ⅩⅩⅠ 幻覚
「まあ、こんなところで立ち話もなんですし、出ましょうか」
「出るってどこに。というか、お前仮にもリストの姿しているんだから仕事しろよ」
「あ、そうですねぇ。もうあなたが来たことですし、“見せても”大丈夫ですね」
パチンッ
リュイは指を鳴らしたが、何も変わることはなく、普通の長官室のままだった。
「何をした?」
「あぁ、ここにいても変化はわからないでしょう。外に出るとわかるはずですよ?」
どうぞ、と先導するリュイに続き、廊下に出ると、先ほど通ったはずのその場所は、一瞬にして至る所が血にまみれた場所に変わっていた。
カルトが先ほど訪れた受付も真っ赤に染まり、そこにいた女性も真っ赤に染まっていた。
「――なんだよ、これ」
「ふふふ……」
「お前、まさか、この本部を襲ったのか! ありえない……。こんなに、こんなことをしてまで。お前は何をしたかったんだ?」
「“何をしたかったんだ”とは心外ですね。私の目的なんて、あなた以外にいるわけないじゃないですか……」
リュイは優しくも残酷に微笑む。
「私はただ、あなたとの空間を“誰にも”邪魔されたくなかったんです。こいつらを殺した理由は、と聞かれたらそうですね……。そこにいたから、とでも言うのでしょうか?」
(狂ってる)
カルトは率直にそう感じた。まずもって、カルトにはこの変態、リュイにここまで好かれる理由が見当たらなかった。
(俺が何をした? あいつは俺を殺そうとした男だ。実際に銃で撃たれ、俺は生死の境を彷徨った……。わからない、前に会ったこともないはずなのに)
「ふふふ……」
「何がおかしい?」
「なぜこいつはこんなに俺に執着するのか、そんな顔をしてますね……。簡単なことです。――私はあなたが好きなんですよ。人間として」
「……」
カルトにはリュイの言葉が理解できなかった。
(俺を好き、だと? 人間として? 俺の何を知っていると言うんだ……?)
「まあそう怖い顔をしないでくださいよ。覚えてないんですね? 無理もないです、まだ“あなたたち”は幼かったですからね……」
(まさか。いや、あのときの奴らは親父たちが全て……)
「殺したはず、ですか?」
「っ!」
「ふふふ……、もちろん、あのモストロどもではありません。あなたたちのご両親のご遺体を引き取りにきた本部の者がいたでしょう? あの中に私がいたんですよ」
「嘘だろ……?」
「嘘じゃないですよ? あの時の私はまだ本部にいましたからねぇ。それに、私はあなたには嘘はつきません。もちろん、暴力も、ですが」
「笑わせる。お前の暴力の中に銃で撃つという行為はないのか?」
リュイは途端に泣きそうな顔になり、焦りだした。
「あ、あれは! 私だって、私だって辛かったんです……。でも、ああでもしないと呼び出す口実がなくて……。それに……」
リュイは歪んだ笑みを浮かべ、続けた。
「私、カルトのことも好きですが、あなたと同じくらい、人の苦痛に歪む顔や、泣き叫び助けを懇願する声も、大好きなんです」
(快楽犯か……。そりゃあそうだろうな。人喰うなんて発想、普通の人は出てこないはずだ……)
「さて、それじゃあそろそろ行きましょうか?」
「どこへ連れて行く気だ?」
「決まってるでしょう? 本物のリストさんのところへですよ」




