ⅩⅩⅡ 始まりの場所
(リストのところへ行くといったが、どこに向かっているんだ? それにリュイの様子も気になる。1か月前に現れたのは確かにリュイだったが、今俺の前にいるリュイとは何かが違う気がする……。そもそも、あいつに幻覚系の力なんてなかったはずなんだが……)
カルトは、窓の外の景色に目を向けつつ考え事をしていた。
「そんなに怖い顔をしなくても、何もいきなり殺して埋めたりなんてしませんよ?」
そう言うリュイは笑みを浮かべ、前を見据え車を運転している。
「本部を壊滅させた奴の言葉とは思えないな」
「私だって時と場合は選びますよ? 本部の方々は必要な犠牲だったんです」
「必要な犠牲なんて存在しない。お前がしたことは単なる虐殺だ」
「冷たいですねぇ……。あ、そろそろ着きますよ」
冷たく言い放ったカルトに対し、リュイは飄々としていた。
本部を出て数時間。郊外のひっそりとし、所々の窓が割れている家に着いた。
「――なぜここに、俺を、連れてきた?」
カルトは全身から汗が吹き出すのがわかった。
再びここに帰ってくることになろうとは、考えもしなかったカルトは、愕然とした。
そう、今カルトがいる場所は、両親の断末魔のような叫びをあげ、絶命する瞬間を目の当たりにし、リストとともにエファセとなることを誓った、カルトとリストの家だった。
(……やはりこの場所は、気分が悪くなるだ)
「ふふふふ……。思ったとおり、あなたはこの場所が苦手なんですね。この、あなた達の両親が絶命するまで生活していたあなた達の生家が……」
「苦手……? ふざけるなよ。いつの話をしている」
そう言ったもののカルトは正直この場にいるだけで倒れそうだった。
(一度も来ていないのは、この家にもう帰ってこないと決めていたからだ。しかし、リュイの言うことも半分事実。ここで倒れてしまってはこいつの思うつぼ……。何としてもここはしっかりしなくては)
「――そんなことより、リストのところへ早く案内しろ」
「全く、あなたって人は……。せっかく私に会えたというのに、そんなに早く帰りたいんですか?」
リュイはあからさまに落ち込んだ素振りを見せた。
「うるさい。気持ち悪いことを言うな。さっさと案内しろ」
「仕方ないですねぇ」
そうしてリュイが向かったのはカルトの生家ではなく、隣にあるリストの生家だった。
「どうぞ?」
鍵を開け、扉の横に立ち、導くように手を伸ばしたリュイの一言に、カルトは弾かれたように扉を開けた。
「――リストッ!」
そこにいたのは部屋の中心を通る柱に鎖で固定され、ぐったりと衰弱した様子のリストだった。
「……カ、ルト? なぜここに?」
「大丈夫か? リスト」
カルトが家の中に足を踏み入れた瞬間、リストが突然叫んだ。
「来、るな!」
「っ!」
反射的に止まったカルトの背後からふふふっ、と笑う声が聞こえた。
「そうですよ? 下手に入ったらその瞬間、あなたの大切なリストさんの命が奪われることになりますから……ね?」
「――何が目的だ」
カルトがそう尋ねると、リュイは怪訝そうな顔で首を傾げた。
「何か目的があってリストを拉致したんだろ?」
「目的……ですか。そうですねぇ……」
「俺の命か? それともエファセを滅することか?」
カルトの言葉にリュイは口元を押さえ、笑いをこらえた。
「ふふふ、そんなつまらないものに何の価値があると言うのですか? そうですねぇ、ただ一つ言えることは、あなたが思っているほど、私は“常人ではない”ということですかね」
リュイは素早くカルトの背後に回るとその耳元で囁いた。
「……私の目的はあなた、唯1人。貴方がここに来た今、あなたを呼び出すための道具にはもう用はないのですよ」
「っ!? やめろ!」
リュイはカルトには目もくれず、リストに向け銃を構えた。
「やめろ。そいつは関係ないだろ」
「何を言うのです。あなたの大事なお友達ではないですか。それでも関係ないと言うのですか?」
そう言ったリュイは銃をしまい、さらにリストとの距離を詰め、ぐったりとしていたリストの髪を掴みグッと持ち上げた。
「うっ……」
「全く、こんなやつのどこがいいというのです……あなたは人を見る目がないのですか? こんなやつ、あなたには似合いませんよ」
反射的に呻き声を漏らしたリストだったが、今にも力尽きてしまいそうだった。
「やめろ。俺はどうなってもいいから、せめてリストは開放してくれ……」
リュイはリストの髪を離し、その足をカルトに向け、目の前に立つとそっと頬に触れた。
「そんなに辛そうな顔をしないでくださいよ。私はあなたを困らせたいわけではないんです」
「じゃあ何が目的なんだよ。リストを監禁したうえ、俺をこんなところにまで連れてきたりして……」
「――そんなに、この人のことが大事ですか?」
カルトの言葉に、リュイがつぶやいた。その言葉にカルトは顔をあげた。
(今のはリュイが言ったのか?)
「――貴方が私のそばにいてくれるのなら、こいつは解放しますよ」
「お前のそばに?」
「はい、何も一生とは言いません。数日、数週間、数か月、数年、どれくらいの期間かわかりませんが、私がそばに来てほしいと願ったときに、そばに来てください」
「……その言葉、信じていいのか」
カルトの言葉にリュイはええ、とでも言うように頷き、微笑んだ。
「じゃあ俺が代わるから、早くリストを開放してくれ」
「――その言葉、嘘はないですね?」
「ああ、だから早く……」
「では」
パチンッ
リュイはカルトの言葉を確認し、指を鳴らした。




