第六章④
次の日、明音と小百合は放課後に菜々美の家に行った。正確な場所は知らなかったけれども以前、この辺だと言う話を聞いていたので何とか見つかった。家は二階立ての一軒家だった。
「着いたね」
「そうね」
考えてみれば友達の家に行くなんて初めてだった。目の前のインターホンを押すのにも勇気が必要なくらいだった。
「それじゃあ、行きましょうか」
小百合に促されて明音がインターホンの前に行く。
「行くよ」
明音の緊張している姿に苦笑しながら小百合が頷く。
ピンポーン
チャイムが鳴る。カチャとスピーカから鳴り
『はい、どなたですか』
と知らない女性の声が聞こえる。恐らく菜々美の母親だろう。
「あの、同級生の宮本明音と言うものですが、菜々美さんいらっしゃいますか」
明音が緊張してたどたどしく言う。
『ああ、菜々美の友達ね、ちょっと待ってて、呼んでくるね』
そう言うとインターホンから声が消えた。しばらくした後、ドアから菜々美の姿が現れた。
「明音に小百合」
呟くように菜々美が言う。
「来ちゃった」
明音がそう言うと菜々美は微笑した。
「ここで話すのもあれだから、とりあえず入って」
と菜々美に促される。二人はそれに従って菜々美の家に上がらせて貰った。廊下を通り菜々美の部屋へと案内される。中は綺麗に整頓されていて、さっぱりした部屋だった。
「なんだが、こうやって話すのは久しぶりだね」
「そうだね。でも急にどうして来たの」
来た理由は恐らく分かっているのだろう。菜々美があえて触れないようにしている。明音はどう切り出したら良いか分からずに迷って黙ってしまっていると
「最近、練習に来ないからどうしたのかなと思ってね。二人で来たの」
小百合があっさりと切り出してくれた。お陰で明音も話しやすくなった。
「そうなの、どうしたのかなと思って」
「ああ、そうだったんだ」
菜々美がそう言うとしばらく沈黙した。明音と小百合も黙って菜々美の答えを待った。
しばらくの沈黙の後、菜々美が顔を上げる。
「私、二人の足手まといになっているんじゃないかと思ってね」
菜々美が言う。明音はそんな事は無いと言おうとしたが、小百合に制止された。菜々美の話し
を最後まで聞こうという事なのだろう。
「小百合は最初から上手だし、明音は物凄いスピードで成長していって、それなのに私、全然上
手くならなくて……」
一度、話を止める。そんな風に考えていたのかと思うと明音は少しショックだった。
「私ばっかり時間取られて皆の練習の時間を奪ってしまうし、迷惑になっているんじゃないかと思ってね。それなら私がいない方が良いかなと思ったんだ」
これが、菜々美が練習に来なかった真相だった。明音には何で菜々美がそう思ったか良く分からなかった。
確かに自分でも上達したとは思うけれども、菜々美が言うほど成長しているとは思えなかった。それなのに菜々美はそんなにも気を病んでいるのか分からなかった。だが、
「なるほど、そうだったの……」
小百合は納得が言ったようだった。それが明音にとって少しショックだった。菜々美とは小百合より付き合いが長いのに分かって上げられないのが悔しかったのだ。
「……でも、それは菜々美が焦りすぎているのよ」
小百合が諭すように言う。
「確かに、明音は凄いスピードで成長したわ。でも、こう言っちゃ悪いけれども、それは明音の始まりが、あまりにも初歩的な所から始まったからよ。だから何だが凄く上手になったような気がするけれども、実力は菜々美と五十歩百歩よ」
菜々美が反論しようとするが、それを制して話を続ける。
「それにこの曲のアルトは難しいから時間が掛かるのは仕方がないのよ。だから気にする事ないわ。それに……」
「それに……」
「私も、明音も、菜々美と一緒に歌いたいの」
それを聞いて菜々美はハッとする。
「そうだよ。今まで三人で歌う為に練習してきたんだよ。菜々美がいなきゃ意味ないよ」
明音がさらに言う。それを聞いて菜々美が黙ってしまう。
「菜々美と小百合がいなきゃここまで出来なかった。三人で歌わなきゃきっと後悔する。だから一
緒に歌おう菜々美」
菜々美は明音と小百合の顔を見る。今までの暗い顔が和らいだ様に見えた。
「……ごめん」
菜々美が謝る。
「何だか色々考えすぎてネガティブになっていたみたい。返って心配掛けちゃったね」
それを聞いて明音が笑顔を見せる。
「じゃあ」
菜々美が頷く。
「また一緒に頑張ろう。私も小百合と、明音と、一緒に歌いたい」
ヤッターと手を上げて喜ぶ明音。それを見て小百合と菜々美が笑う。明音は恥ずかしくなって照れ笑いを浮かべた。
明音はまた三人で一緒にやれる事が嬉しかった。文化祭まで一生懸命頑張って良い物にしようと改めて決意した。




