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6.本部長
防弾仕様の黒塗りの公用車が、夜の街を静かに滑っている。
後部座席で県警本部長は窓の外を眺めていた。
街灯が流れるたび、一人の女の顔が脳裏をよぎる。
もう十五年ほど前の話だ。
捜査の過程で出会った女だった。
強情で、美しく、最後まで自分の言うことを聞かなかった。
本部長は薄く笑った。
「惜しい女だったな」
谷底へ落ちていく背中を思い出す。
腕には赤子が抱かれていた。
その後どうなったのかは知らない。
あの夜のことも、今となっては細部を思い出せなかった。
やがて車は巨大な門の前で停止した。
県警本部長の俸給では説明がつかないほど豪奢な邸宅。
門が開く。
玄関には妻と、妻より一回り以上若い家政婦が並んでいる。
二人とも笑顔を浮かべていた。
長年かけて作られた完璧な笑顔だった。
「お帰りなさいませ」
本部長は頷きもせずに屋敷へ入る。
靴を脱ぐ前に、家政婦が深く頭を下げた。
「お客様がお待ちです」
「誰だ」
「東城組の金本様でございます」
本部長はそこで初めて目を細めた。
「通せ」
治安というものは、正義だけでは維持できない。
法を守る者と、法の外にいる者。
その両方を使いこなしてこそ秩序は成り立つ。
本部長はそう信じていた。




