ⅩⅩⅣ 妹
「さぁ! どうしますか?」
「どうするって……」
(何だよお前、その変わりようは……)
カルトは率直にそう感じた。
そこにいるのはモストロでもなく、ましてや自分の殺さなければいけない相手でもない、そのときだけは普通の青年だった。
「貴方が案内してくださいよ? 私、街に来たのは初めてなんです」
そのリュイの言葉を聞いてカルトはハッと我に返った。
(そうだ、今俺の目の前にいるのはモストロを生み出し、リストまでもを殺そうとした男……。こいつは本来山や崖を掘った地下などで暮らすものだ。こんなとこにいる方がおかしいんだ)
「お前、いつ帰るんだよ」
「”帰る”?」
「お前にだって家族はいるだろ。心配してんだろ」
リュイはなんだそんなことか、とでも言いたげな表情を浮かべ、答えた。
「――心配要りませんよ。私に家族はいません。もちろん、このまま帰らなくても心配する人も、ね」
そう言ったリュイは、諦めともとれるような悲しげな表情に見えた。
「そうか、じゃ、とりあえずまわるぞ」
「え?」
「え? じゃない。案内しろって言ったのはそっちだろ? 身の安全を保障してもらえるなら案内してやる」
「本当ですか! やったぁ! ありがとうございます!」
リュイは、嬉しさのあまりカルトに抱きつく。
するとなにか男性であるリュイにはあるはずのないものの感触があった。
「――お前胸に何いれてるんだ?」
「えっ!?」
「胸、男の割に柔らかいだろ」
リュイは顔を真っ赤にして俯いたまま話さなかった。
「おい」
どうした?と続けようとしたカルトよりも早く、リュイが切り出した。
「すみません!」
「は?」
リュイはポロポロと泣き出した。
「実は私、"リュイでは”ないんです」
「は? え、じゃあ誰、あんた」
「私はリュイの妹でルアンといいます。リュイは、先日亡くなりました……」
カルトはすっかり言葉を失っていた。
(ってことは)
「今はお前がモストロの長か?」
「――はい、まあそういうことになりますね」
「そうか……。じゃあ今回街に来た目的は? なぜリストを殺した? 殲滅者本部までもを何故襲った?」
カルトは、殺気を出しつつ問いただす。
「誤解です! 私は"殲滅者本部を襲ったやつ”を追ってきたんです! リストさんはまだ息があったのであそこへ、でも高熱で暴れてて……ベッドもないし仕方なく柱に括りつけておいたんです」
「襲ったやつ? お前が襲ったんじゃないのか?」
「違います! 私、兄がモストロになってから全然会ってなかったんです。でも先日手紙が来て、『この手紙が届いたってことは私はシュラムというやつに殺されているはずです。出来ればこんなことにルアンを巻き込みたくはありませんでしたが、すみません。そうもいかない状況なんです。この手紙が届いたらリッター・カルト、という人物に会ってください。彼なら何とかしてくれるはずです。ルアンは私とよく似ているのですり替わることなど余裕でしょう? よろしくお願いします。私は少し前にカルトさんに会ってますから、きっと分かっているはずです。ストーカー的な態度で接してみてくださいね』って書いてあったので来てみたんですけど……」
(あいつ、そんなこと思ってたのか。人のこと撃っといてなんとかしてくれるって……? どんだけお気楽だよ。何も変わらないな。というかストーカー的態度って……)
カルトはそんなことを思っていた。実はリスト、カルト、リュイは面識があった。昔、まだモストロを作り出す前、カルト、リスト、リュイは同じ学校に通っていた。そこでの研究でリュイはモストロを生み出してしまったのだ。
「で? その本部を襲ったシュラムっていうのが誰だかわかってるのか?」
「いや、そこまでは……」
「そうか、じゃあ分かった。シュラムのことは何とかしてやる」
「本当ですか!?」
「ああ、いろいろ探ってみる。心当たりはあるしな……」
ルアンは思い出したように「あ、殺さなくていいので!」と言った。
「いいのか? リュイを殺したやつなんだろ?」
「そうなんですけど……。私、ここに来るときにモストロの拠点を“燃やして”きてるので、頼る相手はいないはずですし、シュラム1人でもなんてことはないです」
サラッと言ってのけたルアンに、カルトは『ああ、本当にリュイの妹なんだな』と感じたのだった。




