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桃太郎  作者: はな
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13/15

13.憤激

キィィィィン――――!


金属を擦るような羽音が廊下へ響く。


警察官たちが振り返る。


そこへ、オニヤンマが凄まじい速度で飛び込んできた。


足には匂い袋、後方には黒い雲のようなチャドクガの群れ。


「責任感、責任感、責任感!」


オニヤンマは天井近くを旋回しながら叫んだ。


「落ち着きがない!」


急旋回。


「忘れ物をする!」


反転。


「時間を守れない!」


加速。


「だから不真面目?」


オニヤンマは笑った。


「違うでしょ!」


複眼が激しく震える。


「私は毎日怒られてたのよ!机にじっと座っていられないって!身体が勝手に動くのに!頭の中に次から次へと考えが湧いてくるのに!」


羽音が甲高く鳴る。


「窓を見るなって怒られた!勝手に喋るなって怒られた!」


オニヤンマは息継ぎもなく叫び続ける。


「それで毎日、教科書を持って帰れって言うじゃない!ノート!プリント!連絡帳!体操服!絵の具!習字道具!明日は牛乳パックも持ってこい?そんなの覚えられるわけないでしょ!」


オニヤンマは構わず続ける。


「忘れもの!なくしもの!遅刻!」


彼女は空中で静止した。


「嘘つき?」


一瞬の静寂。複眼がぎらりと光る。


「違うわよ」


低い声だった。


「責任感ならあったし、私だって頑張ってた。でも出来なくて悔しかった」


オニヤンマは唇を噛んだ。


「脳の癖だった。でも誰も教えてくれなかった。全部性格の問題にされた」


羽音が再び高くなってゆく。


「努力不足、怠け者、不真面目、自堕落、怠慢、ぐうたら」


突然声が跳ね上がる。


「そして、連帯責任よ!」


彼女は笑った。


「誰か一人が忘れ物すると全員が立たされる!私のせいで班全員が怒られる!私のせいで学級会!私のせいで掃除当番追加!」


涙が滲んでいる。


「だからみんな私を嫌うの!わざとじゃない!悪意なんてない!でも恨まれる!」


オニヤンマは天井を見上げた。


「ねえ」


静かな声だった。


「本当に責任感の問題だったの?」


誰も答えない。


「違うわよね」


チャドクガの群れが羽ばたく。


「ただ、私達の脳に合わせられない不寛容な社会だっただけじゃない」


キィィィィィィン――――!


轟音とともにオニヤンマが再び加速した。


大勢の警察官を巻き込み、黒い虫の群れが奥へ雪崩れ込んでゆく。

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