第三章④
あれから数日経って、放課後に菜々美が明音の家に遊びに行って良いかと聞かれた。明音は頷く。どうやら、発音練習をするようだ。
「頑張ろうね」
「ウン」
このまま、明音の家に行く事になった。菜々美はいつものカバンの他に手提げ袋を持っていた。何が入っているのか気になったが、
「着けば分かるよ」
と言われて教えてくれなかった。
明音の家に到着すると、二階に上がって明音の部屋に行く。荷物を降ろして一段落する。
お母さんがお菓子とジュースを持ってきてくれた。菜々美が
「ありがとうございます」
と丁寧に挨拶していた。明音は礼儀正しいなと一人感心していた。
「それではごゆっくり」
やたらと嬉しそうに母親が去っていく。いまいち何が嬉しいのか分からない明音だった。
「じゃあ、始めようか」
菜々美が手提げ袋から何かを取り出す。
「これを一緒に読もうかなと思って」
袋から出したのは絵本だった。桃太郎とかシンデレラとか金太郎など子供に読み聞かせるのに良さそうな絵本を持ってきていた。
「これなら、読みやすいし、どうかなと思って」
どうやら、発音の練習をする為に用意してきてくれたようだ。
「ウン」
その中から明音は桃太郎を取り出す。
「コレニシナイ」
「良いよ、とりあえず読んで見ようか」
「ウン」
ともう一つ菜々美は同じ桃太朗の本を取り出す。そして二人呼吸を合わせて
「むかしむかし……」
と読み合わせようとするが、すぐに合わなくなった。
「ウーン」
「最後まで読んでみようよ」
菜々美がそう言うのでもう一度、挑戦する。今度は菜々美がスピードを落として読んでくれるが所々で訛ってしまい、上手くいかない。
朗読も思った以上に大変だった。上手く読もうと色々考えながら読んでいたら、どれが正しい読み方なの分からなくなってしまった。
「イチド、ナナミノ、ロウドク、キカセテ」
まずはちゃんとした発音を聞いたほうが良いと、明音は思ったので菜々美に提案した。菜々美は快く了承してくれてもう一度、桃太郎を朗読してくれることになった。
「むかしむかし……」
しっかりした声でゆっくりと読んでくれる。話も頭にしっかりと入ってくる。
「どうかな」
「ウン、アリガトウ」
「今度は、明音が一人で読んでみてよ」
そう言われて今度は、明音が挑戦する。けれども、菜々美のようにスラスラ発音できず、手間取ったが、どうにか最後まで諦めずに読みきることが出来た。
「フゥー」
「ご苦労様」
と菜々美がジュースを差し出してくれる。明音が勢い良く飲み干す。
「ちょっとずつ練習しよう。じゃないと疲れちゃうしね」
「ウン」
今日はこれで終わる事にした。菜々美もジュースを飲み干したようなので明音が一階に降りてジュースを入れ直してきた。後は他愛の無い話をしているうちに夕方になった。
「そろそろ帰るね」
「ウン」
明音はドアの前までお見送りしたのだが、そこでも少し話し込んでしまい遅くなってしまった。
「それじゃあ、また明日頑張ろうね」
「ウン」
そう約束して菜々美は帰っていった。
その次の日も次の日も明音と菜々美は毎日、発音の練習をしていった。
明音は自分と向き合うために、自分の朗読している声を録画して自分で確認すると言う作業を続けた。最初は自分の朗読を聞くのが苦痛で仕方なかったが、こんなに酷い物だとは思わなかったのだ。
けれども、頑張れば良くなっていくと信じて、朗読の練習を続けた。そうしている内に徐々に良くなっていくのを感じ取れるようになり、段々楽しくなってきていた。
そして……




