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耳が聞えなかった少女  作者: 伊藤 孝一
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第五章①

「そろそろ文化祭が近づいてきましたので文化祭の出し物を決めたいと思います」


 委員長が開口一番にそう言う。今日のホームルームの議題は文化祭のようだ。


「では文化祭についてのプリントを配ります。後ろに回してください」


 一番前から順番に回ってきて明音の手元にもプリントが来る。それをゆっくりと上から読んでいると


「んっ」


 と気になる文章が目に付く。


「学生有志での参加?」


 文章には部活やクラスに所属しなくても自分でグループを作って出し物が出来るようだ。もちろん、審査を受ける必要があるのだが、


「へーそんな事が出来るのか」


 明音はこの学生有志枠で何か出来ないかと考え始めていた。菜々美と小百合と三人いれば何か出来るに違いないと、特に小百合はあんなに歌が上手なんだから埋もれされるのは、やっぱり、勿体無いと思った。


「んー」


 委員長の話をそっちのけで明音は考えていた。ふと明音が我に返ると委員長は出てきた出し物の案をまとめて、黒板に書いていっていた。


「じゃあ、この中で決めます。良いと思う案に手を上げてください」


 どうやら多数決で決める事になったようだ。とりあえず良さそうな物に明音は手を上げた。また三人に何か出来ないか考え始める。ふとカラオケでの出来事を思い出す。そして小百合の歌を思い出して


「そうだ」


 と一つの案が思い浮かんだ。


その間にクラスの出し物は決まったようで焼きそばを作ることにしたようだ。そこでちょうどチャイムが鳴り、ホームルームは終了した。そして昼休みの時間になった。明音は菜々美の所に行って音楽準備室へと誘った。




「合唱?」


 菜々美が明音の提案を呟く。


「そう、合唱。今度の文化祭に学生有志で参加してみない」


 明音の提案に菜々美はあっけに取られていた。小百合も


「いきなりどうしたの?」


 といぶかしがる。


「せっかく仲良くなれたし何か出来ないかなと思って、それで小百合さん歌が上手いし音楽の先生とも仲が良いから合唱とか出来ないかなって」


「でも、明音さん。歌をほとんど歌ったこと無いんでしょう」


「まあ、そうなんだけどさ……」


 小百合に言われて明音が言葉を詰まらせる。


「難しいんじゃないかな、私もそこまで歌に自信にないし」


 とさらに菜々美にも言われてしまう。明音は良いアイディアだと思っていたので少しショックだった。


「どうして、そんな事をしたいと思ったんだ」


 たくわん先生がいつも通りのたくわん入りの弁当を食べながら明音に聞く。明音は自分でもどうして何かやりたいと思ったのか上手く説明できなかった。その中でもどうにか説明しようと言葉を

考える。


「この前、カラオケに三人で一緒に行った時に小百合さんが将来の仕事の話をチラってしていたでしょ」


「ああ、あの時の……」


 小百合がカラオケで言った事を思い出して気まずい顔をする。


「なんだか、あの話を聞いていたら、私達の将来って暗いのかもしれないと思っちゃって」


「ごめん、変な事を言っちゃって」


「ううん、でも本当にそうなのかもしれない。でも、だからこそ」


「だからこそ?」


 たくわん先生が続きを促す。


「今を存分に楽しんだ方が良いんじゃないかと思えてね」


「今を?」


「うん、だから何かしたいなと思ったんだ。何か思い出になる事をしたいって」


「それで、合唱」


「うん、まあ単なる思い付きで言っただけなんだけどね。」


「なるほどね……」


 明音の言葉にたくわん先生は


「多分、それはきっと意味のある事だと思うよ」


 と言って


「やってみるのも良いんじゃないかい」


 その言葉を付け加えた。それを聞いて菜々美と小百合が驚く。


「でも、先生。小百合はともかく明音と私は歌なんてカラオケか音楽の授業でしか知らないですよ」


 そう菜々美が言うが先生は


「まだ、時間はあるし大丈夫じゃないか」


 と切り返した。菜々美はまだ何か言いたそうだったが、


「この先生はこういう人よ」


 の小百合の言葉によって飲み込んだ。


「これから合唱の為に会場を取るのは大変だろうから吹奏楽部の時間を少し分けてもらったらどうだ。吹奏楽部に演奏もお願いしてみると良い」


「でも、吹奏楽部に知り合いとかいないし大丈夫かな」


 明音がそう心配するが


「先生は吹奏楽部の顧問なのよ」


 小百合の言葉を聞いてホッとする。


「まあ、俺も頼んでみるよ」


 そして今日、放課後に吹奏楽部と話をしてみる事になった。


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