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耳が聞えなかった少女  作者: 伊藤 孝一
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第六章①

 宮澤部長に認めてもらえた事によって、ついに明音達はスタートラインに立った。あのテストの翌日にたくわん先生に音楽準備室に呼び出された。


「それで、まずは何を歌うか決めないのとな」


 いよいよ、本格的に文化祭に向けて動き始めた。たくわん先生の言うとおり、まずは曲を決めなければならない。


「一応、こっちで選んで置いた曲があるのだが聞いてみるか」


「そうですね。お願いします」


 明音が言う。どんな曲が良いのか分からないので先生の提案に乗ることにする。


「この曲だよ」


 そう言って音楽プレイヤーを起動して曲を流す。迫力がありつつも何だか落ち着くと言う不思議な曲だった。また歌詞が明音の共感を呼んだ。この歌なら歌ってみたいと思わせてくれる曲だった。


「これなんて曲なんだろう」


「『世界に向かって』と言う曲だよ。なかなか良い曲だろう」


 菜々美の問いに先生が答える。本当に良い曲だと明音は思った。


「良いですね。この曲歌ってみたい」


「なら、良かった。この曲は三部合唱に分かれているから、ちょうど良いだろう」


 と先生。良い曲を選んでもらえたと明音は思った。


「歌が決まったらパートを決めないとね」


 と小百合。


「そうだな、大体、こっちで決めてあるんだが、それで良いか?」


 三人とも頷く。そして、それぞれのパートが発表される。


「まず、アルトは佐々木だな」


「はい」


「次にメゾソプラノは吉川な」


「分かったわ」


「最後にソプラノは宮本だな。メインになるから頑張れよ」


「えっ、私がメイン」


 いきなりの重役に驚く。


「私なんか全然、歌、下手なのに」


「かなりのスピードで成長しているから可能性に掛けてみようと思ってね」


 と先生は言ってくれるが、まったく明音には自信が無い。


「やりなよ、明音」


 菜々美が言う。


「最初に言い出したのは明音だし、メインは明音が合っているよ」


「私もそう思うわ」


 と小百合も言う。


「ここは言い出しっぺが責任持たないとね」


 意地悪く微笑みながら小百合に言われてしまう。もう、覚悟を決めるしかない。


「私、足を引っ張ると思うけれども、精一杯頑張るんでよろしくお願いします」


 と明音が頭を下げる。菜々美と小百合、それに先生が拍手で答えてくれた。


 とりあえず、形は決まった。後は練習あるのみだ。


「まあ、いつも通りの筋トレね」


 とあっさり先生に言われる。明音も慣れてきたが未だにあの筋トレはきつい。まあ、いつも通りジャージを着ているから問題は無いのだが……。


「なかなか慣れないわね」


 と菜々美。


「それでも、前よりは楽に感じるようになったけど」


 これは明音。だがどちらにしても辛い事には変わらない。それを越えて、ようやく本格的な歌の練習となる。


「まずは、歌に慣れてもらわないとな、しっかり聞いていこう」


 と言うことで今回は先生が重要な所を話しつつ、この『世界に向かって』の曲を聞く事に専念した。明日はいよいよ歌っていくようだ。パートごとの練習も始まるだろう。これからの事を考えると楽しみで仕方が無い明音だった。 





 そして次の日はいつも通りの筋トレをやった。そしてついに歌の練習が始まった。三パート同じ部分の所を練習する事になった。


「それじゃあ、歌ってみるか」


 適当な所で区切りながら一つ一つ練習をしていく。まだ慣れなくて音程もまともに取れなかった。この曲に関しては小百合も初めて歌うらしく。それなりに苦労していた。明音と菜々美はそれ以上に苦労した。宮澤部長のテストで歌った課題曲よりかなり難しい。本当に文化祭に間に合うか不安になった。


「今は難しいかもしれないけれども、大丈夫。歌えるようになるよ」


 たくわん先生がそう言って励ます。それに勇気付けられて、さらに練習に力が入る。


 何度も何度も同じ所を練習した。少しは上達出来たように思えた。けれども、まだまだ練習しなければいけないと明音は感じた。


「よし、今日はこれで終わり」


 先生が言う。どっと疲れが出たけれども、気持ち良い疲れだった。明日は先生が吹奏楽部の練習に出なければいけないので自主練習になった。次はパートごとの練習をする事になった。本当はもっと練習した方が良いのだが、形だけでも整えておかないと行けないので次に進むことになった。


「ありがとうございました」


 三人が頭を下げる。


「良いよ良いよ、そういうのは」


 と手をヒラヒラさせて先生が言う。


「ちゃんと、筋トレと今やった所を復習してね」


 そう言って先生は音楽準備室から出て行った。


「ついに始まってね」


 と明音。


「そうだね」


 これは小百合。


「とにかく、頑張ってやらなきゃね」


 最後に菜々美が言って、二人が頷く。これからが本番。明音にも気合が入る。


 明日は、いつも通り明音の家で練習する事になった。毎日、練習で大変だけれども、きっと努力しただけ何か得る物がある。明音にはそう思えた。


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