Ⅲ 再訪
翌朝、カルトは食材の焼けるいい香りで目を覚ました。
「――クレイ?」
「あ、おはよう……。置いてあったから何か作ろうかと思ったんだけど」
言葉はそこで途切れ、クレイはモジモジし始めた。
「本当に、俺、ここにいていいのか?」
カルトは思わず吹き出してしまった。
「お前、今更何言ってんだよ。俺が一度でも出てけって言ったか?」
「でも! 俺がここにいたらあんたに迷惑が……!」
「クレイ」
カルトはベッドから起き上がり、クレイに近づいた。手を伸ばすとクレイはビクッとして目を瞑った。
「――魚焦げてるぞ」
「えっ!? あっ! 悪い……」
「仕方ない。料理は俺がやるから、お前は座ってろ?」
クレイの頭に手を置いたカルトは、腕をまくり、朝食を作り出した。
――10分後
「よし、こんなもんか?」
「おお~!」
テーブルいっぱいに広げられた美味しそうなご飯の数々にクレイは声を上げた。
「これ、食べていいのか……?」
「当たり前だろ? 俺こんなに食べねぇし」
「――え?」
クレイは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「これほとんどお前の分だよ」
「はぁ!? なんで俺のためにそこまで……」
「なんで、ってお前、全然食べてないだろ。その身長で軽すぎんだよ」
「軽くもねぇよ。こんなもんだろ……」
「いや、軽い。絶対軽い。お前17くらいだろ?」
「18歳だけど?」
「それでその身長で、その体重はおかしい」
「わかったよ! 食えばいいんだろ!?」
クレイは見たことのない人肉ではない“普通の”ご飯に戸惑っているようで小さく刻み、口に進めた。
「――うめぇ! なあ、これなに!?」
クレイが指差したのは魚のムニエルだった。
「それは魚だ」
「じゃあこれは?」
「それは左から牛、豚、鶏の肉。付け合わせは人参とブロッコリーだ」
「へぇー」
一通り聞いたクレイは再度食べ始めた。そしてまた少ししてからカルトに尋ねた。
「そういえばあんた何歳なんだ?」
「24だ」
「はあ!? まだ24かよ!」
「まだって何だ。お前の年からしたらもうおっさんだろ?」
「いや、24はまだだろ。35あたりから、おっさんじゃね?」
「――いいから早く食え」
「は~い」
「ごちそうさまでした!」
朝食を食べ終えたクレイはカルトにたずねた。
「それで、このあとはどうすんだ?」
「俺は国王に会ってくる。お前は何か適当にくつろいどけ」
「くつろぐって……」
クレイは不安そうな表情でカルトを見つめた。
「心配すんな。すぐ戻ってくる、って言っても怖いよな……」
(さてどうしたものか……)
カルトは悩んだ末に結論を出した。
「仕方ない、お前も来るか?」
「いいのか!?」
クレイは心底ホッとしたような嬉しそうな表情を浮かべた。
「お前、国王に会ったことは?」
「ない!」
(なら大丈夫か、まあ最悪バレたら本当のことを言えばいいだけだ)
「そうと決まったら行くぞ? っと、お前の服が問題か」
「――やっぱり変か?」
「変ってわけじゃないが、それで国王に会うのは……」
クレイはThe 普段着とでも言うべき、Tシャツにジーンズという格好だった。
「仕方ない、俺の予備貸すから。小さいとは思うが、今日はそれで我慢しろ」
「わかった!」
――10分後
「こんな感じでいいのか?」
「様になるもんだな、いいんじゃないか? あ」
「……どうした?」
「馬鹿か、俺が気付かないとでも思ったのか? 来い、ネクタイ締めてやる」
「悪い……これだけはどうしてもわかんなくて」
「――よし、あとは髪型か?」
「か、髪までいじるのか!?」
「なんだよ、それで行くのは俺が許さない。いじられるのが嫌なら、留守番だな」
「……わかったよ」
大人しくなったクレイの髪は所々跳ね、見た目はいい感じになっているが、まさに癖毛だった。
(こいつ、なにをどうしたらこんなに絡まるんだ?)
生まれつき直毛のカルトにはクレイの毛並みが理解できなかった。
「こんなもんか? さ、行くぞ」
「あ、待てよカルト!」
「置いてくぞ。早く来い!」
カルトは先日ぶりの、クレイは初めての、国王へ会いに行くのだった。
「すごいな~。なあカルト! あれなんだ?」
クレイが指差していたのは電灯だった。
(こいつ、電灯も知らないのか?)
「あれは電灯だ。夜に足元を照らす道具みたいなもんだ」
家を出てからというもの、クレイはキョロキョロしていた。
(フーガから出たことないんだろうな、バレンティアなんて見たこともないものだらけだろうし)
「へぇ~! じゃああれは?」
(今度は市場か?)
「あれは市場だ、加工場も一緒になってるが。お前の知ってる市場とは全然違うだろ?」
「ああ、こんなきれいな市場知らねぇ!」
「だろうな、フーガの市場は衛生も何もないからな」
「そうなんだよ! あんなとこ連れてかれても全然食欲わかねぇの!」
「――そりゃあな」
(こいつモストロの癖に何言ってんだ……)
そんなことを思ってるうちに国王の居城はもうすぐだった。
「あ、クレイ、ここだぞ」
「ここか~。さすが国王だな。すっげー城!」
「――頼むから、静かにしてろよ? というか、一言でも発したらお前夜飯なしな」
「えーっ!」
「嫌だったら話すなよ?」
「――わかった」
カルトは先日ぶりの2人の屈強な門番のもとへと来ていた。
「何者だっ!」
「名を名乗れ!」
(こいつらの頭はスカスカなのか? 一度来たやつの顔くらい覚えとけよ)
「失礼、先日も来させていただいたヒネーテと申します」
カルトが答えると門番から予想外の言葉が返ってきた。
「いえ、ヒネーテ様は存じております。その後ろの方は……」
(あ、クレイのことか)
「すみません、こっちは私の部下なのです。クレイ・ナーダと申します」
「――失礼ですが、そちらの方はモストロでは?」
(早いな。もうバレたか)
「ええ、そうです。しかし、こいつは人を襲ったりしません。私が育ててきたのですから。何か問題でも?」
カルトの剣幕に2人の門番は考え込んでしまった。
「……わかりました。ヒネーテ様に免じて、特別に許可します」
「感謝します」
そうして、カルトとクレイは国王の居城へと案内されたのだった。




