔してるのね。みんなそんな感じ?」
「そんな感じかは知りませんが、私よりきれいな顔のエファセはたくさんおりますよ。何故そんなことを?」
「だって暇なんですもの。貴方の顔を見るくらいしかやることがなくて……」
「いつも通り研究してて結構ですよ? 私は適当に見て去りますから」
カルトはラミアのことなど気にせず、ファイルから目を離すことはなかった。
「じゃ、あたしは研究でもしてようかしら?」
「ええどうぞ」
ラミアは席を立ち、先程の続きをはじめた。
(今のところ、このファイルにはおかしなところはない、か……。これで一通り見たはずなんだがな……)
数分後、全てのファイルに目を通し終えたカルトは考えにふけっていた。
「お茶でもどうぞ?」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
お茶を一口飲み、カルトはラミアに尋ねた。
「――ファイル、モストロについての情報はこれが全てですか?」
「ええ、なぜそんなことを?」
ラミアは右側の口角を上げた。
「モストロの弱点、モストロ発生の原因、など核心となる部分の情報がない」
「――そんなことエファセの貴方なら知っておられるでしょう?」
「私は知っております、しかし、確認しにきたのです。この国の研究がどこまで進んでいるのか……」
カルトの言葉にラミアは目を丸くした。
「それでわざわざあたしに会いに?」
「ええ、バレンティアには腕のいい研究者がいる、という噂はメディオでも聞いたことがありますから……」
「確かにあたしは知ってるわ。でもそれはまとめてないの、私個人のコンピューターに保存してあるわ」
「個人の? では」
カルトはあるものを渡した。
「これは?」
「私の連絡先です。後日、気が向いたときでいいので送ってください」
「――わかったわ。でも、その情報は誰にも渡したりしないでしょうね?」
「もちろんです、私の胸の内で留めます」
「契約成立ね」
「はい、よろしくお願いします。では、私はこれで……」
カルトは席を立ち、扉を開け、そして振り向いた。
「申し遅れました、ロドンさん。私に睡眠薬は効きません」
閉まる扉の隙間からラミアの引きつった顔が見えた。




