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ritard. ――リタルダンド――   作者: 花厳 幽花
復讐の影編 第4章「過去を切り捨てる」

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6「決別」

 目が覚めたルノートはオルタとエリギアによって呼び出された。もちろん、彼の側にはロクリアがいる。

 一行はエリギアの車へ乗った。

 エリギアが車を運転、助手席にオルタ、後部座席にルノートとロクリアが座っている。


「早速だがムジク・シンフォニの討伐を目標に行動を始める。場所は確か・・・」


 エリギアが頭を掻く。


「忘れた。オルタ、頼む」

「全く・・・」


 オルタがはぁと呆れたように溜め息を吐いた。


「バー『パルシェ』。『アルペシア』に所属していたルノートなら知っているんじゃないかしら。そこに襲撃を仕掛け、ムジクの情報を聞き出す」


 ルノートは衝撃を受けた。つまり、これから彼はオルタやルノートと共に『アルペシア』へ襲撃を仕掛けるということだ。


 まだ、組織にはドミナだけでなくアヴォイドがいる。もし二人が『パルシェ』にいた場合は――。


「安心しなさい。もしドミナがいたとしても、あの子を傷付けたりなんかしないわ」

「まあ、そのドミナってやつが俺たちに攻撃してこない限りはな」


 ルノートは覚悟する。


 これは自分が選択した道なのだから。『夜の蜘蛛』で、任務を遂行する。たとえ、任務の内容がかつての同胞を殺すものだとしても。


「任務はエリギアとルノートに行ってもらうわ。ワタシとロクリアは車の中でお留守番よ」


 するとロクリアが残念そうに「えぇ」と呟いた。


「何かしら、文句でもあるの?」

「別に・・・ないです」


 ロクリアはルノートの手をそっと握る。


「無事に帰ってきてくださいね」


 ルノートはこくりと頷いた。そのやり取りを、ルームミラー越しにオルタが見ていた。


 車のエンジンがかかる。そして車は発進した。


 バー『パルシェ』はここ、シンフォニ王国の第一地区にある。ルノートたちの滞在していたホテルから第一地区までは少し距離がある。


 その間、車に揺られながら、ルノートは窓の外をただ眺めていた。


 不意にロクリアが抱き着いて来る。彼女はオルタとエリギアの視線など気にしていないようだった。


「ルノートさん・・・」

「ちょっと、急に何?」

「寂しいです」


 ロクリアの瞳に影が差し込んでいた。ルノートは渋々と彼女を抱き返す。

 すると嬉しそうにロクリアが微笑んだ。


「あんたら、付き合ってんのか? いちゃいちゃして」


 車が信号に引っかかったタイミングでエリギアが、二人へ尋ねた。


「いや、別に付き合っているというわけじゃ――」


 ルノートが言いかけた途端だった。


「はい。付き合っています」


 と、ロクリアが即座に返事をしたのだった。


「はぁ」


 オルタの大きな溜め息が聞こえた。


「面倒事は起こさないでちょうだいね」


 ルノートは側にいるロクリアを睨み付けた。この女には、本当に腹が立つ。


「外堀から埋めていくのが、常套手段ですよ」


 ロクリアは相変わらず癪に障る微笑を湛えて言った。

 つまり、彼はロクリアの計略にはめられたというわけだ。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ありがとうございます」


 ドミナは礼を言って、タクシーを降りる。場所はバー『パルシェ』のある雑居ビルの近くのパーキングエリア。


 ドミナは外に出た途端、ふぅと息を吐き、灰色のファー付きダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだ。フードを被り、歩く。不意に、もう一台の車がパーキングエリアへ入ってきた。


 その車は黒く艶光りしていて、パーキングエリアに停まる他の車と比べて目立っていた。


 ドミナは目を見開く。後部座席に、ルノートに似た人物が乗っていたのだ。

 パーキングエリアの出口の柵に靠れ、ドミナは車に乗る人物らが降りて来るのを待つ。


 不意に背後を振り返った。丁度、周りに車が停まっていない隅の方にその黒い車は停まっていて、こちらから様子が窺える。


 中から何人かが降りてきた。銀髪の男と黒髪の青年。間違いない。ルノートだ。


 ドミナは今すぐにでも彼の元へ駆け寄りたい衝動に駆られ、フードを下ろした。その瞬間だった。


 車の中にいたのであろう。もう一人、茶髪の少女がいた。少女はわざわざルノートと共に車を降り、何かを話している。


 そして、二人は口付けをした。


 途端に、ドミナの体から力が抜けていく。気が遠退いて行く。これは現実なのだろうか。


 ドミナは急いで彼の元へ向かった。


「ルノート!!!」


 声を投げた。その瞬間、ルノートが振り返った。口付けを終えたばかりの彼と少女がドミナを見据えている。近くにいた銀髪の男もまたドミナを見ている。


「ドミナ・・・」

「ルノート」


 ドミナはすぐさま彼に抱き着いた。温かい。


「私のルノートさんに触らないでください」

「誰だお前」


 先ほどルノートと口付けをしていた少女が、ドミナを見て不愉快そうに顔をしかめる。


「そうだ、ルノート。話したいことは色々あるんだが、まず・・・そいつとなんでキスなんかしてたんだ?」

「それは・・・」


 ルノートが言葉を迷わせている。すると先ほどの茶髪の少女がドミナを押しのけて、


「私とルノートさんは付き合っているんです。ドミナ、でしたっけ。元恋人の分際で私とルノートさんの間に入ってこないでください」


 その瞬間、ドミナの怒りは爆発した。

 少女の胸倉を掴む。


「てめぇ、何言ってんだ・・・ルノートとてめぇが付き合ってる? ルノートが私と別れてすぐ他の女を作るわけないだろ。それにルノートは私のことを想って別れたわけだし・・・」

「貴方の方こそ何を言っているんですか? 私とルノートさんはすでに体の関係もありますし、貴方より強固な絆で結ばれているんですよ? それに、ルノートさんが貴方のことを想って別れた? そんなわけないじゃないですか。貴方が嫌いだから別れたに決まっているじゃないですか」


 これ以上は暴力沙汰に発展する。そう思ったルノートだったが、彼は止めようにも止められずにいた。なぜなら、両者の争点となっているのは彼なのだから。


「そんな、ルノートが私を嫌いなわけ・・・っ、なぁ、ルノート。お前は本当に私のことが嫌いなのか? だからこんな変な女と関係を持ったのか?」

「変な女ですって?」


 すると、もう一人車の中から誰かが降りてきた。


「おっ、オルタ丁度良かった。なんか面倒なことになってんだ」


 銀髪の男――エリギアが、車から降りてきたオルタにそう言った。オルタははぁと大きな溜め息を吐き、ロクリアを、そしてドミナを睨み付けた。


「オルタ・・・」


 ドミナはロクリアの胸倉から手を離した。彼女の視線はオルタに注がれている。


 かつての友人との再会。それも、死んだはずの。


「そこまでにしておきなさい。ドミナ、ルノートと彼女が付き合っているのは本当よ。肉体関係は知らないけれど、おそらく・・・」

「そんな・・・」


 ドミナが膝から崩れ落ちる。


「だから言ったじゃないですか」


 崩れ落ちたドミナに向かってロクリアが言葉を飛ばした。


 ドミナはもう立ち上がることができない。ルノートが、他の女と付き合っている。その衝撃が止まない。


 すると突然だった。


 ルノートが突如としてロクリアを殴りつけたのだった。その場にいた全員が、驚いて彼を見る。

 ロクリアは勢いのあまりその場に倒れた。しかし、彼女は嬉しそうな顔をしている。


「もう・・・駄目ですよ、ルノートさん。こんな公の場で・・・」

「うるさい・・・君が、君ごときがドミナを侮辱するな」


 ドミナも、オルタも、エリギアも彼の行動が理解できなかった。また、ロクリアが嬉しそうに頬を赤らめる理由もまた、理解できずにいた。


 誰もが目を疑った。


「ルノート、やめなさい。彼女はこの任務中、大事な鍵なのよ。それを無為に傷つけてどうするの」

「また、僕は・・・すみません」


 ルノートの表情が見たことないほど、悲しみに染まっていた。ドミナは急いで彼を抱きしめた。


「ルノート、何があったんだ」

「ドミナ・・・」

「お願いだ、教えてくれ。お前のそんな顔見てられない」


 するとルノートが泣きそうな顔をした。


「僕はもう、君といられないんだ・・・っ、なんでだよ、なんでなんだよ。どうすれば、僕は君と一緒にいられるんだ。なんで、『魔王』なんか・・・『勇者』なんかが、僕と君を引き離そうとするんだ・・・っ!!!」


 するとドミナの肩へ、エリギアが手を置いた。


「ドミナ、とか言ったか。これから俺たちは任務があるんだ。だからこれ以上邪魔をしないでくれ」

「邪魔だと・・・」

「ああ。邪魔さ」


 ドミナとエリギアが睨み合う。それからドミナは殴り飛ばされたロクリア、自身の腕の中で涙を必死に堪えるルノートを見た。


 ドミナが干渉したから、彼はこうなったのではないか。

 彼がドミナの元を離れようとした決意を、ドミナは踏み躙ってしまったのではないか。


 そう考えた途端、ドミナは目の前が真っ暗になった。ルノートから離れ、目の前のエリギア一行と距離を取る。


「私は、何をして・・・ちがっ、ルノートを苦しめたかったわけじゃ・・・」


 ドミナは途轍もない自己嫌悪に襲われる。


『邪魔』。本当にそうなのだろう。

 だって、ルノートは新しく恋人を作った。なら、いつまでも彼に執着し続ける自分は何なのか。


 ドミナは彼らに背を向けた。もう何も気力が起きない。


「あんたも行く先は同じみたいだな」


 先ほどの少女とオルタは車に戻ったのだろう。暗い顔のルノートと、煙草を口に咥えたエリギアがドミナの少し後ろを着いてきていた。


「ルノート」


 ドミナは立ち止まる。そして後ろを振り返った。


「ごめんな。もう、お前の邪魔はしないから」


 途端にルノートが何か言いたな顔をした。しかし、彼は言葉を発することができなかった。


「私がいなくても、もう大丈夫みたいだしな。幸せになれよ――絶対」


 ドミナは顔を下に向け、走り出した。本当は『パルシェ』に行って、組織を抜けて『テンペスト』へ移ることをユエムへと報告する予定だった。


 それも今はできない。


 誰にも、彼女は今の自分を見られたくなかった。


 ドミナは声を必死に殺しながら、街中を駆けて行った。

 腕で何度目元を拭えど、溢れてくる。


 ドミナは泣いていた。

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― 新着の感想 ―
わぁぁぁぁ、辛い別れ!! また2人が笑い合ってくれる世界線があって欲しい……!
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