幕間2「神と世話係」
七年前――。
「魔王とティークの復活、神々への反逆・・・それは本当なのか」
「ええ」
エロメロと灰色の髪をした青年が話をしている。とある神殿の中、エロメロは、白い翼と金色に発光する輪を頭の上に浮かばせた天使の護衛を付けている。
青年の十字型の金色の瞳が、エロメロを映している。褐色の肌と高く筋肉質な背丈。白い衣を纏ったその姿はまるで『神』を厳正に表したようだった。
「お兄さま・・・私が今まで嘘ついたことあるぅ?」
「ないな。お前の言うことを信じよう。それで、ウツグは今どこに」
「それは教えられないし、何かするのもまだ駄目。私がお兄さまに告げ口したことを彼女に知られたら、『処刑』することもできなくなってしまうわぁ。逃げ足だけは早いもの、あの子。一応私のことを信用してはくれているみたい」
「そうか」
エロメロが『お兄さま』と呼んだ青年は考える素振りを取る。
「気を付けろよ」
「分かっているわ」
エロメロは隣に従えていた二人の天使に合図を送り、青年に一礼をしてこの場を去った。一人残った青年は、不意に目の前へ現れた一人の少女に目を向けた。
小さくて華奢な体躯。メッシュのように紫と白の色が混ざり生えた髪、両目を覆う黒い目隠し。
青年と少女は顔を見合わせる。どうやら少女は先ほどのエロメロとの会話を盗み聞きしていたようだ。
「リーハデス、盗み聞きしていたな」
「うふふ・・・別にいいじゃない。こそこそと周りの目を盗んで妹さんと話をしているのだから、気になるのも当然」
「全く、お前と言うやつは・・・」
リーハデス。そう呼ばれた少女が黒衣から飛び出た小さな手を伸ばす。手は上へ向けられ、小さく魔方陣を描く。
「魔王に、赤髪――ティーク・・・ふふ、ふふふ。死のにおいがする」
リーハデスはそう言って不気味な笑みを浮かべる。彼女は『生死の女神』であり、この世に生きる者全ての生死を管理し、それを楽しんでいる。誰かが死ねば喜び、誰かが誕生すれば喜ぶ。
「ザンシ・・・惨死・・・ふふ」
「つまらん」
青年の名前と同じ言葉を口にしながら、リーハデスはまた笑う。
青年の名はザンシ。彼は『破壊神』として畏怖される存在であり、エロメロの兄である。また、リーハデスとは旧知の仲であり、実は同じ年齢。
「それで、ウツグが大変なことを企んでいるみたいね。魔王復活だとか、ティークの復活だとか、我々神々へ反旗を翻すとか」
「そうだな。あのウツグのことだ。おそらく、『今回』もまた面倒なことになるだろう」
ウツグは昔に一度天界の牢へ投獄されている。理由はとある勇者の封印への反対、そして神々への攻撃だ。
「一体どうなるのやら・・・」
本当にウツグの計画が実現でもすれば、おそらく世界が滅ぶだろう。
『破壊神』であるザンシは薄々とそう感じていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「アデラさん、おはようございます」
黒い髪をツインテールに結んだ少女がカーテンをがばっと勢いよく開けた。途端に太陽の光が差し込んできて、アデラは眩しそうに目元へぎゅっと力を入れる。
「起きてくださーい!」
少女は次にベッドの掛け布団を捲り上げた。とうとう起きる以外の選択肢がなくなったアデラが、ゆっくりと体を起こす。
「ダイア・・・おはよう・・・」
ダイア。そう呼ばれた少女がムッとした顔をする。
「寝癖に、口元に涎、服も皺々・・・しっかりしてください!」
「ごめんね・・・私こういうの苦手なの・・・」
「それなら私に任せてください」
ダイアが明るい笑みを浮かべた後、アデラの手を引いて家中を歩き回った。アデラとダイアは同じくらいの身長であり、傍から見ると同年代どうし遊ぶ子供にしか見えないだろう。しかし、実際にはアデラの年齢は三桁どころか四桁に突入していることから、見た目だけで判断してはならない。
ダイアが世話をしたことでアデラは身綺麗になった。いつも身に着けている白い服の皺はなくなり、寝ぐせも整えられ、顔も洗った。
「これでなんとか・・・!」
「ありがとう、ダイア」
アデラが礼を言って薄く微笑む。
「そう言えば私、『お兄ちゃん』という人の夢を見ることがあるんです」
ダイアの口から、確かにそんな言葉が出てきた。身綺麗になったアデラが目を見開く。ウツグから身柄を引き渡されてすぐ彼女の記憶を消し、アデラの世話係であると思い込ませたはずだ。しかし、どうしてかまだそんな記憶が残っていたとは。
アデラは静かに歩み寄ると、彼女の額へ触れた。
「アデラさん・・・?」
「ごめんなさい」
するとアデラが突如として意識を失った。彼女をベッドの上に横たわらせ、アデラは外へ。如雨露を片手に花畑へ向かい、水やりを始める。
不意に彼女の花畑に風が吹いた。微風が花々を躍らせる。
「もうじき、ウツグが取りにやって来るはず・・・」
ウツグの計画がそろそろ始動したはずだ。アデラに預けていたダイアを引き取りにくるだろう。
アデラは空を見上げて、眩しそうに目を細めた。
憎いくらいに、空は晴れ渡っている。




