13.憤激
キィィィィン――――!
金属を擦るような羽音が廊下へ響く。
警察官たちが振り返る。
そこへ、オニヤンマが凄まじい速度で飛び込んできた。
足には匂い袋、後方には黒い雲のようなチャドクガの群れ。
「責任感、責任感、責任感!」
オニヤンマは天井近くを旋回しながら叫んだ。
「落ち着きがない!」
急旋回。
「忘れ物をする!」
反転。
「時間を守れない!」
加速。
「だから不真面目?」
オニヤンマは笑った。
「違うでしょ!」
複眼が激しく震える。
「私は毎日怒られてたのよ!机にじっと座っていられないって!身体が勝手に動くのに!頭の中に次から次へと考えが湧いてくるのに!」
羽音が甲高く鳴る。
「窓を見るなって怒られた!勝手に喋るなって怒られた!」
オニヤンマは息継ぎもなく叫び続ける。
「それで毎日、教科書を持って帰れって言うじゃない!ノート!プリント!連絡帳!体操服!絵の具!習字道具!明日は牛乳パックも持ってこい?そんなの覚えられるわけないでしょ!」
オニヤンマは構わず続ける。
「忘れもの!なくしもの!遅刻!」
彼女は空中で静止した。
「嘘つき?」
一瞬の静寂。複眼がぎらりと光る。
「違うわよ」
低い声だった。
「責任感ならあったし、私だって頑張ってた。でも出来なくて悔しかった」
オニヤンマは唇を噛んだ。
「脳の癖だった。でも誰も教えてくれなかった。全部性格の問題にされた」
羽音が再び高くなってゆく。
「努力不足、怠け者、不真面目、自堕落、怠慢、ぐうたら」
突然声が跳ね上がる。
「そして、連帯責任よ!」
彼女は笑った。
「誰か一人が忘れ物すると全員が立たされる!私のせいで班全員が怒られる!私のせいで学級会!私のせいで掃除当番追加!」
涙が滲んでいる。
「だからみんな私を嫌うの!わざとじゃない!悪意なんてない!でも恨まれる!」
オニヤンマは天井を見上げた。
「ねえ」
静かな声だった。
「本当に責任感の問題だったの?」
誰も答えない。
「違うわよね」
チャドクガの群れが羽ばたく。
「ただ、私達の脳に合わせられない不寛容な社会だっただけじゃない」
キィィィィィィン――――!
轟音とともにオニヤンマが再び加速した。
大勢の警察官を巻き込み、黒い虫の群れが奥へ雪崩れ込んでゆく。




